【ボス『リマスター制作秘話』その2】:ヴィンテージ・ブルース的な音

ブルース・スプリングスティーン初期名盤7Tが初のリマスター!実際にリマスターを行なった、巨匠ボブ・ラドウィックがその制作過程を語る!今回のリマスター作業で何をイメージしたのか?たどり着く先は?ボスが望む音とは?について語ります

「(リマスタリングを施しても)ヴィンテージ・ブルース的な音がしなければならない。より良い音のヴィンテージ・ブルースになっているべきなんだ!・・・」

●「音とフィーリングさえ良ければ…」

実際のリマスタリングに際しては、これほど親しまれ愛された音源だと「精確な」ものを作りたいという思いが強いあまり悩まされることが往々にしてあり得るものだが、ラドウィックのアプローチはずばり「デューク・エリントンも言っていたように、“音とフィーリングが良ければ、それはいいもの”なんだ」だった。

勿論それを提唱していたのは彼ひとりではない。スプリングスティーンもラドウィックによると
「彼は最善を尽くすためならどんなことでもやる。曲やアルバムが自分の望んだものになっていることを確認するために、何度も手を休めず繰り返すんだ」。

ブルースは何を望んでいるのか?

「デューク・エリントンの言葉に似ているんじゃないかな。もし彼の個人的基準で音が良くなっていたら承認だ」。

デジタル時代の今、何がいい音でいいフィーリングなのかという意見は分かれるが、ラドウィックに圧縮と“音圧戦争(Loudness War)”について訊いてみた。彼いわく、

「できるだけ古い録音の音を保持するようにした。そういうのは圧縮されていない、ダイナミックな世界にあるんだ。(リマスタリングを施しても)ヴィンテージ・ブルース的な音がしなければならない。より良い音のヴィンテージ・ブルースになっているべきなんだ!」

「コンプレッサーを効かせすぎるのは好きじゃない。でもロック・ミュージックの場合、コンプレッサーすることによって興奮やパンチ、それから音楽的な結びつきがサウンドに生まれるツボがあるんだ。そのツボを超えて“音圧戦争”までいってしまうと、直接の比較ではエキサイティングに聞こえるかも知れないけれど、アルバム全体を聴くと疲れてしまうことがある。一長一短だね。アルバムの中には、オリジナル盤ではブルースがコンプレッサーを望んだところもあるが、リマスタリング盤ではその割合が少し少なくなっているものもある。バランスと、その日何が“フィーリングが良かった”かの問題だね。人間だから、アーティストというものは、何が自分にとっていい音なのかをその場その場で決めることしかできない」
とラドウィックは見なす。

しかし、このプロセスの中での彼自身の役割について尋ねると、彼はこう答えた。

「ブルースの音楽をマスタリングするというこの上ない栄誉を与えられたときには、ミックスからできるだけ多くの音楽性を生み出すようにしている」。

●フォーマットと未来

その音楽性とは、アナログ盤のリスナーにとりわけ気づいてもらいたいものである。ボブ・ラドウィックは語る。

「LPは高音質のデジタル・マスターから作られている。つまり24ビットということだね。システムも素晴らしいから、CDよりいい音になっているはずだ。今回は世界でも指折りのプレス工場を使うことができた。ジョークで言うんだけど、メジャー・レーベルがアナログ盤全盛期のころにこの手の工場を使っていたら、音飛びや表面のノイズなんかで不平が出ることもなかっただろうね」。

リマスタリング版はアナログ盤、CD、iTunesのみならず、Spotifyのようなデジタル・サービスにも登場する。高品質のデジタル・ファイルが入手可能になるという可能性まであるのだ。

「確かソニーがHDTracks、他の高品質ファイルダウンロード業者と交渉中なんじゃないかな。ブルースとソニーが、リマスタリング版をあらゆるフォーマットで発売したいと考えているからね」。

Mastered for iTunesシリーズの一環として既にデジタル・フォーマットで発売されている他のアルバムは、『ウィ・シャル・オーヴァーカム:ザ・シーガー・セッションズ』、『ワーキング・オン・ア・ドリーム』、『レッキング・ボール』だが、これらは勿論本ボックス・セットには含まれていない。しかしそれらが既に24ビットのリマスタリングを施されているという事実(この新発売のボックス・セットのタイトル「Vol.1」が示すように)からも、今後この流れがさらにやってくることが予想される。ラドウィックに訊いてみたところ、答えはストレートだった。

「ああ。既に残りのカタログに着手したところだよ。でもそれらのアルバムはデジタルにミックスされているから、オリジナルに磨きをかけて本来の意図を保持しつつ、忠実性を向上させて、24ビットの最終マスターを作ることがより課題になってくるんだ」。

その3へ続く。

遂に霧が晴れた!
ボスの名盤中の名盤初期7タイトルが初リマスターで甦る!


ブルース・スプリングスティーン
『アルバム・コレクションVol.1 1973-1984』

BRUCE SPRINGSTEEN: THE ALBUM COLLECTION VOL. 1 1973-1984
12月10日発売 完全生産限定盤 SICP 4351~8 CD7枚組(8CD) ¥15,000+税



「違って聞こえるかって?勿論だよ!自分でも新しいヴァージョンを買いに行きたいくらいだよ。これはマーケティングの人間としてじゃなく、いちファンとしての意見なんだ」(ボブ・ラドウィック)

●豪華60Pブックレット付き(レア写真満載,貴重なメモラビア、プレス・クリップなど).
●日本制作紙ジャケット 
●30周年復刻帯 :各紙ジャケには1984年『ボーン・イン・ザ・USA』発売時に全面改定した共通デザイン帯を復刻。
●解説・歌詞・対訳付 :各アルバムに投げ込み(三浦久氏による歌詞の世界から見たアルバム解説も)
●ボックス用新規解説:五十嵐正氏による、このボックス用の新規ライナー
●収録アルバム
アズベリー・パークからの挨拶 Greetings From Asbury Park』(1973年) *
『青春の叫び The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle』(1973年) *
『明日なき暴走 Born To Run』(1975年) **
『闇に吠える街 Darkness on the Edge of Town』(1978年) **
『ザ・リバー The River』(1980年) *(2枚組)
『ネブラスカ Nebraska』(1982年) *
『BORN IN THE U.S.A. Born in the U.S.A.』(1984年) *
(*初のリマスタリング盤  **再新リマスタリング)

詳細はこちら
http://www.sonymusic.co.jp/artist/BruceSpringsteen/info/445016

アルバム・コレクションVol.1 1973-1984(BOX)/ブルース・スプリングスティーン

¥16,200
Amazon.co.jp