◆平成25(2013)年5月17日 読売新聞 東京朝刊
[きしむ親子]家を失って(1)育てられない親たち(連載)
◇「周りに頼れる人いれば」
家庭を失う子どもが増えている。離婚、暴力、育児放棄--。
親の事情で児童養護施設などに預けられた約3万7000人の多くが心に深い傷を負い、施設を出た後も貧困や就職難に直面している。
親子の絆をなくして苦悩する子どもたちの姿を追う。
「お父さんとお母さんがいなくなって、大変だったんだ」。
東日本の児童養護施設で暮らす男児は今年2月、担当の女性職員に初めて本音を漏らした。
男児は兄と暮らすこの施設から、幼稚園に通う。
兄弟は約2年前、東日本のラブホテルの一室に、子どもだけで取り残されていた。
母親に連れられてホテルを転々とした末、置き去りにされたのだ。
兄弟は警察に保護され、父親に引き取られた。だが、父親との暮らしも長くは続かなかった。
父親は「仕事を探す」と言い残し、突然、出ていってしまった。
昨年冬、兄弟は再び保護され、今の児童養護施設に預けられた。
施設に入った当初、兄弟はおびえた様子だった。
兄を小学校に転入させるため、職員がランドセルを渡しても、黙ってうなずくだけ。
最近、施設生活に慣れて徐々に明るさを取り戻しつつある。
父親もようやく面会に訪れた。だが、施設で両親の話はほとんどしない。
「親から2度も見捨てられた傷は深い。それでも嫌われたくないと思って、親への不満は言わないようにしているようだ」。施設の男性園長はそう話す。
◎
厚生労働省などによると、少子化で18歳以下の人口はこの10年で1割も減ったのに、児童養護施設や乳児院、里親などに預けられた子どもは約2500人増え、2011年度末には約3万6700人に上った。
都市部の施設は満杯で、東京や大阪などは他県の施設に受け入れを要請している。
全国の児童相談所(児相)が11年度、虐待を受けるなどした子どもを一時保護した件数は約2万件で、10年前より約2500件増加。
児相だけでは対応できず、民間の児童養護施設などに一時保護を委託したケースも約1万件と倍増した。
大阪市で児童相談所長を務めた津崎哲郎・花園大特任教授は「虐待が増えただけでなく、子育て中の家庭を近隣の人で支える仕組みが失われ、貧困などで育てられなくなると、すぐに施設で保護せざるを得なくなっている」と指摘する。
◎
「殺すことしか思いつかなかった」。
2月22日、水戸市の水戸拘置支所で、長峰美由希受刑者(30)は取材に対し、そう話した。
昨年9月に茨城県つくば市内のホテルで産んだばかりの女児を殺害。
今年2月15日に殺人と死体遺棄の罪で懲役6年の判決を受けた。
長峰受刑者は幼少時に育児放棄され、養父母に育てられた。
だが、中学1年生の時に自分が養子であることを知り、「養父母も他人だと思うようになり、誰にも悩みを話せなくなった」。
高校卒業後は風俗店で働きながら各地を転々とした。
04年に1人目の女児を産み、1歳の時に置き去りにして家を出た。
4年前、出会い系サイトで知り合った男性との間に長男をもうけて結婚したが、ほどなく長男を連れて別
居した。
昨年、また別の男性との子を妊娠。育てられないと思い、出産直後に殺害した。
「養子だと知ってから、ずっと自分は一人なんだと思って生きてきた。周りに頼れる人がいれば、こんなことにはならなかったかもしれない」
長峰受刑者のように、親が子どもを置き去りにするケースは後を絶たない。
全国児童相談所長会が10年度に初めて行った児相への調査では、子どもが置き去りにされたケースは09年度までの3年間だけで241件。
親が判明している子どもの平均年齢は5・2歳、親が分からない子どもの平均年齢は0・1歳で、高速道路のサービスエリアのトイレや自動車のトランクの上、漫画喫茶などで見つかった例もあった。
才村純・関西学院大教授(児童福祉論)は「望まない妊娠などで精神的に追いつめられている親は多いが、行政に相談するハードルは高い。民間と連携して親の相談に応じ、孤立化を防ぐ体制を作る必要がある」と話す。
長峰受刑者の長男は事件後、児童養護施設に預けられた。長男への思いを尋ねると、長峰受刑者は「ごめんね、としか言いようがない」と涙ぐんだ。
◆平成25(2013)年5月17日 読売新聞 東京朝刊
新潟市が乳児院新設へ=新潟
児童虐待の増加を受け、新潟市は16日、乳児院を2015年度までに同市川岸町の市児童相談所の隣に建設すると発表した。
現在、県内にある乳児院は見附市の私立施設(定員35人)のみで、公立の乳児院は県内初となる。
乳児院は児童福祉法に基づく施設で、児童虐待などで保護者の適切な養育を受けられない乳児(主に0~2歳児)を保護し、退所後も家庭の相談に乗るなどの支援を行う。市こども未来課によると、新設する乳児院は定員20人程度で、今年度中に用地取得と設計を行い、14年度に建設する予定。
建設費の一部として、昨年10月に「福祉に活用してほしい」と遺言を残し、死亡した新潟市の元建具職人小野芳春さんからの寄付金9200万円を充てる。
記者会見した篠田昭市長は「見附市の乳児院は常に満員に近い状態で、新たな施設の必要性は高い」と語った。
新潟市が把握した児童虐待件数は、2007年度に450件だったが11年には744件に増加した。
特に乳児は66件から119件へと2倍近くに増えた。
◆平成25(2013)年5月17日 毎日新聞 地方版朝刊
里親制度:「愛の手」待つ子、全国に3万人 JR大阪駅前で家庭養護促進協会PR /大阪
里親制度への理解を深めてもらおうと、家庭養護促進協会(大阪市天王寺区)が16日、大阪市北区のJR大阪駅前で街頭キャンペーンを行った。
大阪曽根崎ライオンズクラブの協力でチラシ付きのおもちゃ約3000個を準備し、約20人が家族連れや会社員らに手渡した。
同協会は、毎日新聞地域面の連載「あなたの愛の手を」のコーナーで、施設で暮らす子どもたちを紹介し、里親を探す活動を続けている。
さまざまな事情から親元を離れ、児童養護施設や乳児院で暮らす子どもは全国に約3万人いるが、里親に委託されている子はその1割に満たない。
同協会の岩崎美枝子理事は「子どもにとって、ごく当たり前の家庭生活や特定の大人に愛される経験はとても大切。里親はまだまだ不足しており、多くの人に制度を知ってほしい」と話した。
◆平成25(2013)年5月16日 朝日新聞 名古屋朝刊
虐待から守る都市宣言 桑名市、6月議会提案 相談急増、死亡事件も /三重県
昨夏、炎天下の車の中に放置された乳児が死亡し、母親が逮捕される虐待事件があった桑名市で、市が6月議会に子どもの虐待を防ぐ都市宣言を提案する。
希薄になった地域のつながりを深め、虐待防止への意識を高めて対策を進める。
名称は「子どもを虐待から守る都市宣言」を軸に調整中で、「家庭・地域・学校・関係機関・行政が一丸となり、『子どもたちが安心して健やかに成長できるまちづくり』を推進する」ことなどを決意する内容。
6月12日開会、7月2日閉会予定の6月議会に提案され、議論される。市子ども家庭課によると、虐待を防ぐ都市宣言をする自治体は県内初。
全国では、いじめ、配偶者や恋人らへの暴力(ドメスティック・バイオレンス=DV)を防ぐことも含めた都市宣言をする自治体があるという。
宣言は、警察や主任児童委員会、自治会連合会など36機関でつくる「要保護児童及びDV対策地域協議会」が、昨年1月から検討してきた。
桑名市では2002年に小学2年の女児が母親に殺害される事件が、04年に2歳の女児が母親の内縁の男に殴られて死ぬ事件が起き、議会から対策を求められたのがきっかけだ。
検討しているさなかの昨年8月にも、炎天下のパチンコ店の駐車場に止めた車の中に置き去りにされた生後5カ月の男児が死亡し、母親が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕、起訴される事件が起きた。
市子ども総合相談センターに12年度に寄せられた相談でも、虐待に関する相談が全体の3割、1056件と突出しており、316件だった09年度の約3倍に上っていることから、宣言は虐待防止に重点を置く。
市子ども家庭課の担当者は「虐待をしつけだと認識している人もおり、虐待防止への意識がまだ広く市民に伝わっていない。都市宣言を機に啓発活動に力を入れていきたい」と話している。
◆平成25(2013)年5月16日 毎日新聞 地方版
県警:相談内容オンライン共有 システム導入を検討 /神奈川
県警の石川正一郎本部長は15日の定例記者会見で、警察署などが受理した全ての相談内容をオンラインに集約して共有する「警察相談総合管理システム(仮称)」の導入を検討していることを明らかにした。
来年度予算での事業費計上を目指すという。
県民から寄せられた相談内容の緊急性を素早く判断し、管轄や部署を超えた捜査対応につなげる効果を期待している。
県警広報県民課によると、昨年1年間に県警に寄せられた相談は約5万4000件。
各署は受理した相談、意見、要望内容はデータ化しているが、関係部署との共有はメールやファクス頼みだ。
新システムを導入すればリアルタイムでの情報共有が可能になり、検索機能によって複数の相談内容を関連付け、緊急性の判断も素早くできるようになるという。
近年各地で相次いでいる児童虐待やストーカー事件は、警察や行政機関への相談後に重大な事件へ発展するケースも少なくない。
先月には横浜市磯子区の雑木林で山口あいりちゃん(当時6歳)の遺体が見つかり、母親と元同居相手の男が死体遺棄容疑で逮捕、起訴された。
石川本部長は「児童虐待だけでなく、行方不明などのあらゆる事案の危険性の判断に資するシステムにしたい。予算要求の最優先項目として取り組んでいく」と述べた。