三鷹市立図書館開館50周年記念図書館フェスタと武雄市図書館 #公設ツタヤ問題 | なか2656のブログ

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調布市の図書館で手にしたチラシによると、今年は三鷹市立図書館が開館して50周年の年だそうで、10月31日・11月1日には、それを記念して「図書館フェスタ」が開催されるそうです。




チラシの裏面を読むと企画がてんこ盛りで見ているだけで楽しそうです。
個人的にはつぎの企画が気になります。

●図書部!企画・ビブリオバトル
(本の魅力を5分で紹介。「読みたい」と思わせたら勝ちの書評ゲーム)

●ガーデンカフェ&キャンドルナイトカフェ
(緑に囲まれた特設屋外カフェ、みんなのブックカフェなど)

●「みんなで選ぶ図書館に50年後まで残したい本50冊」

●「現役小学生ママ達がオススメする小学校の朝読書に使いやすい絵本」

なお、若干マニアックかもしれませんが、つぎのような企画も気になります。
●本の修理屋さんコーナー

●図書館の秘密探検ガイドツアー

このふたつは、たとえば閉架図書の場所など、普段は一般人が入れなかったり見聞きできない経験ができるのではと興味深いです。

さらに、このチラシの裏面の下の部分を読んでみると、「図書館サポーター」を募集中とあります。三鷹市立図書館は多くのこのサポーターの方々により運営されているとのことです。

具体的には、本の修理、書架整理、装飾、イベントや展示の企画、花壇の手入れなどが列挙され、「これからの公共図書館について一緒に考えていきませんか」とあります。

公共図書館のあり方については、最近、佐賀県の武雄市が武雄市図書館の業務を2013年4月より、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者として民営化したことが大きな話題となりました。武雄市図書館はCCC傘下の蔦谷書店、スターバックス・コーヒーおよびツタヤが運営しており、その手法は賛否両論あるようです。

■関連するブログ記事
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた/#公設ツタヤ問題

武雄市図書館に肯定的な意見には、活気がある、街の町おこしになるといった趣旨の意見が多いようです。

一方、私がものの本や新聞記事などで読んだ限りでは、公共図書館の大きな任務のひとつは貴重な書物の保管であるところ、武雄市図書館はCCCグループが営業しやすい店構えを作成するために貴重な郷土資料を廃棄してしまったそうです。

これは、図書館法3条1号の定める、「郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(略)を収集し、一般公衆の利用に供すること」という図書館の重要な業務をおろそかにしていることになり、同法3条1号に反しています。

一般的な本や雑誌などであれば、書店や出版社から再度購入するであるとか、他の図書館から複写を依頼するなどの手立てを取れると思いますが、もし破棄されてしまった郷土資料が、他にもう存在しないのであれば、手の打ちようがありません。CCC・ツタヤと武雄市図書館の責任は重大です。

・佐賀新聞|書籍・DVDなど大量廃棄 武雄市図書館新装時に

また、図書館の机で学生が勉強をすることは全国でごくあたりまえの姿であると思うのですが、武雄市図書館では営利主義のためか、そのような机のスペースがどんどん狭くなり、しまいには公共図書館のはずなのに、スターバックスのコーヒーを買っていない客は出て行けといわんばかりの雰囲気となっているとのことです。

しかし、武雄市図書館はCCCやスターバックスの私立図書館ではなく、あくまでも市立の公立図書館です。

この点、図書館法17条は、公立図書館の入館料等について、「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」と定めています。

とはいえ、公立図書館ではまったくお金を徴収してはならないのかが問題となります。現実的な問題として、一般的な自治体の公立図書館に行けば、コピー機は1枚10円と有料ですし、新聞記事や裁判例等のPCのデータベースのプリントアウトも有料であることが一般的でしょう。

この点、図書館法に関するテキストによると、図書館法17条の立法の制定過程に照らすと、立法者はとくに、「入館料、貸出料、閲覧料の不徴収」の3点を同法17法の軸足にしていたと説明されいます(鑓水三千男『図書館と法』169頁)。

したがって、さすがにそんなことは武雄市図書館もしていないと思いますが、万が一、同図書館に入館するにはスタバのコーヒーを購入しなければならないという実務取扱いをしているのであれば、それは完全に「入館料」を取っているので、図書館法17条違反です。

また、図書館で椅子に座って机にむかうのは、図書の閲覧が目的でしょう。それを行おうとしている国民・市民に「スタバのコーヒー買ってますか?」と武雄市図書館の職員が問いただす行為は、事実上、「閲覧料」を請求していることと同義であり、図書館法17条を潜脱する行為であるといえます。

・武雄市図書館を利用しこれからも利用したいと考えている受験生の感想 #takeolibrary|Togetter

さらに、最近のニュースによると、CCCグループの民営化の効果により来館者数は増加したはずなのに、その図書館で本を借りる人が減ってしまったという状況もあるようです。

あるいは、武雄市は市図書化を町おこしの一環としてツタヤとスターバックスによる民営化に踏み切ったようです。一見、ハリウッド映画のセットに出てくるような、ハイソなブックカフェのような雰囲気により、いろいろな新聞記事などによると、たしかに訪問者数は増加しており、一定の効果はあるようです。

しかし、その結果、当然のことながら、CCCなどが公開しているデータなどを見てみると、武雄市図書館の本を借りている人で、武雄市の住民の方の割合は限定的となっています。

武雄市以外在住の国民・市民が本を借りてしまって、肝心の武雄市民が本を読めない、あるいは本を借りられないという状況が発生しているのではないでしょうか。

武雄市の市立図書館であるはずなのに、市民税を払っている主権者の武雄市民が本を借りられなかったり、借りにくかったりしたら、本末転倒でしよう。

また、うえであげたように、来場者数の増加と民営化が相まって、スターバックスでコーヒーを買わない客は席に座ることすら許されないという、公共図書館とはとても思えない本末転倒な状況が既に発生しているそうです。

公立図書館と民間の書店は役割分担をすべきではないかと思います。

すなわち、かんがん大音量のジャズやポップスの音楽が流れる刺激的な店内新刊を陳列して刺激を楽しむ民間の書店営利企業としての役割と、新刊のプロモーションはほどほどにして、従来からの価値のある本をしっかりと所蔵して、それらの古くからの本に市民がしっかりとアクセスできる場としての公共図書館は分けて考えるべきだと思います。

従来からの図書館では刺激が足りないと感じる方は、書店やCDショップ、貸しビデオ屋などにいけばよいでしょう。

また、政治家や公務員の方々のなかには、武雄市図書館を「町おこし」の成功事例ともてはやす方もおられるようです。

しかし、「町おこし」をしたいのならば、別に図書館ではなく、レジャーランドでも作ればいいだけの話です。

「町おこし」のために図書館を民営化し、町に集客ができたとしても、その結果、図書を市民に提供する、貴重な郷土資料をしっかり保存する、レファレンスサービスを十分行うなどの図書館法3条各号が定める図書館の本来業務がおろそかになっては、本末転倒です。

加えて、CCCグループはTポイントのポイントサービズをグループ企業で実施して、ポイントを顧客に付与するかわりとして、顧客の個人情報を収集してビッグデータとしてさまざまなビジネス上のリソースとしています。

武雄市図書館では入館証Tポイントがつくものとつかないものがあるそうですが、利用者の9割近くがTポイントの付いたものを選択しているそうです。


(武雄市図書館の利用カード。左がTポイント機能付きのもの。武雄市図書館サイトより。)

市民の誰がどんな本を借りたかということは、その借り手の内心・思想を推察する手掛かりにもなりかねないものであり、プライベートな、センシティブ(機微)な個人情報です。

このようなとりわけ取扱いに注意を要する個人情報を、個人情報を収集してビッグデータとして営業上の利益をあげることを得意とする民間企業たるCCCにゆだねてよいのか、大いに疑問です。

・国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータル|図書館問題研究会、佐賀県武雄市に対する要請「新・図書館構想における個人情報の扱いについて」を公表

■補足
CCCのTポイントと個人情報保護法については、こちらもご参照ください。
・Tサイト(CCC)から来た「アンケート」のメールが個人情報的にすごかった/利用目的の特定

あるいは、従来の司書の方々も館長以下すべてCCC所属の契約社員となったそうですが、図書館と蔦谷書店が併設されているので、お客さま対応に忙殺されているようであり、そのような環境化で市民がきちんとした司書のレファレンスのサービスを受けられるのか疑問です。

図書館法3条3号は、「図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること」を図書館の業務のひとつと定めています。(また、同法6号、7号、8号、同法13条。)

つまり、図書館の司書によるレファレンス・サービスは、図書館の「おまけ」のサービスではなく、図書館法3条各号や同13条に規定されている「本来業務」です。これをCCCと武雄市図書館がおろそかにしていたら大問題です。

このように、いろいろとみてみましたが、複数の武雄市図書館への訪問記などを読んでみても、2013年以降の武雄市図書館は、DVDの借りられるツタヤを併設したスタバのある蔦谷書店のすみっこにかろうじて図書館が一応残っているという雰囲気のようです。

なお、私の住んでいる地元にも、書店部門が大きい郊外型の書店兼貸ビデオ屋風のツタヤがあり、ときどき訪問します。

しかし、たとえば新書、ビジネス書、社会科学系などの分野の本棚はそれなりにあるものの、「嫌韓論」系の本ばかりが大量に並び、その一方で、池上彰、高橋源一郎、内田樹などの本はまったく置いていないなど、書架に並ぶ本の内容があまりにも偏っています。

そして、普通の本屋さんであれば、ある作家の新刊がでれば、書架にある以前の本も横に並べるなどの配慮を当然すると思うのですが、ツタヤはそういった本の整理を一切しないようです。

また、普通の本屋さんであれば、本が売れれば、書棚に本を補充するものだと思います。ところがツタヤはそのようなことをしません。本棚が空いたままです。新刊が売れても、何日たっても放置しています。

(ツタヤの実用書・ビジネス書の書架の手前に、売れ筋の新刊のコーナーがあるが、本が売れてしまっても、何日たっても本が補充されないまま放置されている。)

ツタヤは、店員の方々が本にまったく関心が無いのか、やる気がまったく無いのか、むしろ、「そういった整理・整頓は絶対してはならない」という業務命令がツタヤの本社から出ているのではないかと思うほどの徹底ぶりです。

あるいは、都心の渋谷の駅前には、いかにも若者受けを狙ったような、大きなカッコいいツタヤのビルがあります。

何度か行ってみたのですが、下のほうの階は、DVD、CDやマンガなどがかなり充実しているようです。

しかし、上のほうの階にある、新書、ビジネス書、社会科学などの分野の本棚は、あまりの内容の貧相さにびっくりしてしまいました。これでは渋谷近辺に通う会社員などは二度と来ないであろうと思いました。

このような企業文化の民間企業であるツタヤ・CCCが本当に公立図書館を運営できるのか、非常に疑問です。

そもそも図書館はリクリエーション機能だけでなく、国民の「知る権利」に奉仕する機関です。「知る権利」は表現の自由(憲法21条)のひとつです(塩見昇・山口源治郎『図書館法と現代の図書館』26頁)。

表現の自由を支える価値は2つあるとされています。一つは個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させる自己実現の価値と、もう一つは、言論活動により国民が国および自治体の政治的意思決定に関与するという自己統治の価値です(芦部信喜『憲法[第3版]』162頁)。

つまり、図書館は、わが国の政治体制である民主主義の骨格をなすものです。

このように、国民の人格の成長と、民主主義の二点に奉仕する機関を民間企業に委ねることは本当に妥当なのでしょうか。

このような事業は学校などと同様に、民主主義国家を運営するための最低限のコストとして、税金で自治体・国などの公的部門が担うべきなのではないでしょうか。

長年、日本やフランスの公務員制度を研究なさっておられる行政法学者である晴山一穂先生は、『公務の民間化と公務労働』のなかで、このような「官から民へ」あるいは「公務の民営化」の問題点を端的につぎのように述べておられます。

「こうした『官から民へ』の新自由主義的改革とそれにともなう公務と公務員の範囲の縮小が、行政の公共性の後退と行政責任の放棄をもたらすものであり、国民・住民の権利保障の観点から見て大きな問題をはらむものである」(晴山『公務の民間化と公務労働』41頁)

現在、国・地方自治体の負債が1000兆円を超えている現状があり、行政に無尽蔵に予算を使うわけにはいかないのは確かに事実です。しかし予算をカットするにしても優先順位をつける必要があるのではないでしょうか。

現在の内閣は消費税の増税をし、国民年金保険料をさらに払えと国民に要求する法案を作成しながら、一方で「地球儀外交」と称して何兆円ものカネを海外のさまざまな国・事業に気前よくばらまくことを表明していますが、海外よりは、まずは日本国内の国民・市民のことを考えるべきなのではないでしょうか。

また国内に対する予算であっても、たとえば総務省の「変な人募集」事業(「異能(Inno)vation・独創的な人特別枠」事業)などといった、それこそ何のために国・公的部門が行っているのか意味不明な事業にも国民の血税が投入されています。

”日本にもスティーブ・ジョブズを”というのなら、NEC、角川アスキー総研、野村総研などの民間部門やNPOやNGOにでも、彼等の予算で勝手にやらせておけば十分でしょう。

このような一部の大企業の私腹を肥やすだけのような無駄な事業の予算をどんどんカットして、社会保障分野や労働分野、地方自治分野など、国民の地域生活や文化に真に必要な事柄の予算を確保すべきだと思います。

すっかり蔦谷書店およびレンタルビデオのツタヤとスターバックスに占拠されてしまった武雄市図書館のような残念な例もありますが、三鷹市立図書館のような地域の住民に根差した古き良き公共図書館がわが国には津々浦々にあります。

私はわが国の納税者、そして主権者として、このような従来からの公共図書館の地道な取り組みを微力ながら応援したいと思います。

■参考
・鑓水三千男『図書館と法』169頁
・塩見昇・山口源治郎『図書館法と現代の図書館』26頁
・芦部信喜『憲法[第3版]』162頁
・『ず・ぼん』19号(特集:武雄市図書館)
・「武雄市新図書館構想について」『みんなの図書館』2013年2月号
・晴山一穂・西谷敏・行方久生『公務の民間化と公務労働』41頁
国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータル|図書館問題研究会、佐賀県武雄市に対する要請「新・図書館構想における個人情報の扱いについて」を公表
佐賀新聞|書籍・DVDなど大量廃棄 武雄市図書館新装時に



ず・ぼん19: 武雄市図書館/図書館送信/ほか (図書館とメディアの本)



図書館と法―図書館の諸問題への法的アプローチ (JLA図書館実践シリーズ 12)



新図書館法と現代の図書館



公務の民間化と公務労働 (自治と分権ライブラリー)





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