【読書】「読ませる」ための文章センスが身につく本/奥野宜之 | THE ONE NIGHT STAND~NEVER END TOUR~

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「40歳からの〇〇学 ~いつまでアラフォーと言えるのか?な日々~」から改題。
書評ブログを装いながら、日々のよしなごとを、一話完結で積み重ねていくことを目指しています。

「読ませる」ための文章センスが身につく本/奥野宜之


「こんな文章本が欲しい」
と思っていたものが形になったような本です。

いままで、それなりの数の文章の書き方本を読んできました。それぞれ役立つものだったし、なかには繰り返し読んで参考にしている本もあります。

しかしこの本はそうしたものを完全に凌駕しています。ある程度正確な文章を書くことはできるけど、いま一歩、読み手に伝わっていないなあ、と感じている人には必読書です。

<目次>
第1章 つかむ――読みはじめのハードルをいかに超えるか
第2章 のせる――醒めずに心地よく読み続けてもらうために
第3章 転がす――読み手の意識をコントロールする
第4章 落とす――論理としての「正しさ」よりオチの「納得感」


いくら正しくてわかりやい「明文」であっても、読んでもらえなければ意味がない。というわけで、「明文」の上をめざす人に向けて、文章本を書こうと思った。(p245)

「おわりに」に書かれている一文ですが、この本の存在意義を一言で表していると思います。

正しくてわかりやい文章を書くことは基本です。基本はおろそかにしてはいけないし、常に心がけていないといけないとは思っています。しかし、そうした文章が書けたからと言って読んでもらえるとは限らない。
「読んでもらわなくてもかまわない」
という人もなかにはいるでしょう。しかし、自分用のメモや誰にも見せない日記ならともかく、想定読者は必ずいます。それが不特定多数か、ある特定のグループか、たった一人に向けているのか、は別にしても、です。

やはり読んでほしい人に届かないと書く意味が乏しくなります。だからといってネットなどで散見する
「吊り気味のタイトルをつけろ」
「時事問題抜結びつけて、一般論の逆を行け」
などという方法は、正直「なんだかなあ」としか思いません。

奥野さんが言われていることはそんな姑息な手法ではない、ということだけは言っておきます。さまざまなテクニックを紹介されていますが、その根底には
「読者に対する配慮・親切心」
が貫かれています。巷で言われている、読んでもらうためのノウハウは、一番大切なことが抜け落ちていると僕には思えます。

僕自身が、「これは!」と思ったところはいくつか紹介してみます。あくまで「僕にとって」です。
使えるとテクニックは人によって違うので、より具体的なことはぜひ本書を読んでいただきたいと思います。いま一歩、壁を越えられないと思っている人にとっては、必ず参考になり、真似したいと思う箇所があるはずです。

「ですます体(敬体)」で書かれた文章に、ところどころ「である体(常体)」を入れる。これは小説家や文芸系の人がよくやる方法ですが、ビジネスで文書を作るときにも、非常に「使える」手です。(p150)

この点については、僕は相当意識的につかっているのですが、ときどき「敬体と常体を混ぜて使うのは間違っている」というご指摘をいただきます。基本、そういう声は無視するのですが、あまり言われると「やっぱり邪道なのかな」と思ってしまったりします。

奥野さんにお墨付きをいただけたようで、自分のやり方に確信がもてました。「小説家や文芸系の人がよくやる方法」とありますが、大昔、文学少年だったことがいま生きているという気もします。(最近、ほとんど小説を読んでないですが、、、また少し読もうかな。)

もちろん、バランスを崩すような使い方はダメですから、注意しながら使いたいと考えています。

伊丹十三は、作家の山口瞳から文章について「不必要な漢字はなるたけ使わない」「難しい漢字は遠慮なく使う」といったことを習ったそうです。(p127)

これは、無意識のうちにやっているような気がします。無意識ですから良い使い方になっているかどうかは自信がないですけど。

浪人生のころ、「わかりやすい文章を書くためには、全部ひらがなで書くくらいのつもりでいろ」と教わりました。できる限りそうしたいと思って書くのですが、実際にひらがなばかりだと読みにくくなります。知識をひけらかしたい(笑)という欲望も交って、ときどき難しい漢字(熟語)を混ぜると文章が引き締まる。そんな経験を過去にしているので、無意識にやっていたのだと思います。

山口瞳は、以前、かなり憧れた小説家です。その人がこう言っているというのは心強い。これからは意識してやっていきます。

他にも、「漢字をひらく」「熟語をほどく」や「字面につても考える」と言った、いままで気にしてもいなかったことが書かれていました。(「ひらく」「ほどく」「字面」が気になった人は本書を手に取ってください。)

たぶんこれから、文章を書くときに、折に触れて読み返すことになる本だと思います。「プロの技」として紹介されている文章も素晴らしいものばかりです。読み物としても十二分に面白い本ですが、せっかくですか、ひとつでもふたつでも実践に結び付けていくようにします。

PS
ちなみに、文章をまったく書いたことがない、というような人にはいきなりは薦めません。読み物としてはいいですが、具体的に「書く」ということについては、まず基本の、正しくてわかりやい文章がある程度書けるようになってからでないと、奥野さんのテクニックは使えないと思います。そういう人には別にお薦めの本があります。「ある程度」でいいので、基本を押さえた上でこの本に進んでほしいです。