サポーターの領分 | にゃ の書き散らし

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花とか鳥とか猫とかサッカーとか。こころにうかんだよしなしごとをとりとめもなく書き散らしております。

スタジアムでそいつと知り合った時、奴はまだ中学生だった。
ゴール裏で貴重な若者として、ずいぶん大事にされていたと思う。

 純粋にエスパルスが好きで、スタジアムにがんばって通っていた。
 ゴール裏で歌ったり踊ったりしていた。

いつしか奴は、ゴール裏になくてはならない存在となっていった。

 いつからか、やたらに裏情報に詳しくなっていた。
 監督と社長の力関係とか、選手間の人間関係とかそんなことを一方的に教えてくれた。

 ただサッカー観戦を楽しんでいるだけの自分には、正直どうでもいい情報だったし、聞きたくもなかったので適当に聞き流していたが、一体どこからそんな情報を仕入れてくるのか不思議で仕方がなかった。

長い年が流れて、中学生だった彼は、就職し、スタジアムで知り合った女性と結婚した。
 
 ある時、やつはゴール裏から去り、スタジアムでも見かけなくなった。

 監督が嫌いだから。
 選手をえり好みして、気に入らない選手を干すから。
 スタッフが選手とサポーターを遠ざけるから。

 人づてに聞いた理由は、自分の理解を超えていた。
 クラブの個人には思い入れをしない自分には、全く理解できなかった。
 そもそも、自分の手腕と責任で契約してるプロをなんだと思ってるんだと、バカにしてるのかと腹が立った。
 ゴール裏であれだけ熱心に応援してて、そんなどうでもいい理由で来るのをやめるのも信じられなかった。

 そして彼はまたスタジアムに戻ってきた。
 
 あの監督がいなくなったから。と彼は言った。
 嫁はさっき、今の監督に息子を見せたんだと。
 推しの選手(もう在籍していない)には、監督が変わったからまたスタジアムに行くと話したんだと言った。

 そんなことを言われて、その選手はリアクションに困っただろうな。
 なんだか違う世界を見てるみたいで、言葉が見つからなかった。
 
どうしてなんだろう。
あんなに純粋に、好きな選手を応援してた彼はどこに行っちゃったんだろう。
僕の作った推しの選手のチャントが採用されたんですよって嬉しそうに話してくれた彼はどこに行っちゃったんだろう。
新しい旗を作ったんですよって教えてくれた彼は?
一体誰が、そんなくだらない裏情報なんかを知る方法を教えたんだろう。

出身地がどうの、年齢がどうのって話題になるけど。
こういう体質が受け継がれていくことはもっと問題だと思う。
だって、老人はいつかいなくなるから。
でも、受け継がれたらずっと続いてしまうから。

 本当に本当に、心底 悔しい。