NHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」の度し難い悪意 | 岐路に立つ日本を考える

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


人気ブログランキングへ
 
 理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹・副センター長の自殺の報道に接した瞬間に、私はマスコミに対する憤りがふつふつと湧いてきました。論文に対する疑惑が生まれて以降のSTAP細胞に関するマスコミ報道に異常なものを感じてきたからです。

 死後に、笹井氏が亡くなる10日程前から研究の会話に支障が出るようになったことが報じられましたが、ちょうどこの頃にNHKが NHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」を流していたことを、私は後になって知りました。ネット上に同番組がアップされているのを見つけ、私自身も見てみました。

 番組名に「STAP細胞 不正の深層」とあるように、STAP細胞をトンデモ学説扱いにして番組が作られていました。いかにもNHKらしい番組で、一見中立的な立場のように装いながら、実のところは極めて悪意のある番組であったと、私は断言します。

 なぜ私がNHKの悪意について断言できるのかといえば、笹井氏は4月16日の記者会見で、誠実な科学者らしさを発揮して、例えば以下に挙げることを述べられていたからです。

 「STAP現象については、もしも存在しないと思っていたら共著者には加わらなかった。しかし、それは論文の材料がきちんと組み上がっていたときに確信を持つのであって、今はそのくみ上げ細工にヒビが入ってしまった。有望ではあるが、仮説に戻して検証しなおす必要があると思ってます。これを、信じる信じないということで論じるべきでないという科学者としての立場です。」
 「STAP細胞にはES細胞とは異なる特徴があります。キメラマウス実験の結果を見ても、STAP現象は現在最も有力な仮説と考えています。」
 「STAP細胞ができるということと、STAP現象は同義です。」
 「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータの例を挙げます。一つは「ライブ・セル・イメージ」です。10以上の視野を同時に観察できる顕微鏡ムービーであり、人為的なデータ操作は事実上不可能です。」
 「ライブ・セル・イメージは複数人が関わる上、自動で撮影されるため人為的な操作をすることは無理です。また撮った写真については一コマ一コマに、時間などのプロパティが入ってますので改ざんすればすぐ分かる。だからこそ確度の高いデータだと言えます。その他のキメラマウスについても若山さんが検証していますので、不正認定された以外のデータで信用されるものはあるという考えです。」
 「STAP細胞に関する反証仮説をどれを考えても、どこかでつじつまが合わなくなってしまう。これが仮にES細胞だったとしたら、すぐに分かるだけの解析技術がある。」
 「レターとしての論文については不正は認められていません。STEM CELLの部分については問題の画像は関係していません。」

(STEM CELL とは「万能性を獲得した細胞」のこと)

 NHKはNHKスペシャルにおいて、このような笹井氏の主張を丁寧に1つ1つ吟味することをやっていたでしょうか。笹井氏が主張した上記の主張について何一つ吟味することなく、不正を前提とした番組作りをしていたとしか言いようがありません。小保方氏がES細胞をSTAP細胞だとすり替えを行ったことを前提とし、さらに笹井氏もこのすり替えに気付いていた上で Nature の論文を構成していたとの疑惑を提起するという番組構成になっていました。笹井氏は「STAP細胞に関する反証仮説をどれを考えても、どこかでつじつまが合わなくなってしまう。これが仮にES細胞だったとしたら、すぐに分かるだけの解析技術がある」と述べていたわけであり、笹井氏の主張をまじめに検証しなければいけない意識を持っていたとしたら、こんな安直な推論はできないはずです。だからこそ、「結論先にありき」の極めて悪意のある番組であったと私は断言するわけです。

 男女の関係があったかのようなナレーションまで入れて、笹井氏と小保方氏のメールの文面を取り上げるようなことは行っても、もっとも大切な当事者の主張は一切取り上げないで、悪意ある不正があったと匂わす番組作りを行うというのは、許されるものではありません。NHKは自らこの番組について検証すべきです。

 私はNHKのこの番組のみが笹井氏の自殺の原因だったとは思いません。本来自らの研究員の逆境を守るべき立場にある理研自体がトカゲの尻尾切りのような対応を取っていたことへの失望もあるかもしれません。またNHK以外のメディアにおいても、笹井氏の主張についてまじめに検証してみるような報道は見られませんでした。少なくとも私自身は全く見覚えも聞き覚えもありません。こうした日本の魔女狩りのような社会のあり方に追い詰められていたことは、疑う余地はないかと思います。

 そうでありながら、NHKのこの番組の制作スタッフは、少なくとも笹井氏が自殺するまでは、STAP細胞のインチキぶりをわかりやすく示した「正義」の立場に立つ番組を制作したとの満足感を感じていただろうと私は思っています。自分こそが真理を知りえているとの立場から、一般国民にその「真理」をわかりやすく伝えられる番組を作り上げられたという思いを感じていただろうと思います。しかしそこには、自分が正しいと信じる「真理」とは違ったものの見方が存在しうるということについての謙虚さは全くありません。その傲慢さが、いわば「被告」として立たされている立場の研究者が誠実に主張したことを、何一つ満足に検証しないレベルの番組を作り上げることにつながったのではないでしょうか。

 私はこのような傲慢さは、一般にリベラル派を自認する人たちの中に多数見られると思っています。朝日新聞の従軍慰安婦報道にも、彼らなりの「正義」が事実検証よりも先行しており、問題は同根であると私は感じるわけです。そしてそれゆえに、この問題が日本のマスメディアが何よりも優先して解決に踏み込まなければならない根本問題だとも思っています。

 笹井氏は自らの死と引き換えにして、STAP再現実験を冷静に行うことができる環境を取り戻しました。亡くなってしまったので、本当の気持ちがどこにあったのかはわかりませんが、彼は自分の命よりもSTAP細胞に関する研究が偏見なく進むことの方が、日本と世界の未来にとってより好ましいと考えたのかもしれません。

 笹井氏のご冥福をお祈り致します。


人気ブログランキングへ