そうして犬は | 江口昌記の 月のうさぎ

そうして犬は

 人というのは賢いものだな
 時が満つれば宙を託すにふさわしい
 しかし人はすぐにあたまに血がのぼる
 それはなんとかせねば

 - はるかなはるかなおおむかし
 - 万物の創生者 神は思った
 - そして
 - ある日犬を呼び
 - ひとつの使命をさずけた


ことばも持たず種別も違うのに
想いがわかる

そんな瞬間てあるよね

いまなんとなく哀しんでいるみたい
とか
そうかオマエも嬉しいのかな
とか

犬は哀しみがわかる
犬は喜びがわかる
犬は想いを読みとり
犬はそっとよりそって
そのやわらかな体温で時の限りも
愛想つかしの限りもなく

かすれて消えてしまうまでも
つきそっていてくれる

 のう犬よ
 人というのは愚かしいものだな
 安らかな時には聡明なのだが
 高ぶりにとらわれると
 なにも感じ取れなくなる
 なにも思いやれなくなる
 それをさとそうにも
 人はプライドが高すぎるのだ

そうして犬は
人が落としてしまったやさしさを拾い歩き
あたたかなぬくもりでやさしさを人に戻す

「人という晩成の若者」につきそい
けして人のプライドをそこなわないようにして
全てを許す憂いとうるおいに満ちたまなざしを
万物の声を聴きとることの大切さを
示してさとす

神にさずかった使命を犬は
迷いなく果たしているんだ






そうして犬は

photo by MasakiEguti


0212015