「武雄市図書館の時はド素人でした」とCCCツタヤ図書館長が「自白」/指定管理者制度 | なか2656のブログ

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本日、10月1日は、神奈川県海老名市カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下「CCC」という)を指定管理者に指定し、海老名市立中央図書館を、いわゆる「ツタヤ図書館」として「民営化」するリニューアルオープンの日でした。

そして、本日、ニュースサイトのハフィントンポストを開いたところ、トップ画面が大きなフォントで「武雄市図書館の時はド素人でした」というタイトルではじまるツタヤ図書館問題を取り上げる記事となっており、思わず笑ってしまいました。



・「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う?|Huffingtonpost

本年9月にはいってから、従来の提灯記事と異なり、複数のメディアがツタヤ図書館の問題点を正面から取り上げる批判的な記事を掲載するようになってきています。ハフィントンポストのこのトップ記事は、前日の記事とあわせて、猛攻撃といえると思います。

この10月1日付の「武雄市図書館の時はド素人でした」の記事で一番気になるのは、やはり記事のタイトルにあるとおり、2013年からCCCを指定管理者とする「民営化」によりツタヤ図書館となった武雄市図書館の館長であり、現在海老名市立中央図書館長に就任したCCC高橋聡氏本人が、武雄市図書館の蔵書の杜撰な選書の問題について、「武雄市図書館の時、僕たちはド素人でした。」「自白」していることでしょう。

すでにこのブログでも何回か取り上げているとおり、自治体が図書館などの「公の施設」について指定管理者制度を導入するためには、地方自治法上の手続きによることになります。

そして、地方自治法244条の2第3項は、自治体が公の施設について指定管理者制度を導入することができるための要件をつぎのように定めています。

地方自治法

第244条の2第3項

普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第二百四十四条の四において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。


つまり、「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるとき」が、指定管理者制度が認められるための要件です(鑓水三千男『図書館と法』84頁)。

この要件は、2003年の地方自治法改正により指定管理者制度に代わる前の旧制度である、「管理委託制度」の要件と同じなので、その意味するところは同じと解されます。

つまり、「①自治体が自ら管理するよりも、より一層向上したサービスを住民が享受することになり、ひいては②住民の福祉が更に増進される場合をいう」とされています(稲葉馨「公の施設法制と指定管理者制度」『法学』67巻5号61頁)。

すなわち、①自治体(官)が業務運営するよりも、民間企業(民)などが運営したほうが、より一層向上したサービスを住民が享受できること、それにより、②住民の福祉がさらに向上すること、の2点です。

ここで今回問題となっている公の施設である図書館の目的については、具体的には、図書館法2条に、「図書等を収集・整理・保存して一般公衆の利用に供する」ことと規定されています。

そして同法3条は1号から9号までで図書館の本来業務を定めており、図書の収集・整理・保存、住民への提供(同条1号)、レファレンス・サービスの実施(同条3号)、他の図書館と相互に連携しての図書館資料の相互貸借(同条8号)、図書館資料の分類排列を適切にしてその目録を整備すること(同条2号)など、各種のミッションを定めています。

今回の記事では、CCCの武雄市図書館館長であった高橋氏は、同図書館の図書館資料の選定について、当時の図書館の長たる館長として「武雄市図書館の時、僕たちはド素人でした。」と「自白」しています。

うえでみたように、図書館において、「図書等を収集・整理・保存して一般公衆の利用に供する」ことは、一番根幹となる重大な目的・ミッションです(図書館法2条、同3条1号)。

この一番根幹となる点について、CCCは「ド素人」であることを、CCCの館長が認めたのです。

この点に関しては、本年9月頃より、複数のメディアが、CCCが関連会社のネットオフから古くて価値がほとんどない本を大量に仕入れ、武雄市図書館に納入している、図書の不正な選書の問題を取り上げ、大きな批判を受けています。

また、2013年に武雄市図書館がリニューアルオープンするにあたって、重要文化財に指定されていた資料などを含む貴重な郷土資料が大量に廃棄されてしまったことも大きな批判を受けていました。

さらに、武雄市図書館において、レファレンス・サービスが十分に行われていないこと(同3条3号)も問題となってきました。

そして、10月1日にリニューアルオープンした海老名市ツタヤ図書館で大きく批判を浴びた、CCC独自の図書の分類も、利用者にとって非常にわかりにくく、また他の図書館との相互貸出などの連携を阻害するのではないかとの批判や指摘がなされてきました(同3条8号)。

・批判多数のTSUTAYA運営武雄図書館 市教委は「わからない」|NEWSポストセブン

・書籍・DVDなど大量廃棄 武雄市図書館新装時に|佐賀新聞

このように、指定管理者制度の導入によりCCCにより民営化された武雄市図書館は、①自治体(官)が業務運営するよりも、民間企業(民)などが運営したほうが、より一層向上したサービスを住民が享受できる状態とまったく異なり、CCCが運営することにより逆に武雄市図書館のサービスは大幅にレベルダウンという状態であり、それにより、②住民の福祉は逆に低下したのです。

つまり、CCCを指定管理者に指定することは、地方自治法244条の2第3項の、「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるとき」の要件をまったく満たしていません。

したがって、2012年度に武雄市がCCCを武雄市図書館に関する指定管理者に指定したという行政処分は地方自治法244条の2第3項に照らして明らかに違法です。

そして、自治体は指定管理者に対して、報告を求め、実地の調査を行い、必要な指示を出すことができます(同法244条の2第10項)。

さらに、自治体は、当該指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは、その指定を取消し、または業務の全部または一部の停止を命ずることができます(同条第11項)。

指定管理者制度導入後のツタヤ図書館としての武雄市図書館は、これまで約2年間、さまざまな問題が発生してきました。そして今回、その根幹というべき業務である図書資料の選書の不正・不当という問題が発覚しました。

そもそも2012年のCCCの指定管理者への指定の時点ですでに違法であったのですから、武雄市は直ちに武雄市図書館について、CCCの指定管理者の指定の取消し(同法244条の2第11項)を行うべきです。

また、うえで、要件を確認したとおり、指定管理者制度は、ごくおおざっぱにいえば、公の施設のサービスをより向上させ、住民の福祉を向上させるための法制度です。

もとより、企業としてのモラルもコンプライアンス意識も低く、業務品質も悪く、図書館運営の経験も無い「ド素人」たるCCCに、住民の大迷惑と引き換えに「お勉強」の機会を提供する法制度では全くないのです。

さらに、新聞報道などによると、現在、武雄市図書館に関しては、住民の方々から住民訴訟が提起されています。今回のCCCの図書館長の「ド素人」発言は、住民側の主張を支える間接証拠のひとつとなるでしょう。

あるいは、もし2012年当時、2013年当時にCCC側の組織・人間が「ド素人」であるというもっといろいろな文書などの証拠がでてくれば(あるいは出てくるべき文書が出てこないのならば)、2012年の武雄市のCCCの指定管理者の指定という行政処分について、それは違法であるとする取消訴訟を提起できるかもしれません。(「原告適格」が論点のひとつになると思われますが、近年、原告適格は認められる方向で拡大しています(行政事件訴訟法9条)。)

■ツタヤ図書館の問題に関するサイト
Twitter ID @todotantan 様のサイト
・#小牧市 新図書館の住民投票について #公設ツタヤ問題|海馬への境界線

武雄市図書館などに関するまとめサイト
・佐賀県武雄市の問題について:takeoproblem

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・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた/#公設ツタヤ問題

・武雄市図書館のCCC・ツタヤによる図書の選書を行政法的に考える

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・三鷹市立図書館開館50周年記念図書館フェスタと武雄市図書館について

・Tサイト(CCC)から来た「アンケート」のメールが個人情報的にすごかった/利用目的の特定


図書館と法―図書館の諸問題への法的アプローチ (JLA図書館実践シリーズ 12)



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