・ツタヤ図書館、なぜ「ノー」に? 愛知・小牧の住民投票|朝日新聞
(小牧市ツタヤ図書館のイメージ図)
つまり、この記事において、糸賀雅児・慶應大教授(図書館情報学)のつぎのような意見が紹介されています。
『CCCの手法は、本の販売収入やカフェの収益を図書館運営費に回して、図書館運営を行っている。』
『そのようなCCCの手法と、小牧市の市民が求める図書館サービスとがマッチするか、小牧市と市民とが時間をかけて話し合う必要がある。』
しかし、この教授の意見には疑問があります。
前回のブログ記事
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた/#公設ツタヤ問題
あたりまえの話ですが、指定管理者は善意のボランティア団体ではありません。
図書館などの「公の施設」の運営を引き受けるにあたって、自治体からまったくお金が支払われないという制度であれば、民間企業であれ、公的団体であれ、物好きな善意のボランティア団体以外は誰も手をあげないでしょう。
指定管理者制度においては、自治体が指定管理者(=CCC)に図書館の運営のための「経費」を算定し、さらにそれに加えて、「合理的な利潤」を合算した「委託費」を支払う仕組みとなっています(鑓水三千男『図書館と法』107頁)。
この点、CCCによる指定管理者制度による図書館運営の第一号であった、武雄市図書館をみてみると、武雄市図書館がCCCを指定管理者とする前に、市が図書館を運営していた平成23年度の武雄市の予算の資料をみてみると、「図書館費」は、約1億2082万円となっています。
一方、CCCへの指定管理者制度が導入され、武雄市ツタヤ図書館が開始された平成25年の予算の資料をみると、図書館に関する「指定管理料」として、1億1000万円が武雄市からCCCに支払われたことがわかります。
・平成23年度予算に関する説明書 武雄市(133ページ・PDF)|武雄市サイト
・平成25年度予算に関する説明書 武雄市(120ページ・PDF)|武雄市サイト
つまり、CCCは武雄市ツタヤ図書館の運営を任されるにあたって、武雄市から、市が運営していた頃とほぼ同じ額であるところの、1億1000万円の「指定管理費」(=委託費)をがっちりとゲットしているわけです。
すなわち、CCCは自治体からしっかりと十分な額の「指定管理費」を受け取り、図書館を運営しています。
したがって、この武雄市の事例からも、うえでみた糸賀・慶大教授の、「ツタヤ図書館は新刊やコーヒーの販売収益で図書館を運営している」という意見は根拠がなく、正しくないと思われます。
CCCがツタヤ図書館で新刊やコーヒーを販売して得た利益は、やはりCCCの懐に入っていくわけです。
一般的に、指定管理者制度などの「官から民へ」「公務の民営化」の各種の法制度は、「行政のコストダウン」が表向きの名目とされることが通常です。
しかし、この武雄市ツタヤ図書館の事例のように、図書館の運営費が、1億2000万円が1億1000万円と、1000万円(約8%減)しか減額されていないのでは、しばしば「改革派」の政治家達が錦の御旗の様に主張するような「行政のコストダウン」の効果は低いと言わざるを得ません。
その一方で、このブログで前回取り上げたように、私が実際に見学に行ってみた、海老名市ツタヤ図書館では、海老名市立図書館がCCCに任されたことにより、完全にツタヤの本屋・喫茶店になってしまい、図書館の蔵書は古くて価値の低い本ばかりとなってしまっていました。
(海老名市立中央ツタヤ図書館。3階のITの本棚に、Windows98,Me,XPなどの本が大量に並んでいる。)
(海老名市立中央ツタヤ図書館。1階の会社法務の本棚に、有限会社の本が大量に並んでいる。)
つまり、自治体がCCC・ツタヤに図書館を任せたことにより、公立の図書館が完全に民間企業のCCCの営利のために食い物にされてしまい、図書館サービスが大幅に減退されてしまっていました。
これはさまざまな新聞報道や、これもさまざまな方々のウェブサイトなどをみると、武雄市ツタヤ図書館でも同様の状況であるようです。
このように、市民・住民としては、自らの住む自治体の公立図書館をCCCによるツタヤ図書館とすることは、コストダウンの効果があまり出ない一方で、図書館の本来業務のさまざまなサービスが大幅に低下してしまうということであり、失うものが多すぎると思われます。
冒頭の新聞記事は、自治体側や政治家達は、公立図書館をCCCに任せてツタヤ図書館にすると、集客力が見込めて、「経済効果」があると考えているとしています。
しかし、「町おこし」や「町のにぎわいの創出」がしたいのであれば、別に図書館をツタヤ図書館にするだけが唯一の方法ではないでしょう。政治家や公務員は民間部門(CCCのようなコンプライアンス意識の乏しいブラック企業でなく、しっかりとした企業)と連携し、もっとまともな案を考えるべきです。
また、これもこのブログの記事で何度も取り上げたとおり、図書館について規定する図書館法において、図書館の定義・目的を定める同法2条は、図書を収集、保管などして市民に図書を提供することを目的と定義しています。
そして、同法3条は、図書館の業務として、図書を収集、保管などして市民に図書を提供すること(1号)、レファレンス・サービスを行うこと(3号)、他の図書館と連携し図書の相互貸出を行うこと(4号)、分類排列を適切にしてその目録を整備すること(2号)、などを規定していますが、「町おこし」や「町のにぎわいの創出」は規定していません。
つまり、ツタヤの本屋を町おこしに使うことは何ら問題ありませんが、公立図書館を、「町おこし」や「町のにぎわいの創出」に使用することは、図書館法に照らして目的外利用であり違法です。
公立図書館を、「町おこし」や「町のにぎわいの創出」に使って、図書館法3条各号の定める図書館本来の機能が低下しては本末転倒です。
そして、指定管理者制度は、「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるとき」(地方自治法244条の2第3項)にのみ、その制度の導入が認められるのですから、「町おこし」や「町のにぎわいの創出」という図書館の目的外には、そもそも指定管理者制度は利用できません。この点、武雄市図書館や海老名市立中央図書館は、地方自治法の観点からも違法です。
今後、もし小牧市が、住民の反対を押し切って、「町おこし」や「町のにぎわいの創出」のためにツタヤ図書館を強行するのであれば、これも地方自治法、図書館法上違法となります。
この点、すでに武雄市図書館に関しては、住民監査請求を経て、住民訴訟が提起され、現在訴訟が係争中です。
ツタヤ図書館の導入を検討している地方自治体の役職員や政治家達は、「経済効果」も結構ですが、CCCに図書館を任せることによる、図書館サービスの大幅な劣化、住民訴訟を提起されるという具体的な法的リスク、住民からの苦情リスク、そして武雄市図書館あたりからすっかり世の中に定着しつつある「CCC・ツタヤ=ブラック企業」という認識から発生するレピュテーション・リスク(風評リスク)、総務省・文科省などから指導・助言などをされる可能性という行政上のリスクなど諸般の負の側面をも十分検討すべきでしょう。
■過去のブログ記事
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた/#公設ツタヤ問題
・「武雄市図書館の時はド素人でした」とCCCツタヤ図書館長が「自白」/指定管理者制度
・武雄市図書館のCCC・ツタヤによる図書の選書を行政法的に考える
・武雄市図書館などのツタヤ図書館を指定管理者制度の問題から考える
・三鷹市立図書館開館50周年記念図書館フェスタと武雄市図書館について
・Tサイト(CCC)から来た「アンケート」のメールが個人情報的にすごかった/利用目的の特定
■ツタヤ図書館に関するサイト
・武雄市だけじゃない!「リアル図書館戦争」が拡大中|週刊朝日
・海老名市中央図書館の謎分類メモ #公設ツタヤ問題 #海老名分類|Togetter
・海老名市立図書館に行ってみた|Togetter
・「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う?|Huffingtonpost
・批判多数のTSUTAYA運営武雄図書館 市教委は「わからない」|NEWSポストセブン
・関連会社から“疑惑”の選書 武雄市TSUTAYA図書館、委託巡り住民訴訟に発展|週刊朝日
・書籍・DVDなど大量廃棄 武雄市図書館新装時に|佐賀新聞
法律・法学 ブログランキングへ
にほんブログ村