☆アスピリンを飲むのが心配です | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.11.3「☆NSAIDsとCOXとは? 基礎編」2013.11.5「☆NSAIDsは着床を妨害するのか?」では、基礎的なことから着床までのNSAIDsとCOXの関係についてお示ししました。今回は、本件に関する4件の質問にお答えしたいと思います。

Q1 43歳、高度治療3年目、全く着床しません
先日検査をしたところプロテインS遊離型47%の為、バファリン配合錠A81を移植2日前から就寝30分前に1錠飲むことになりました。主治医よりお守りのようなものだから飲み始める日は厳守しなくて良いと言われています。バファリン配合錠A81は着床を阻害するのでしょうか。私のブロ友さんでも高齢で凝固系で引っかかっている人は結果が出ていません。

Q2 3回のSEET法&胚盤胞移植が着床しません
私の通っている病院でも、胚盤胞移植後のバイアスピリンとステロイドの1週間内服がスタンダードになっております。着床不全の検査はしていません。バイアスピリンは、着床を阻害している可能性があるのでしょうか。病院では内服するのが普通という提案なので、今まで、内服していたのですが、原因精査も促されないまま、同じ方法で移植を繰り返すことになるので、何か試せることがあればと思っています。

Q3 不育症
不育症検査後、アスピリンとユベラを移植周期の生理後の早い段階で飲み、初の妊娠反応陽性が出ました。次回も同様で良いとの事でしたが、アスピリンは着床を阻害するのでしょうか。それは個体差があり、私の場合はこの飲み方で大丈夫という事で解釈して良いのでしょうか。

Q4 抗PE抗体陽性、第2子希望
私のかかっている病院では、胚移植の後にバイアスピリンとメドロールが処方されますが、バイアスピリンは、着床の時期が過ぎるまでは飲まないほうがよいでしょうか。なお、第1子の妊娠時は、ヘパリンとバイアスピリンを妊娠判明後5wから28wまで使用していました。

A 2013.8.27「Q&A55 第Ⅻ因子低下 プロテインC活性低下」および2013.8.28「Q&A55の補足 アスピリンどうしたらよい?」が大きな誤解を招いてしまい、大変申し訳なく思っております。結論的には、低用量アスピリンは着床にプラスに働くと考えられます。

ポイントは、
1 着床にはCOX2が必要と考えられていますが、着床部位周辺の限られた場所でのことであり、子宮全体やましてや身体全体のCOX2が必要なのではありません。胚盤胞が子宮内膜に近づくと炎症反応が局所的に生じ、その場所だけに炎症性のプロスタグランジンがCOX2によって産生されるものと考えられます。仮にNSAIDsで血液中のCOX1やCOX2阻害が生じたとしても、子宮内膜の着床部位では影響しない可能性がありえます(これは証明されていません)。
2 アスピリンは他のNSAIDsとは性格が大きく異なる薬剤であり、同種のものとしてひとくくりにすることが問題であると考えます。
3 さらに、低用量アスピリンは通常量のアスピリンとは全く異なる作用(逆の作用)を示します。まさに、「アスピリンは少量なら効果があるが、普通量では逆効果になる」という「アスピリンジレンマ」です。もともと「アスピリンジレンマ」は血栓に関してのことを意味しているのですが、着床にも同じ事が言えるのではないかと考えています。「アスピリンジレンマ」については、2013.11.3「☆NSAIDsとCOXとは? 基礎編」を参照してください。

今まで何度も妊娠していた方が突如妊娠しなくなった場合、その前後の違いを見極める必要があると思います。もし、アスピリンしか違いがないとしたら、やめてみる、あるいは量を減らしてみる価値はあるかもしれません。薬剤の効果には個人差があるためです。「アスピリンジレンマ」の少量とは一体いくつのことなのか、個人差はどの程度あるのか、明らかではありません。もし、アスピリンを使い始めてから上手くいかなくなった方に関しては、低用量アスピリンをさらに低用量にするなどの対策が有効かもしれません(これは証明されていません)。