武雄市図書館の構造的欠陥が話題に | ArcaOS 5.0 と Silverware のお部屋

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先週の話題ですが、スラッシュドット「武雄市図書館の図書館としての構造的問題が話題に」より

7000人/日の観光客が訪れると市長が豪語する武雄市立図書館ですが、正面玄関から見上げてみえる2階は細い通路の壁際に4mの巨大書架がずらりと並んでいます。当初の設計では2階通路(キャットウォーク)のほとんどが「閉架書庫バルコニー」となっていましたが、3月になって(ゆめタウン側の)【訂正】(企画展示室方向の)奥3メートルの部分を除き(人が自由に本を選べる)「開架書庫バルコニー」に変更されたとのこと。人が立ち入れない奥3メートルが存在する理由は、建築基準法施行令の第百二十条で定められている直通階段までの歩行距離 30 メートル以内に抵触したため(建築さん-法規-建築基準法-避難規定)。

現在「STAFF ONLY」と書かれたガイドポールが置かれて奥に立ち入れないようになっていますが、実際にはなぜかその部分の書架にも1000冊くらい本が置かれて「アクセスできない」状態になっている始末。そのうえ悪いことに、テレビ番組で樋渡市長が「(建築基準法の制限について)我々で責任をとるので任してほしい」(新報道2001WEB版 2013年8月18日放送分)と語ったそうで。

$eComStation 2 日本語版と Silverware のお部屋-図書館にあるポールパーテーションGoogle Map より

ネタ元はTogetter - 武雄市図書館2階のポールパーティションとリスクからですが、図書館 2 階にあるポールパーテーション(スラッシュドットにある「ガイドポール」)の存在から導き出される構造的欠陥が問題になっています。

このポールパーテーションはなぜあるかというと、建築基準法が定める避難経路の距離 30 メートルに抵触したから(階段から 30 メートル以内の通路しか開架書庫として利用できない)。

インターネットで公開されている図面をみると、改装により新設された 2 階のキャットウォークは「閉架書庫バルコニー」となっていて、人が自由に立ち入れないようになっていました(改装前の武雄図書館にはキャットウォークに相当する部分はなかった)。これなら階段のところに仕切りを設けるだけで何の問題もなかったのですが、オープン直前の 3 月「軽微変更届」が承認され、避難経路 30 メートルぎりぎりいっぱいまで利用者が立ち入ることができる開架書庫となった、という経緯があります。

ただこの区分が利用者から明確ではないのです。なぜなら開架書庫と同じように、閉架書庫バルコニーに連続して本が並んでいるからです。ポールパーテーションから先は「立ち入り禁止」なのに、本を選んでいるとき容易に入り込んでしまえることや、たいていの利用者にはポールパーテーションの趣旨が分からないということです。

$eComStation 2 日本語版と Silverware のお部屋-1階玄関から見あげた2階Google Map より

1階玄関から見上げると、2階のポールパーテーションはちょうど正面に位置しています。Twitter でも指摘されていますが、利用者に明確に見分けさせるために、本を抜くとかなり目立ちます。

さらに武雄市図書館・歴史資料館を学習する市民の会ページにある pdf ファイルによると、

2階の閲覧バルコニーは武雄市図書館の書架(≒4㍍)ですが、1階蔦屋の装飾用壁面として、圧倒的ボリュームの書籍を演出したそうです。

巨大な脚立を使って数少ない図書館職員に本をとってもらう必要がある閲覧バルコニーの本棚は、1階本屋のための演出なのだそうです。そういう派手な演出効果のためなら、上の前歯が抜けるような陳列はしたくないですね。

とはいえ苦肉の策のポールパーテーションの存在は百歩譲ってよしとしましょう。しかしこの存在にどうにも我慢ならないのが武雄市長、8月18日放送のテレビ番組でこんなお騒がせ発言をしていました。

$eComStation 2 日本語版と Silverware のお部屋-日常風景にある日常風景にある"日本の魅力" 新報道2001 2013年8月18日(4/5)より

あの図書館もそうなんですよ。
キャットウォーク作って、実は制限をかけてるんですよね。
あと3メートル足りないって。
3メートル足りなくて、全部右から左に行けなくなってるんですよ。
あ、このキャットウォークですよね。
あの手前のところというのは立ち入り禁止なんですよ。
だからそこの本の1000冊くらいがアクセスできないっていうふうになっていて
それも事細かに決まってるんで、それこそもう、任せてほしいって。我々に。
責任は全部自治体が取りますから。


「うちの自治体で責任をとるから、建築基準法の避難経路の規定を見逃してくれ」と(ぉぃぉぃ)

だいたいですね、市長がテレビ番組で「1日7000人もの観光客が訪れる」と豪語する図書館です。今いる大半の客は九州のど田舎の図書館にコーヒーを飲みにきているだけなので、2階にはアクセスしないかもしれませんが、それだけ大勢の人が訪れる図書館だと自慢したいなら、もうひとつ階段を設置して二方向避難ができるようにするべきなのですよ。

$eComStation 2 日本語版と Silverware のお部屋-ここに階段を設置すればよいここに階段を設置すればよい

しかもスラッシュドットでもコメントありましたが、制限をかけている部分は実際 3 メートル以上あります。

規制緩和の話に乗じて「3メートルくらいいいじゃないか」「俺の都合にあわせてどんどん法律を修正していけば良い」と言わんばかり。まあ当のご本人はテレビ番組の出演で Twitter のフォロワー数が増えたと喜んでいるみたいですが、こんな馬鹿発言してればふつう人は増えますよ(笑)

さらにスラッシュドットのストーリーにはこうあります。

巨大書架に付けられている落下防止バーのせいで書籍を折り曲げないと取り出せない、4mの高所にある書籍を取り出す際には大型の脚立を使う必要があり、作業をする人が落下する危険があるなどといった問題点も指摘されている。


スタバ利用者には関係ないかもしれませんが、こんな図書館がはたして利用者に使いやすいんですかね?


2階のキャットウォーク(通路)の幅は建築基準法ぎりぎりの 1.5 ~ 1.8 メートルで、手すりの高さは 1.1 メートルですから、利用者が背の高さの本をとるには必要十分かもしれません。

とはいえ実際には 4 メートルの書架があり、手が届かないところにも本が並んでいるわけです。そこの本はどうやってとるか。司書にお願いして手すりつきの作業台(DAD-210)を使って取ってもらうことになっています。しかしこの作業台は「横向きの荷重かけるとかなり簡単に転」びやすいので、もし傾きでもしただけで司書が 2 階通路から転落してしまう恐れがあります。

しかもこの手すりつき作業台がキャットウォーク中央部にあったとき火災が発生したら、通路をほとんどふさぐことになるので、やはり二方向避難ができるようになっているべきです。

手が届かないところの本は 1 冊 5 分くらいで取ってもらえるという話がありますが、もちろん片付けるのも司書の仕事。少なくとも利用者が自由に手にとって本を選ぶことができない以上、とても使いやすいとは思えません(ちなみに1階には 4.6 メートルの書架があって、大半の本は利用者の手の届かないところにあります)。

武雄図書館の提灯動画

さて民間運営の公立図書館という話題性で行政視察が多いという話です。しかしこのおばさんの渾身レポートを挙げると、武雄図書館の利点は

* 徹底した利用者目線
* 本来の図書館機能がちゃんと活きている・・・♥
* 反対派も元気に活動!!

だそうです。しかし薄っぺらい内容ですね。コーヒーを飲みながら本が読める図書館はお洒落だとか、他の図書館で行われている絵本の読み聞かせ活動がちゃんと行われているとか、最後の反対派の件は利点でもなんでもありませんしね。

結局のところ今話題の武雄図書館、普段図書館で本を読まない人には斬新に映ったかもしれませんが、わざわざ取り上げるほどの利点がなかったということです。たとえば以下の記事もどうぞ。

武雄市図書館をけなすヒマがあるなら、読書人口を増やせ:日経ビジネスオンライン
■なぜ武雄市図書館はすごいのか - 見えてるものをちゃんと見よう

カフェは、楽しい、人と会い、語れるという雰囲気をかもし出し、若者や子連れの母親達が集まるようになった。

コーヒーを飲みながら、ワイワイガヤガヤと語らっていても、館内に流れる大きめのBGMで打ち消され、気にならないような工夫がされている。

また、公共図書館に良く見られる、持ち込み学習をしている学生も見当たらない。それもそのはず、学生は2階に設けられた学習室を利用している。これは図書館が定めたものではなく、地元学校が自主的に定めたというルールにより実現されている。学習室はいささか手狭ではあるが、1階のカフェでコーヒーを購入すればカフェ席を利用することもでき問題ないであろう。

えーとカフェ席はワイワイガヤガヤしていて、さらに大き目の BGM まで流れているんじゃなかったっけ?にもかかわらず学習室が手狭で入れなかったら1階のカフェで金を払って勉強や読書に集中しろと。なんかおかしくないですか(笑)

さて武雄市長は「83%の方々が武雄市図書館に満足。」なんて必死ですが、アンケート実施風景で監視付きで孤立した人を狙っているところがシュールでたしかに笑えます

まあ捕らぬ狸の皮算用「年間59億円のコスト削減効果」が5年間も続けばいいですけど(棒読み)、他の自治体に真似された挙句、(来場者はすべて図書館利用者にカウントされるため)遊園地一体型図書館とか作られたら一気に霞みますよ、ここ(笑)