著者としては、なんとも言えぬ喜びを感じる日です。
ということで、今日は、この本の中から、サイエンスはモーツアルトの名曲のゆらぎによく似ているという話。
私は、モーツアルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークという曲が大のお気に入りです。
仕事が立て込んで疲れきってしまったときは、紅茶を飲みながらこの曲を聞くというのが私の日課となっているのですが、そのたびに感じることがあります。
それは、揺らぎの本当の価値は調和にあるということです。
モーツアルトの曲は、規則性と不規則性が絶妙なバランスで揺らいでいるのが特徴です。
この揺らぎが生み出す調和が、聞く人を何ともいえぬ心地良い気分にさせてくれるのです。
読んでいただくと、いずれの分野も、モーツアルトの曲と同じように、揺らぎは秩序を壊すものではなく、むしろ調和を築き上げているものだということがお分かりいただけるはずです。
原子は他の原子とともに調和を保ちながら揺らぐからこそ、多様な化学反応を起こします。
素粒子も、ひもが調和を保ちながら揺らぐからこそ物質を形作ります。
宇宙は量子の揺らぎが調和を持ったからこそ、豊かな銀河や銀河団を形成しました。
人体も心も、調和を持って揺らぐからこそ、変わりゆく環境に柔軟に適応できるのです。
実は、本書を執筆するにあたり、私は隠れたテーマを設定していました。
それはサイエンス全体が、それ自体で揺らぎを持った調和をなしているということを、この一冊の本で示すことです。
宇宙も素粒子も人体も、最先端のサイエンスが描き出す姿は、それぞれ実にバラエティに富んでいます。
しかし、サイエンスの全体を俯瞰して眺めると、私の目には各分野の研究が大きな揺らぎを示しているように見えてくるのです。
しかも、それらは勝手気ままに揺らいでいるのではなく、サイエンス全体の調和を見事に築き上げているように感じられます。