文福の物語② | さくらの里山科公式ブログ ご入居者様とワンちゃん、猫ちゃん

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昨日の文福の記事の続きです。


ジイチャンは俺を車に乗せると、大きな灰色の建物の前でおろした。


「ほな頼むわ」


ジイチャンは建物から出てきたおっちゃんに言うと、車に乗っていってしもうた。


待ってくれや!なんで俺を置いていくんや!こんな所にいとうないで


俺は力の限り吠えたが、ジイチャンは無視して行ってしもうた。




その建物からは、おどろおどろした黒い雰囲気が感じられた。


ここには入りとうない。


俺は精いっぱい抵抗したんやが、ずるずると引きずられて、暗い部屋に押し込められてしもうた。


そこには昏い目をしたワンコ達がたくさんいた。


こんなところは嫌や。


誰か助けてくれー  ワォーン! ワォーン!


俺はのどが潰れそうになるくらい遠吠えを繰り返したんやが、誰も助けてくれなかった


夕方、作業着を着たおっちゃんが、餌の入ったバケツを幾つか持ってきた。


「かわいそうになー。何もしてやれんでごめんな」


おっちゃんは俺の頭を撫でてくれたが、俺は不安になった。


かわいそうってなんや?


俺は何をされるんや?


餌の入ったバケツに、ワンコ達が群がってきた。


皆我先にと食べていた。


弱そうな奴ははじき出されて、餌が食べられへんかったようや。かわいそうにな。


俺は体も大きいし、他の奴らには負けへんから餌にありつけたけど、ここはひどいところや。



翌日になると、いきなり壁がガーっと動いてきたんや。


なんやっ、なんやぇつ


俺はパニックになって吠えまくった。


でも壁は容赦なく迫ってくる。


俺らは壁に追い立てられて、隣の部屋に押し込まれた。


その日は、何人かの人間が来て、何匹かの犬を連れて行った。


助けが来たんかっ! 俺も連れてってーや!


俺は、来る人来る人皆に、クンクン鳴いて、連れて行ってくれと頼んだんやが、誰も俺のことは連れて行ってくれへんかった。


この日の夜も、真っ暗な部屋で、冷たいコンクリートの床の上で寝た。


まだそんなに寒うない季節やったんやけど、コンクリートの冷たさは、俺の身体を芯まで凍えさせた。


あの冷たさは忘れられんわ



3日目、また壁が動いて、俺らは隣の部屋に追いやられた。


お昼頃、少し離れたところから、かすかにワンたちの苦しそうな鳴き声が聞こえていた。


あれは悲鳴や。何が起きているんや。


すぐに鳴き声は聞こえなくなった。


ワンコ達は死んでしもうたことが、俺にははっきりわかった。


俺たちは、やがて殺されるんや。


この先には地獄がある。


このままだと俺は地獄に送られるんや。





俺は心の底から怖くなった。


誰か助けてくれ


オトン、オカン、大きいアンちゃん、助けてー


キャイーンッ!  キャイーンッ!


俺は声をからして叫んだが、誰も来てくれなかった。


その日も何人かの人間がやってきた。


お願いや、俺を連れて行ってくれや。助けてくれや。


いくら頼んでも、誰も俺のことは連れていってくれへんかった。


あかん、俺はもう終わりや。


地獄へ行くしかないんや。


俺は冷たいコンクリートの上で、がたがた震えとった。


真っ暗や夜は怖かったけど、俺は朝がこないことを祈とった。




でも朝はきてしもうた。


また壁が動いて俺らは隣の部屋に追い込まれた。


壁の向こうからワンコ達の悲惨な悲鳴が聞こえてきた。


はっきりとワンコ達の苦しみが伝わってきた。


隣でワンコ達が死んでいるんや。


隣が地獄なんや。


俺はガクガク震えたわ。


あんな怖い思いをしたことはあらへん。


心の底からブルっていた。


明日は俺の番や。


もうだめや。俺は終わりや。


俺はもう何もかも諦めた。


もう鳴き声を上げる気力もなかった。


起き上がることもしたくなかった。


冷たい床に蹲って俺は動くことをやめた。


もう終わりなんや…




その時、奇跡が起きたんや。


2人の人間がやってきたんや。


「この仔まだ若いよ。身体は大きいけど子犬だよ。何とか引き出せないかな」


「うーん、預かりさんはもう一杯なんだけれど…うん、何とかしよう。もう時間がない」


それが俺の救世主、ちばわんのOさんとSさんとの出会いだった。


OさんとSさんは、俺を恐怖の部屋から連れ出してくれた。


俺は助かったんやっ!


地獄に行く一歩手前で救われたんやっ!


俺にはOさんとSさんが女神様に見えたわ


この恩は一生忘れへんで





それから俺は「検疫」つうところに入れられた。そこで3日間過ごした。


もしこの時、何か感染症にかかっていることがわかったら、俺はやっぱりお陀仏だったそうや。


ラッキーなことに、俺は感染症にかかってなかったんや。


3日後、俺はOさんとSさんに連れられて、恐怖の建物を後にしたんや。


恐怖の建物から無事生還したんや!


ここから先は、みんなが知っている通りや。


ちばわんに助けられた俺は、さくらの里山科にやってきた。


今はめっちゃ幸せや。


俺は生きているんや。


生きるってすっげー楽しいんやで。


美味しいご飯も食べられるんや。


お散歩はめっちゃ楽しいし。


土の上を走るのは最高やし。


人間に撫でてもらうのはええ気分やし。


俺は本当に生きていてよかったわ。


ちばわんのみんな、ありがとうな。


この恩は忘れへんで。