岩田規久男日銀副総裁が金融経済情勢と金融政策運営と日本経済について言及されています。消費者物価に関する内容を中心に見てみましょう。

《最近の金融経済情勢と金融政策運営
 ── 岡山県金融経済懇談会における挨拶 ──》
(日本銀行 岩田規久男副総裁,2015.12.02)


量的・質的金融緩和により、2014年4月迄は物価上昇率が上昇したが、消費増税によりデフレに戻りかけた(図表7)。その対策として、追加緩和を実施した、ということだそうです。

岩田規久男日銀副総裁
"[前略]
①消費者物価の動き
まず、「量的・質的金融緩和」が始まるまでの期間では、エネルギーを含む 消費者物価の前年比は、エネルギーのプラス寄与と、エネルギーを除く消費者物価のマイナス寄与が合わさることで、概ね若干のマイナス圏で推移していました。つまり、エネルギーを除く消費者物価でみると、エネルギーを含む消費者物価でみるよりもデフレ的だったということです。
一方、「量的・質的金融緩和」を開始して以降は、エネルギーを除く消費者物価のマイナス寄与が縮小し始めて、2013年の秋口にはプラス寄与に転化し、消費税率の引き上げが実施された2014 年4月頃までそのプラス幅は拡大を続けました。この間、エネルギーのプラス寄与もあり、エネルギーを含む消 費者物価の前年比も上昇を続け、2014年4月には消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで+1.5%に達しています。すなわち、「量的・質的金融 緩和」開始から消費税率の引き上げが実施された昨年4月頃までは、消費者 物価の前年比は、2%に向けて順調に上昇し続けていたということです。
その後、2015年初までは、消費税率引き上げの影響もあって、エネルギー を除く消費者物価のプラス寄与は縮小しました。さらに、2014年の夏頃から、 原油価格の大幅下落が消費者物価前年比のプラス幅を縮小させる要因として 働くようになりました。こうした状況を踏まえ、デフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するために、日本銀行は、2014 年 10 月末に、「量的・質的金融緩和」の 拡大を決定しました
その後の推移をみると、エネルギーを除く消費者物価のプラス寄与の縮小 は 2015 年初で止まって拡大基調に戻り、足もとでは+1%程度と、「量的・ 質的金融緩和」開始以後、最大の寄与度となっています。また、この間、エ ネルギーを含む消費者物価の前年比は低下していますが、その主因は、エネ ルギーのマイナス寄与の拡大であることも分かります。
以上のように、消費税率引き上げでいったんデフレに戻りかかった物価の基調は、「量的・質的金融緩和」の拡大の効果が発揮されて、2015 年に入っ てからは、2%に向けた上昇軌道に戻っていると考えています"

[中略]

③中長期の予想インフレ率
[中略]以上説明しましたとおり、消費者物価の動き、需給ギャップ、予想インフ レ率という3つの観点全てにおいて、物価の基調が、2%の「物価安定の目 標」達成に向けて着実に改善していることが確認できます。こうしたもとで、 エネルギーを含む消費者物価の上昇率は、原油先物価格なども踏まえますと、 「2016 年度後半頃」に2%程度に達すると考えています。
 もちろん、実際の経済には様々な不確実性があります。現在最も重要と考えているのは、中国をはじめとする新興国や資源国の経済が一段と減速し、わが国経済に悪影響を与え、物価の基調に下振れをもたらすリスクです。今後の金融政策運営に当たって、そうしたリスクの顕在化によって、物価の基調が悪化するようであれば、躊躇なく対応します"


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図表からは、2012年の終わり頃にプラスのショック、2014年4月頃にマイナスのショックがあったことが伺えます。

2014年4月には何があったのでしょうか?

日銀が金融政策を引き締めに転じる、というようなことをしたのでしょうか?
デフレ維持の白川第30代日銀総裁が復職するとの噂でも流れたのでしょうか?
慶応大学関係者の土居氏が主張されたような人手不足や野菜不足が激化したのでしょうか?

消費増税よりも大きなマイナスのショックは、見当たりませんね。


この後、岩田規久男日銀副総裁は記者会見でコメントを。

《岩田副総裁記者会見要旨》(2015.12.02)


"[前略]
物価の基調がどういう状況にあるかということを判断するということです。その場合、エネルギー価格がこれだけ安くなっていることが撹乱要因になってい ますので、物価全体を含めて色々と指標をみるわけですが、エネルギーを除いた基調をみることが重要であると話しました。それから需給ギャップがどのように縮んでいるか、雇用などがどのような状況にあるかも判断材料です雇用がタイトであればあるほど、結局賃金が上昇しながら物価が上昇すると思っています
それからもう 1 つ大切なのは、予想物価上昇率です。これは人々の現在の行動は、将来どうなると予想しているかに依存するためです。予想物価上 昇率に関しては、弱めの指標があるということですが、例えばBEIなどは弱めであったものが最近は反転しているため、こうした指標の動きは中長期的にみていきたいと考えています。そのほか本日の講演ではあまり述べませんでし たが、物価の基調を判断する上で、価格が上がっている品目と下がっている品目の比率の差をみると、現在は上がっている品目の比率の方が下がっている品目の比率を 4 割くらい上回っていて、特に 15 年度以降、上がっている品目の比率が増えているという特色があります。あるいは、東京大学や一橋大学の日 次・週次物価指数も一つの参考指標です。これも昨年の消費増税後の動きと最近の動きとでは、最近の方が上がっています。ということは、逆に家計の方も ある程度物価の上昇、価格の上昇を受容するようになっていると思います。予想物価上昇率をみる上では、色々な指標をみていく必要があると思いますが、 そういったことが物価全体の動向あるいは将来の動向をみる上で必要です"

様々な指標を見て物価の基調を判断しているということですね。日銀では潜在成長率を0%台の前半から中盤と低く見ており、需給ギャップが過小評価されていると思われます。
自然失業率は3.5%前後と言われていましたが、直近の失業率は3.1%でした。失業率が3.1%でも賃金の上昇は緩やかで、内閣府による需給ギャップ
は2015年7-9月で1.6%もあります。
物価安定目標の達成時期を2016年度後半と後ズレさせておいて、基調が下ブレしていないから緩和しない、ということでしょうか?
即座に追加緩和は必要ないと判断した根拠を聞いてみたいものです。


"[中略]
日本銀行は消費税再増税が行われることを前提に金融政策を運営しています。そういった中、消費税再増税の影響が前もってはっきりと分かることはなく、不確実な要因が多くあります。現在はその不確実な要因があることを踏まえて、金融政策を行っていますが、実際に再増税が行われて、その影響をみなければ金融政策の運営を判断することはできません。今のペースで金融政策を行うことで問題はないと思っていますが、現時点では消費税再増税が金融政策の運営判断に及ぼす影響について、予断を持って申し上げることはできません
[中略]
現在、物価安定の目標の達成が遅れている最大の理由は、原油価格が 一時期 6 割も下がって、一旦上がるのですが、また下がってきて、最近でも低 迷しているという状況です。原油価格の低下が永遠に続けば、物価に対して下押し圧力が続きますが、こういう短期的で急激な変化があれば、どこの国の中央銀行でもそうですが、物価安定の目標からは外れるわけです。外れたからといって、どこの中央銀行も大幅な緩和をしていないのは、原油価格の変化で物価安定目標の達成が少し後ずれすることは許容するというのが、先進国の多くの中央銀行の、あるいはその先進国の人たちの、共通の理解だからだと思います。
[中略]
金融政策を十分緩和していることが前提ですが、物価の基調を中長期的に上げる力も持っているということであり、そこの兼ね合いをみながら、金融政策を運営していくということです。主要先進国では日本銀行以外でも、原油価格が急激に下がったということをもって、物価安定の目標の達成時期が遅れるから、猛烈な金融緩和をするというような金融政策は、標準的な金融政策の理論や実践に照らしても、考えにくいということです"


原油価格下落による影響には金融政策では対応しない、物価上昇の基調が続いていると判断しているから追加緩和しないということのようですね。

日銀は強気の見通しを出しては下方修正を繰り返してきた前科が多数あります。
2度の消費増税を織り込み済みだったはずの金融緩和で、追加緩和を必要とし、安倍政権は消費再増税を延期しました。

低く目の潜在成長率、高めの自然失業率などに惑わされることなく、フォワードるっきんぐーな金融政策運営を期待します。