もう、わが子を小国小学校には通わせない~児童を守らない学校に見切りつけた伊達市の母親 | 民の声新聞

もう、わが子を小国小学校には通わせない~児童を守らない学校に見切りつけた伊達市の母親

40代の母親はきっぱりと言った。「4月からは別の小学校に通わせます」─。福島原発事故で拡散した放射性物質による汚染が深刻な伊達市霊山町下小国地区。その一角にある小国小学校も、例外ではない。敷地のすぐ横の排水溝で50μSVを超すなど、子どもたちへの影響が心配なほど放射線量が高い。にもかかわらず、国も市も「除染で安全が確保された」として、避難住民の帰還を促し始めている。不本意ながら、避難先から同校に子どもを通わせてきた母親はついに、子どもを守ろうとしない学校に見切りをつけた。それまで転校を全力で拒んできた3年生の息子も、首をたてに振る。「健康被害が出てからでは遅い」と、母親が決意に至った胸の内を語った。


【「線量下がった」と通学支援打ち切る市教委】

もはや、我慢の限界だった。

福島原発の水素爆発からもうすぐ2年。これまで、わが子のために様々な場面で学校と闘ってきた。

もちろん、早くから転校させたかった。わが子を高線量の校舎に通わせることに唯々諾々としてきたわけではない。原発事故からほどなくして、息子に転校しようと提案した。あなたを守りたい一。この母の言葉をしかし、息子は号泣しながら拒否した。「学校だけは変えたくない」。これまで見せたことのない、大声での号泣だった。その姿に母親は、転校させることをとりあえずあきらめた。その代わり、内部被曝回避など、全力で子どもを守ろうと誓った。

「下小国から今の住まい(伊達市内の比較的放射線量の低い地域)に避難をするのがやっとでした。無理やり、親に従わせることはしたくなかったんです。息子の意思を尊重したかった。子どもには、子どもなりのコミュニティが学校にはありますからね。その分、被曝回避のためにしてあげられることはは全てやってあげようと思いました」

下小国地区の一部が「特定避難勧奨地点」に指定されたことを受け、市の通学支援も始まった。息子は毎日、片道3000円を超す道のりを、避難先からタクシーで小国小学校に通ってきた。だがこれも、勧奨地点の解除を受けて3月末で打ち切られることが決まっている。保護者に対し、1月24日付で市教育長名の通知が配られた。そこにはこう、記されている。

「自宅に戻られても影響無いレベルになります…」

説明会を開くでもなく、紙切れ1枚で打ち切りを告げる市教委。胸の中で、何かが音をたてて動き始めるのが分かった。改めて、息子に転校を求めてみた。返事はYESだった。今度は泣かなかった。いつかこの日が来るだろうと、避難先の学習塾に通わせるなどの努力も実った。

「本心ではいやみたいですけどね」と苦笑する母。しかし、あと3年も高線量の学び舎に通わせることなど、出来るはずがない。4月に1年生になる妹も、兄と同じ小学校に入学する予定だ。
民の声新聞-通学支援
避難先からタクシーで毎日、小国小学校に通学

している小学生。特定避難勧奨地点の指定解除

を受け、通学支援は3月末で打ち切られる

(保護者提供)


【校長自ら「これ以上は気持ちに沿えない」】

原発事故以降、この母親は小国小学校幹部の言動に落胆させられ続けた。

「子どもたちだけでも、放射線量の低い地域に移してほしい。それが駄目ならせめて体育の授業だけでも」という願いは、ことごとく跳ね返されてきた。

昨年7月、PTAなどが校舎周辺の放射線量を測定したが、数値が保護者に開示されたのはずっと後になってからだった。業を煮やした母親は昨年10月、知人の協力を得て自ら放射線量を測定。敷地内の至る所で、空間線量が1.0μSVを上回った。屋外プール脇のコンクリート表面の汚染は、27万ベクレルに達していた。11月には市議会議員が測定をしたが、結果は同様に高いものだった。

母親らの求めもあり屋外プールを使った水泳の授業は中止されたが、秋の持久走大会は校庭で行われた。母親は息子を本番だけ走らせ、練習は参加させなかった。息子は「みんな走っているのに、どうして僕だけ…」と口にしたが、ていねいに説明した。だが、わが子を思っての行動が、徐々に教師らの反感を買うようになった。電話連絡は数えきれないほどあった。直接、教頭や校長と話すことも少なくなかった。そのたびに、時間を惜しまず被曝回避への想いを言葉で伝えた。しかし、母の想いと教師らの心が交わることはなかった。それどころか、校長はこんな言葉を言い放ったという。

「われわれは最善のことをやっています。これ以上、お母さんたちの気持ちに沿うことはできません。ここは伊達市の学校です。私たちは公務員ですから。何なら、私立学校もありますよ」

この学校の教師たちは教え子を守る気などない─。母親は確信した。「念には念を押した対応をしたいのが親というものでしょう。それを『嫌なら私立小学校に行け』と言わんばかりの物言いをするとは…」。
民の声新聞-下小国②
民の声新聞-下小国④
手元の線量計で55μSVを超えたプール横の排水溝。

通学路では0.7μSV超。それでも市教委は、汚染が

「自宅に戻られても影響無いレベル」との認識だ

=小国小学校で2012年12月16日撮影


【軽く一蹴された「市長への手紙」】

伊達市の幹部は取材に対し「55μSVと言っても、全ての地点ではないでしょ?」と答えた。局所的に非常に放射線量が高い個所があるだけで、総じて考えれば児童たちの身体に影響を及ぼすような状況ではない、というスタンス。「これまでも除染を行ってきているし、今後も除染を進めていきたい」と市幹部は繰り返す。

では、わが子を守ろうと奔走する母親は心配性なのだろうか。

「結局、大丈夫じゃなかった、あのときこうしておけば良かったと後悔したくないんです。自分が正しいと思ったように動かなければ、子どもは守れません」と母親は語る。「健康被害が出てからでは遅いんです」とも。わが子を高濃度汚染から少しでも遠ざけたいと思うのは、当然のことだ。それすら否定されるのだとしたら、誰が子どもを被曝から守るのか。
母親は昨年、仁志田昇司市長に宛てた「市長への手紙」の中で「校長や教頭は自分の立場ばかり守ろうとしている様にしか感じません」「小学校の敷地に線量が高いところがあるにもかかわらず、自分たちで下げる努力もしない」などと訴えた。「特定避難勧奨地点」が地域丸ごとではなく世帯ごとの指定になったことで住民が分断された、とも綴った。

12月中旬、仁志田市長から返事が届いた。だが、母親は木で鼻をくくったような文章に、ますます怒りが高まったという。

「小国小学校では校長を中心に教職員が一丸となって、放射線に関する諸問題に対処しております。保護者の方の要望に対しても、その意向を考慮しながら児童の安全を守るための具体的な対策を実施しております」

まずは市長自ら、小国小学校の放射線量を測定してみることだろう。高線量を実際に確かめてもなお、児童たちが置かれた状況に問題が無いのか。考えをお聞かせ願いたい。


(了)