月刊誌で松本人志の連載を担当していた時に、(それまで挨拶を交わす程度だった)SMAPの担当マネージャー飯島三智氏がふらりと喫茶店の前の席に座ったことがあった。フジテレビの「SMAP✕SMAP」と「HEY!HEY!HEY!」がいつも同じスタジオで収録されていたからだ
「ねえ、松本さんって、どんな人?」
「んー、優しい子ですよ」。
なぜ、そんな返答をしたのか分からない。ただ、そういう類いの返答を求めているように思えたからだった。
そのやりとりをすっかり忘れた頃、中居正広と松本人志ダブル主演ドラマ「伝説の教師」記者会見があった。
飯島氏はこういうリサーチを積み重ねるのか。
もう一つは三谷幸喜の(撮り直しナシの)生中継ドラマ「HR」。主演香取慎吾が心配なのか必ず毎回本番に駆けつけて黙って観客席で見入っていた。SMAPは5人が別々の現場で仕事をすることが多く、チーフマネージャーは誰のもとへ行くか、悩ましい。
現場で動いている飯島氏が女帝(すごいレッテルだ)に見えたことは一度もない。メンバーが不安になる時、ピンポイントで影のように存在する。いつも物静かで一般客に混じると分からなくなる佇まいだった。
SMAPは恵まれているな。それがいつも飯島氏を見ていて思うことだった。
紅白の楽屋裏通路では、いつも一人で走りまわっている。それでいて必ず向こうから挨拶をしてくる。裏方に徹して目配りを怠らない。マネージャーとはこうあるべき人。それが本当の、飯島氏だ。
一方、9歳下の藤島ジュリー景子氏は、直系ゆえ存在にオーラがある。嵐のコンサートのリハーサルの時も最後方の通路で必ず一部始終を見ている。
クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」がゴールデングローブ賞にノミネートされた時「ニノはどこだ?」と現地で尋ねられたエピソードを小さなコラムで書くと、早速、2月のベルリン映画祭に(超過密スケジュールを縫って)二宮和也を現地に行かせるという早業を見せた。
どちらもSMAP(飯島)、嵐(ジュリー)という国民的アイドルを、育てるべくして育てた、心配りのかたまりのような存在だ。
だから、今回のジャニーズ事務所後継争いからSMAP解散か、という一連の報道は個人的には、こたえた。
事務職からSMAPマネージャーへと飯島氏を抜擢した母・メリー氏の慧眼。そのメリー氏を恩人とは思いこそすれ、反逆しようとする訳がない飯島氏の立ち位置。
親が娘(ジュリー)に事業を継承しようとするのは当たり前のことで、それをいちばん心得ていたのが飯島氏だ。
芸能マスコミのマッチポンプ。跡目相続という下品なネタ。一般マスコミまで加わって、ここまでこじれてしまうと、彼女には、もはや逃げ場はなかった。
罪深いことに、芸能マスコミはその顛末騒動もここぞとばかり面白おかしく活用した。大見出しのスポーツ紙、女性誌は売れ、情報番組のテレビ視聴率は上がる。NHKまでが定時のニュースで報道する。あげくは首相への問いかけだ。もうこの国は訳がわからない。
SMAPのバックで若きV6がバックダンサーをつとめ、V6のうしろでデビュー前の嵐が踊る。それがファンの知る縦社会のジャニーズシステムだ。みんな仲がよく、礼節を知る若者ばかりだ。
SMAP(飯島)と嵐(ジュリー)をつなぐポジションにいるV6の井ノ原快彦の連載を5年担当したことがあるが、先輩も後輩も誰一人、悪く言ったことがなかった。ジャニーズ事務所ってこんなに居心地のいい所なのか。正直、羨ましかった。
何が言いたいか。
戦後70年、日本にスポーツジャーナリズムと芸能ジャーナリズムは存在しなかった、ということだ。オトナの都合ばかりを垂れ流し、アーティスト本人の資質や芸の向上はどうでもいいのだろう。


1月18日(月)22時、ツイッターの画面を開きながら、フジテレビ「SMAP✕SMAP」を見た。検索ワードはSMAP。みんな思い思いの意見を呟いている。このファンの、絞り出すようなつぶやきを拾いあげるマスメディアはあるのだろうか。 
ネットでは平等に賛否が語られていたが、マスコミは一方的で、SMAP四半世紀の功労者に寄り添うことは最後までなかった。