ひっそりと人知れず始まった、
「英語の集中講義」
だが、これまでの記事を挙げておくと、
★「5日間英語集中講義第1回~安倍演説のたった1つの単語が「イスラム国」を刺激し世界に誤解を与えた~
★「5日間英語集中講義第2回~英語に敬語はあるし、スラング(四文字言葉)もある。だって人間だもの…~
★「5日間英語集中講義第3回~死が二人を分かつまで(Until Death Do Us Part)~
である。「講義」と銘打ってはいるが、人によっては勉強の部分は飛ばして笑えるところだけ読んで頂けると有り難い。このブログは、
「笑える・学べる・タメになる、る・る・る♪」
なのだから。今のところ、教室はガラガラであるからゆっくり座れると思う。


ガラガラの教室

今日の話は、
「対訳本を使った英文読解」
である。

対訳本、つまり対応する英語と日本語が書かれている本は数多く出版されている。1ページに数段落から成るショートエッセー、数ページにわたる比較的長い評論文、数章から成る本まるごと一冊対訳をつけた小説などなど。

まず最初に会話形式の対訳本を取り上げる。会話と言っても、前の記事で示した恋人同士の愚にもつかない会話、いやその、一行の文のやりとりでも阿吽の呼吸で意思が通じる男女の会話ではない。自分の意見を表す数行の文から成る会話を紹介する。数行の英文は、当然、数段落から成る英文、数ページから成る英文、数章から成る英文よりも入りやすく、英語初級者にとっても勉強になると思われる。



次の例を見て頂きたい。


Wrapping

Brad Pitt: It's interesting to me that many Japanese don't open present at once. Looks like wrapping itself is important, doesn't it?

Kyoko Fukada: You know what? Wrapping items with Japanese paper developed as a way to ward off evil from offerings to Shinto gods. It was then applied to gift items to protect them from impurities.

Brad: I see. On the other hand, furoshiki seems very eco-friendly because they can be reused, just like cloth shopping bags instead of plastic bags.

Kyoko: You're right. Oh, I nearly forgot... Happy Valentine's day!

Brad: Oh, thank you... Wow! Beautiful wrapping!

Kyoko: I'd be happy if you loved another one... It's me!
  包装

ブラピ: 多くの日本人がプレゼントをすぐに開封しないのは、僕には興味深いよ。包装そのものが大切みたいに見えるんだけど。

深キョン: こんなこと、知ってる? 和紙で物を包装するのは、神道の神様へのお供え物から邪悪なものを避ける方法として発達したのよ。そうして包装はプレゼントの品物に応用されて、異物から品物を守るようになったの。

ブラピ: なるほど。その一方で風呂敷はとてもエコだよね。ちょうど、ビニール袋代わりの布のショッピングバッグみたいにくり返し使えるからね。

深キョン: そうね。あっと、忘れるところだった… ハッピーバレンタイン!

ブラピ: ああ、ありがとう…。わあ! きれいなラッピング!

深キョン: もう一つのプレゼントも気に入ってくれると嬉しいんだけど…。私よ!

英語で伝えたいふつうの日本」を参考にして大幅に改変

"at once"は「すぐに」で"immediately"と同じ。"look like ..."は「~みたい」。英語の基本はどれが主語でどれが述語動詞かをきちんと理解すること(見つけること)だが、"is"の主語は"wrapping"。そうすると、"looks"が余って来る("looks"の主語が見当たらない)が、"It"が省略されている。つまり、全体の主語は"It"、全体の述語動詞は"looks"である。それゆえ付加疑問文は"isn't it ?"でなくて、"doesn't it ?"になる。

"You know what ?"は「こんなこと、知ってる?」という相手の注意を引く決まり文句。「ねえ」を英語にすると、"(as) you know"。元々は、「君も知ってるように」「知ってるだろ」「分かるだろ」と相手に同意を求める表現である。人によっては、"you know ... you know ... you know ..."のように文の端々に入れるが、大リーグ野球選手のように使い過ぎると「ねぇ、ねえ、ねえ」みたいで幼稚に聞こえる。筋肉馬鹿がバレてしまう。

"ward off"、"offerings"は難しい単語だが、よくある問題では前後の意味から推測させる(会話ならその都度、尋ねればよいが)。「神様への~から悪(evils)を~する」の「~」を想像する。次の文の「不純物(impurities)から品物を守る」を参考に考えるというわけである。"evil"も"impurity"も覚えていなければお手上げになるから、読解の基礎は語彙力である。

"plastic bag"はこれで「ビニール袋」。「プラスティック」というと硬いイメージがあるが、本来は「石油などに力や熱を加えて変形加工することができる」「可塑性のある」という化学・材料科学用語である。日本では「ビニール」と呼んでいるが、そもそも実際はパサパサした「ポリエチレン」などであってムニュッと伸びる「ビニール」でない。アメリカのスーパーでレジのおねえさんから"Da ya needa plastic bag ?"と聞かれて、
「プラスチックがどうしたんだろ…。」
と涙ぐんで立ち尽くす日本人ショートステイ女子高生は多かったりする。




対訳本を使ってまで英語で書かれた文章を読む意義は、日本の社会・文化などに対する外国人の考えを知ることである。海外との対比からふだん受け流している日本を再発見することである。「英語は読めない、分からない」と駄々をこねるものではない。「人のフリ見て、我がまま言うな」、いや「我が身を知る」である。

日本文化に関して外国人の視点から英語で書かれた有名な本は、ルース・ベネディクトの「菊と刀」("The Chrysanthemum and the Sword: Patterns of Japanese Culture")である。アメリカ人文化人類学者の彼女は、太平洋戦争で日本の敗戦が濃厚になったことを受けてアメリカ政府から研究を委託され、史上最初の日本文化論を展開した。戦後の日本占領政策を円滑に進めるためである。研究結果はその後、出版され(1946)、日本語に訳された(1948)。日本人は周りからどう見られているかが気になる国民であり、それが書かれた対訳本は興味をもって臨めると思う。

「菊と刀」ほど格調高いものではないが、気軽に読める日本に関する対訳本は、
(1).「日本人が誤解される100の言動
(2).「言い返さない日本人
(3).「英語で話す『日本の謎』Q&A
(4).「誤解される日本人
などである。これらの対訳本に書かれている内容に興味があれば日本語部分だけ読めば良いし、気が向いたら英文を眺めれば良い。なお、上の(1)から(4)に向けて文章が長くなる。


上の(2)から一部、抜粋および改変する。


Volatile American:

Are the Japanese really sincere when they apologize? If you're really sorry, do something about it!

It's often said that the Japanese always apologize about everything. But do they really think they've done anything wrong? I can't help feeling the apologizing is no more than phrases.


Complaining Japanese:

From our point of view, people in the West don't apologize at all. Sometimes all it needs is a simple apology, but all they do is to keep on making excuses.

If they are going to be that rude, we tend to wonder about their character.
  怒りっぽいアメリカ人:

日本人は謝るとき、本当に心の底から謝ってるのかな? 本当に謝ってるなら何とかしてくれよ!

日本人はいつも何にでも謝ってるってよく言われるけど、本当に自分が何かまずいことをしたと思ってるのかな? 謝ってるのはただの言葉以上の何ものでもないように感じずにはいられないんだ。


愚痴っぽい日本人:

我々から見れば、欧米人はまったく謝らないね。時には単に謝るだけですべて済むのに、彼らがすることと言ったら延々言い訳するだけだもんなぁ。

あんなに無礼になられると、こっちは人格を疑いたくなるよ。

言い返さない日本人」から一部抜粋および改変



"Volatile"(ヴォラタイル)は「揮発性の」だが、「すぐにカッとなって湯気を出す」のイメージで、"bad-tempered"をビビッドに表した言葉。

"apologize"は「謝る」。よく言われる「"I'm sorry."は謝罪ではない」というのは半分あたっている。明確に謝罪の気持ちを表すときは"I apologize to you."を使う。日本人の愚痴に出て来る"apology"は"apologize"の名詞。

"can't help feeling"は「感じることを助けられない」から転じて、「感じざるを得ない」というときの決まり文句。同様の言い回し、"can't help but feel"は「感じること以外(but)は助けられない」から転じて同じく「感じざるを得ない」。前者が動名詞"feeling"を使うのに対して、後者は動詞の原形"feel"を使うところに注意する。

"no more than ..."は「~よりも多いものでない」で、「~以上でない」「せいぜい~である」。逆に、"no less than"は「~より少ないものでない」で、「~以下でない」「~ほども多くの」。たとえば、「彼は100万円もの大金を手にした」は、"He got no less than one million yen."(100万円より少ないものを手に入れなかった)となる。

"all it needs"や"all they do"は「~するすべてのこと」で、"all"の次に関係代名詞"that"が省略されている。こなれた日本語では、「~するのは…だけ」「~しさえすればよい」と訳せる。たとえば、"All you need is love."は、「君が必要なのは愛だけだ」「愛こそすべて」となる。

"tend to ..."は「~する傾向にある」「~しがちである」から、「(自然と)~する」という意味になる。同様の表現に"is like to ..."がある。



対訳本を選ぶとき、アマゾンなどのクチコミ(カスタマーレビュー)で、
「平易な英語で書かれており、高校生の英文読解の練習に最適!」
とあるので注文したは良いけれど、届いた本の中身を見ると3行で爆睡する女子高生は多い。そんな場合でも、対訳がついていると日本語部分を読むことでそれなりに楽しむことができる。3行で対訳本を壁に投げつけた男子高校生も、気を取り直しておずおずと本を拾い上げ、ベッドの下のエロ本を隠すのに使うことができる。自家発電のピストンが止まった後、ふとエロ本の横の対訳本(日本語部分)を読むと、体だけでなく頭もリフレッシュできるかも知れない。

対訳本は母親へのカモフラージュに使えるが、英文読解、それも速読の練習にも使える。それには、上で示したブラピと深キョンのような会話を、発声しながら理解して行くのである。文字だけだとシチュエーションが見えにくく展開が予想しにくいから、この目的のためにはマンガの対訳本が適している。マンガの絵を見ながら、さながら声優になったつもりで発音し、意味を取り、感情を込めて読んで行く。「ワタシ、読むのは早いの♪」というときの「読む」は単なる発声で読解ではない。一行一行、黙読しながらのろのろとと理解していたスピードを、発声のスピードに近づける練習が必要なのである。



「読むスピード」についてまとめると、英文の読解力が発展途上の日本人は、
☆(1)[A 日本人の発声] > [B 日本人の黙読]
である。一方、ネイティブスピーカーは音読よりも黙読の方が速く読んで理解できる。すなわち、
☆(2)[C ネイティブの黙読] > [D ネイティブの音読]
である。これは驚くに当たらない。日本人が日本語を読んで理解するときも、音読より黙読の方がずっと速い。拾い読み、斜め読みができるからである。また当然ながら、日本人よりネイティブの方が英語を滑らかに読めるから、
☆(3)[D ネイティブの音読] > [A 日本人の発声]
である。3つの不等式(1)~(3)からスピードについて次の関係が成り立つ。
⇒★[C ネイティブの黙読] > [D ネイティブの音読]
     > [A 日本人の発声] > [B 日本人の黙読]

したがって、英文読解力向上の練習はまず、
✔(1’) たどたどしい[B 日本人の黙読]をそこそこ速い[A 日本人の発声]に近づける練習
をすることである。マンガの対訳本を使って「なりきり声優」を演じるのはこの練習である。次に行なうことは、
✔(3’) 内容を理解しながらナチュラルスピードで読んで[D ネイティブの音読]に近づける練習
である。さらに、日本人が日本語を黙読するように、
✔(2’) [C ネイティブの黙読]と同様に英語長文を黙読してキーワードを拾って行く練習
を行なう。これによって、
「究極の長文読解」
が達成される。これは「究極」であって、普通はここまで到達しなくても良い。とりあえずマンガ対訳本を使って(1’)を目指せば良いだろう。頑張って頂きたい。

この練習に使えるマンガ対訳本(バイリンガル版マンガ)をいくつか挙げておく。
★1.「のだめカンタービレ」 #1#2#3
★2.「ちはやふる」 #1#2
★3.「部長島耕作」 #1#2#3
★4.「進撃の巨人」 #1#2
実際に私が読んだのは「のだめ」だけであるが、なかなか面白かった。


のだめカンタービレ・バイリンガル版


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