【1都8県にまたがる地図にない「山脈」】

「日本は独立国家ではない」とか、「米国による対日占領体制は、まだ終わっていない」とか。

 そんなことは何となく知っているし漠然と感じてもいる。沖縄でまた女性が米兵に暴行殺害された。反対運動は起きているけれども、日本の軍国化=自衛隊の米軍化は露骨に進んでいる。パスポートなしで膨大な数の米軍関係者が今日も基地と日本を出入りしている。Yナンバーの車と接触しても保険は降りない。麻痺しそうなくらい「属国」な現実。いや、ほとんどの人にとってこれはもはや日常か。

 皆さんは「横田空域」というものをご存知だろうか?関東から甲信越にかけて太平洋と日本海にまたがる2400~7000mの空域は完全に米軍の支配下にあり、日本の民間機はそこを飛ぶことができない。羽田空港を発着する民間機が千葉方面を急旋回、急上昇するリスクをとるのはそのためである。これを知っている人はおそらく、日本の1%くらいだろう。厚木、横須賀、座間、横田、六本木の米軍基地を軸に、東京、神奈川、埼玉、栃木、群馬、新潟、山梨、長野、静岡の1都8県にまたがる巨大な「見えない山脈」。この稜線の見える人が人口の10%くらいになったら、この国はかなり独立に近づくだろう。この山脈は右側からも左側からも見えるはずだ。





【密約の嵐ー米国との"discussion(討論)"ー】

 10万部を超えたセンセーショナルな前作『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』において、

・マッカーサーと昭和天皇の関係性
・GHQによる英文の憲法草案
・新旧安保条約締結に紐づけられた協定と密約
・日米合同委員会という非公開協議の存在
・砂川裁判による最高裁と憲法の無効化
・国連憲章における「敵国条項」の存在

などから「戦後日本」という特異な国が置かれている厳しい(法的な)立場を、米国務省の公文書といった確かなソースで解き明かしていった矢部宏治氏。

 「立憲国家としての自主決定権を手にするには、我々は自分たちの手で憲法を1から書き直すという途方もない道のりを歩み始めるしかないんだ」という前作の結論は、平和憲法9条はあるけど米軍と自衛隊がいて武器も輸出してる、事故を起こしても国民世論を無視して原発は稼働して輸出もしようとしてる、そんな矛盾を山ほど抱えて出口のない袋小路にはいり込んでいた多くの日本人の意識を「そして、ここから」のステップへと引き上げる起死回生のエールとなった。あのオレンジ色の本を読んで、顔が上がった、そういえば自分はうつむいてた、と気づかされた人も多いと思う。

 そして続きのイエロー本が届く。


【条文のトリック、その方程式を解く】

 今作で著者は、日本をがんじがらめにしている日米の安保条約と地位協定、密約の体系をさらに綿密に解き明かし、法律の方程式を逆算していくことで、(これまで一部の日本人と米国人しか知らなかった)米日関係における米国筋、日本筋の本当の狙いや、その法的な不平等性を立証することに成功している。

 条文に秘められたトリックを解き明かすポイントとなっていくのは「いつ、どこで、だれが、なんの」取り決めをしたか。これによって「なんのために」が顕われてくる。そして、条文に書かれたことと矛盾した現実(9条と自衛隊など)が、かなり当初から意図されていたことがハッキリとしていく。あらゆる矛盾点をクリアするための迂回路やセーフティネットが、条文や密約文書の中に張り巡らされている。

 機密解除された米国の公文書や、数々の公的メモ、証言などからこれまでほぼ99%の日本人が知り得ていなかった「ウラの法体系」が浮かび上がってきた。独立から66年経った今でも、なぜ安倍内閣に答えられない質問が多くあるのか?なぜ論理破綻を重ねて立憲国家の体裁をかい滅させてでも集団的自衛権の行使に向けて進んでいかざるを得ないのか?なぜ、米国の省庁の資料保管と情報公開による歴史の整理に比して、日本では外務省が日米交渉の極秘資料を大量に無断で破棄し、国会で追及されたりする末期状態なのか?(「密約の重要資料、半数破棄か 東郷元局長、衆院委で証言」朝日新聞 2010年3/19)

 敗戦後の占領体制から、米日交渉のタイムラインを丁寧に追っていくことでこうした無数の「なぜ?」が解き明かされていく。


【マッカーサーとダレス、そして朝鮮戦争】

 戦後のGHQ時代を経て、1950年代の日米安保をめぐる交渉を通じ、米国側の体制は大きなシフトチェンジを行っている。それは朝鮮戦争勃発(1950)、そしてマッカーサーの解任(1951)に象徴される。

 第二次大戦後の世界は、日本もアジアも米国も欧州も、時代が「もう戦争に懲り懲り」ていた。戦争そのものを違法化し、個別国家による戦争を禁じた戦後世界を築こうとする理念が、国連の形成にもたしかに影響を与えていた(すくなくとも表向きは)。何よりも、戦争の最たる当事者である各国の軍隊にこそ、厭戦的な雰囲気が漂っていた。マッカーサー自身もそうかもしれないが、GHQによる憲法草案の主筆であるケーディス大佐には特に、そうした新世界秩序への理念が認められる。

 そうした中で、日本の徹底的な軍備解除と戦争放棄の新憲法(平和憲法)は、各国が個別の軍隊を放棄して国連軍による統治を目指す、革新モデルの第1号となるはずだった。「日本は丸腰でも、沖縄に配備された核で守れる」はずだった。少なくとも、当初のマッカーサーの目論みでは。

 だが、国連軍への参加の仕方をめぐる安保理5カ国の協議は米ソの意見が食い違ったまま平行線をたどり、結局今にいたって実現せずに霧散している。1949年、ソ連の核実験成功、中華人民共和国の誕生(中国の共産党政権成立)、そして1950年、突如として金正日率いる北朝鮮が38度線をこえて南進を始めて朝鮮戦争が始まったことで、わずか4年ほどにして「戦争に懲りた世界」は「冷戦の世界」へと向きを変えることになる。

 そのシフトチェンジの中で、戦後世界の設計者の一人、ジョン・フォスター・ダレス(のちの国務長官)が日米交渉の糸引きを完璧にこなし、マッカーサーモデルからダレスモデルの戦後日本への移行が進む。わずか数年前に制定した理念的な平和憲法を様々な条文と密約で骨抜きにし、実態として「あたかも国連軍のような米軍を支援(support)し続ける日本」を確立。独立に際する平和条約、安保条約、行政協定(地位協定)、密約の「安保法体系」を作り込むことでそれらを法的にガッチリと固めていく。この過程において、吉田首相や岸首相といった当時の日本の指導層がとった(とらざるを得なかった)姿勢は「条文上のアビアランス(みせかけ)だけは国民の納得のいくように整えてほしい。あとの秘密にしたい(国民や国際世論が怒りそうな)ことは全て、非公開の合同委員会の協議という形の中で処理したい」というものであった。こうして出来あがったのが、

 「平和9条をかかげて、軍備と戦争の放棄をうたっている日本」
 「朝鮮戦争以来、米国の世界戦略の最大の後方支援国である日本(自衛隊付き)」

という、立憲国家としての存在を根本からあやふやにしてしまう「ツギハギだらけの法的な怪物(ジュリディックモンスター)」としての日本の存在であった。



 ダレスは国連憲章そのものも手がけている人物。その彼が、朝鮮戦争を格好のチャンスに変えて自分が書いた国連憲章の様々な条文を駆使して日本との交渉をリードし、新憲法を骨抜きにしてまで、マッカーサーが描き始めた「戦後日本」をダレスモデルに巧妙に塗り替えていったのだ。この時期、彼らが思い描いた日本のあり方は「朝鮮戦争が終わったとしても、この占領下の戦時体制における日本の最大限の利用(軍事含む)を、朝鮮半島以外でも成立させる(=米軍の指揮下で戦闘することを含む)」というもの。独立から66年経った今、まさにそのシナリオ通りの日本が安倍内閣によって成立したが、安倍内閣がくり返す矛盾した答弁の内容は、当時の米国筋が書き残したメモや条文、原案そのものなのである。

 9条を掲げた護憲勢力の最後の砦でもあった「海外派兵だけはくいとめる」が、事実上崩壊した解釈改憲には「日本の憲法なんざ、建前だけで関係ないよ。」というダレスの亡霊の高笑いが聞こえてきそうな、米国譲りの知恵を感じ取れる。これによって今、法的に確かなのは「自衛隊が世界のどこででも、米軍の指揮下に入らなければならない」事態が成立することであり、またその「事態」が起きているかどうかの判断はすべて、米国によるということ。

 「指揮権を他国が持っている自国の軍隊」などあり得ない、ということに何も感じないのだとしたら、あなたも「属国日本」に心から染まってしまっている証拠かもしれない。世界にそんな状態にある独立国は、他に一つもないのだから。


【そしてここから】

 これらの法的、歴史的な事実をふまえて、我々が日本の自主決定権を回復(構築)していくためには、

・シビリアンコントロール(文民統制)の効いた自衛隊による専守防衛(=集団的自衛権の否定)

を規定した修正条文を9条2項以降に追加して、9条の現状を強化するという方法が提案されている。



 フィリピンが米軍を追い出した「加憲」型の憲法改正だ。

 あるいは、ドイツのように占領期に結ばれた不平等条約の数々を、外交官や政治家たちが粘り強く一つ一つ解消していく努力も、求められるだろう。比して、日本の外交官は米国と命を懸けて「discussion(討論)」できているだろうか。

 暫定的な国連軍として日本や韓国に不当に米軍が駐留し続ける「口実」となっている「朝鮮戦争はまだ正式に終わっていない」という状態を解決するために、東アジアの平和に日本としてのエネルギーをしっかりと注いでいくことも大切だ。

 こうした安保法体系の事実を理解できている官僚も、実は少ないであろうと著者は指摘する。そこで文字を大にして訴えておくことにする。

 官僚の皆さん、外務省以外の方も含めて、どうかこの本を読んで下さい。そして、国民に愛される役人として日本の自主決定権を勝ち取るために、全身全霊を尽くして下さい。僕も協力を惜しみません。

 この本の内容を理解し、説明できる人が国民の10%を超えたら、たしかに何かが変わり始めるだろうと思う。自分たちが何をどのように侵害されているのかが分からなければ、それを変えようという気持ちも湧き起こらない。そうした気持ちの湧き起こらないことを「奴隷」状態というのかもしれない。

 その第一歩として、この本が100万部売れることを願い、協力していきたいので三宅商店としてもいきなり100部を仕入れた。前回のオレンジ本も300部ほど売り切った。今回も500部は売りたいと思っている。

 このオレンジとイエローの2冊は、戦後日本史の「赤バイエル・黄バイエル」とも呼べるだろう。



 どうか一人1冊を3回読んでほしい。
 どうかあなたの近くのもっともこれを理解できそうな人数名に1冊づつ贈呈してほしい。
 そしてこの事実を、国外にも適確に伝えられる日本人を増やしてほしい。

 「基地を止められる日本」
 「原発と被ばくを止められる日本」
 「戦争を止められる日本」、になるために。



 実現可能なシナリオさえ描ければ、アメリカの政治家や外交官のなかで話にのってくる人間は、かならずいるはずです。現在のような「法的怪物(ジュリディックモンスター)」としての在日・在韓米軍のあり方と、それらが支配する極東の政治状況は、けっしてアメリカという国家のメインストリームが、事情をよくわかったうえで公認しているものではないからです。
(本文309ページより





『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』 矢部宏治 1,296円
http://miyakeshop.com/?pid=102576520



『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』矢部宏治 1,296円
http://miyakeshop.com/?pid=86709754




2冊セット 2,592円
http://miyakeshop.com/?pid=102576957