2015年10-12月の実質GDPは、前期比▲0.4%(年率換算で▲1.4%)のマイナス成長となった。
この翌日の日本経済新聞の社説(*1)が、ある意味「凄い」です。

【ポイント】
1)マイナス成長の主因は、個人消費の不振であるが、不振の原因は暖冬ではない。
2)第二次安倍政権発足以降の13四半期中、6四半期(46%)がマイナス成長と報じている。
  嘘ではないが、内訳には注意が必要である。
3)GDPギャップが約10兆円弱ある現状で、構造改革で潜在成長率を上げるよう提言しているが、正しい政策割当は、需要を増やす財政政策・金融政策(経済安定化政策)である。


日経の記事(*1)から一部引用します。

"GDPを大きく押し下げた要因は、個人消費の不振だ暖冬で冬物衣料の売れ行きが鈍ったほか、テレビやパソコンなどの耐久財の購入も控えられた。
 [中略]
米国やユーロ圏と比べると、日本経済の弱さは際立つ。安倍晋三政権ができた12年10~12月期以降の13四半期のうち、マイナス成長になったのは6四半期もある

 わずかな外的ショックで成長率がマイナスに沈んでしまう日本経済のもろさは否めない。政府はこうした事実を真摯に受け止め、構造改革で潜在成長率を地道に上げる努力を怠ってはならない"


ポイント1)マイナス成長の主因は、個人消費の不振であるが、不振の原因は暖冬ではない。

個人消費の不振の原因は「暖冬で冬物衣料の売れ行きが鈍ったから」と説明されているが、本当だろうか?

気鋭のエコノミスト、片岡剛士さんの記事(*2)に答えがある。

"天候不順は言い訳
 今回公表されたGDP統計では、家計消費の推移が自動車や家電製品といった耐久財、衣料品などの半耐久財、食品などの非耐久財、輸送・通信・介護・教育などを含むサービスといった4つの品目群(GDP統計では形態と言う)別にまとめられている。2015年7-9月期と比較しても、1年前の2014年10-12月期と比較しても、家計消費の落ち込みに最も大きく影響しているのは耐久財消費の落ち込みである。石原大臣の述べるとおり、家計消費の落ち込みの主因が冬物衣料品などが大きく落ち込んだことにあるのならば、その影響は半耐久財消費の大幅減という形で現れるはずだが、統計データを参照する限り、そうはなっていない。"

念のためデータ(*3)を確認してみよう。
2015年10-12月のGDP速報値の家計消費の前年比、前期比の数値である。

片岡さんの仰る通り、数値は
耐久財 < 非耐久財(衣料品など)
前年比:-8.6 < -5.1
前期比:-0.4 < -0.2
と耐久財の落ち込みの方が大きくなっています。

{10A01E79-A31F-4DA4-8486-CBF74EA0F6C5:01}


「個人消費の落ち込みが記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことが主因であるとはデータからは確認できる」人がいらっしゃるのであれば、ぜひ、確認した結果をご教示いただきたい。


ポイント2)第二次安倍政権発足以降の13四半期中、6四半期(46%)がマイナス成長と報じている。
  嘘ではないが、内訳には注意が必要である。

実質GDP成長率(前期比)マイナスとなった6四半期のうち4回は「消費増税」以降。
マイナスとなった12年10-12月期は第二次安倍政権(2012年12月26日発足)はわずか6日。マイナス成長を安倍政権のセイとするのはいかがなものか。

民主党政権の13四半期では、6回のマイナス成長(2011年3月に東日本大震災があった)で、約46%の割合でマイナス成長です。

安倍政権も同じく13四半期で、6回のマイナス成長です。
ところが、2012年の10-12月を除くと、12四半期で5回のマイナス成長ですので、41.7%の割合で、民主党政権のときの46%を下回ってしまいます。
更に消費増税以降の期間を対象外とすれば、安倍政権では1回のマイナス成長で25%。
消費増税以降のマイナス成長をゼロ成長と読み替えると、1回のマイナス成長で8.3%となります。

{F1CFBA71-BB17-45C8-B686-F1B402307075:01}

{D15AD3AD-D0C6-4D7A-AB14-F20EA55F732E:01}



ポイント3)GDPギャップが約10兆円弱ある現状で、構造改革で潜在成長率を上げるよう提言しているが、正しい政策割当は、需要を増やす財政政策・金融政策(経済安定化政策)である。

GDPギャップがまだ10兆円弱あるときに潜在成長率の引き上げを言うナンセンス。経済安定化政策の財政金融政策が足りないだけ。構造改革は供給側の政策です。
やるな、とは言いませんが、需要不足の時に、需要を増す政策(消費減税、給付金、金融緩和など)を提案しないのは、いかがなものでしょうか。
これも、いわゆる「構造改革論の誤解」ですね。詳しくは、当ブログの記事(*4)をご一読いただけると嬉しいです。


経済の基礎体力強める改革の前に、日本経済新聞の記事の質を高める改革が必要ではないでしょうか?

最後に書籍のご紹介です。

日本経済新聞のOB、田村秀男さんのご著書です。


"ジャーナリズムは健全な独立性と、金融やマネーに対する見識を取り戻し、権力の意図に左右されることなく、国民に益する…"
『日経新聞の真実 なぜ御用メディアと言われるのか』 ow.ly/1TCh3W




【参考情報】
(*1)≪経済の基礎体力強める改革を再起動せよ≫(2016.02.16,日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO97311920W6A210C1EA1000/

(*2)≪GDPマイナス成長は暖冬のせいではない≫(2016.02.16,ニューズウィーク日本版,片岡剛士)
http://www.newsweekjapan.jp/kataoka/2016/02/gdp.php

(*3)≪形態別国内家計最終消費支出、形態別総固定資本形成及び財貨・サービス別の輸出入≫(2016.02.15,内閣府)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001145336&requestSender=estat

(*4)≪「構造改革」って何だろう?≫(当ブログの記事)
http://amba.to/1RTEB8I