8 3.11 その2
その日の新人研修が終わりデスクに戻ったときだった。
緊急の社内メールが届いた。
一斉メールだったらしく、室内がざわめく。
「日本において、宮城県沖を震源とする巨大地震が発生した模様。福島県の原子力発電所が被害を受けたという情報もある。甚大な被害が予想される。日本に親類・縁者がいるものは上長に申し出ること。特別休暇を許可する用意がある。以上」
宮城!
「課長!私が休暇をいただくことはできますでしょうか。」
「パク・ユチョン君。日本に親類がいるのかね。」
「はい・・・。婚約者が、います。」
「そうか。詳細は確認しなきゃ分からんが、とりあえず申請だけ出して。明日は休みだから、早いほうがいい。安否確認が必要なものは退社していいという連絡が来ている。君も今日はもう帰りなさい。」
「はい、ありがとうございます。」周りに挨拶し、社を後にした。
どうする。どうしたらいい・・・。
よりによって、なんで今日なんだ・・・。考えがまとまらなかった・・・
バスが来るのが遅い・・・。イライラと、意味もなく時計を見た。
その時携帯がなった。ジェジュンからのメールだった。
「ニュース見たか?日本が大変らしい。でも、彼女はきっと大丈夫だよ。落ち着けよ。仕事終わったら行くから。」
ヒョン。ありがとう。
「メールありがとう。会社から許可が出たので、今帰るところ。部屋で待ってる。」
部屋に着くと、パソコンを立ち上げた。
やはり裕子からメールは来ていない。
停電しているんだな、きっと。メールも電話もだめか・・・。
ネット上には、すでに押し寄せる津波の映像が溢れていた。
部屋の中を歩き回り、いつの間にか親指を噛んでいた。
・・・そうだ、ツイッター。
ユチョン自身は普段ツイートすることはほとんどなかったが、裕子をフォローするためにアカウントは持っていた。
あった。16時過ぎに裕子がツイートしていた。
「私も家族も無事です。家も大丈夫です。心配しないで。」
よかった・・・。深いため息が出た。
「安心しました。無事でよかった。」返信にはそれだけしか書けなかった。
それからまもなくジェジュンがジュンスを伴ってやって来た。
「ジュンスも来てくれたんだ。ありがとう。」
「どう?裕子さんと連絡取れたか?東京は東北ほどじゃないんだろう?」
「たぶん。でも、今日裕子さんは仙台にいるんだ。実家に帰っていて。」
「ええっ


「でも、大丈夫。無事だったよ。さっき、ツイッターに書き込みがあるのを確かめたから。」
「脅かすなよ

「じゃあ、安心したところで腹ごしらえしようよ。サッカーの練習が終わってすぐ来たから腹ペコだよ。」
「ごめん、二人で食べて。食欲がない。」
「なんだよ青い顔して・・・。おかゆ買ってきたから、少しでも食べろ。へばるぞ・・・。」
津波の映像を見すぎたせいか、ユチョンは気分が悪かった。
「うん、わかった。もらうよ。」無理にでも口に運んだ。
・・・・・
つけっぱなしにしていたモニターに「新しいツイートがあります。」と表示された。
画面を更新すると・・・
「父と連絡が取れなくなりました。津波に流されたかもしれない・・・。」
動画お借りしました。