【映画A2-B-C】福島市で初上映会。29日は仙台~世界各国から寄せられる「フクシマを忘れない」 | 民の声新聞

【映画A2-B-C】福島市で初上映会。29日は仙台~世界各国から寄せられる「フクシマを忘れない」

日本在住の米国人監督イアン・トーマス・アッシュさん(38)が取材したドキュメンタリー映画「A2-B-C」が28日夜、初めて福島で上映された。海外の映画祭で3つのグランプリに輝き、来春には全国ロードショーが予定されている。原発事故以来、福島の大人たちはどうやって子どもたちを被曝から守ろうと奔走してきたか。どんな壁にぶつかってきたか。密着取材で生々しく映し出される今の福島に、海外からは激励のメッセージが寄せられる。「出演した勇気は素晴らしい」「フクシマを忘れない」。現在進行形の原発事故。福島の母親たちの後ろで、世界の人々が見守っている。


【3つの海外映画祭でグランプリ】

 世界各地からのメッセージがまとめられた映像が流されると、客席からはすすり泣く声も聞かれた。ロンドン(イギリス)、オークランド(ニュージーランド)、ボストン(アメリカ)、ワルシャワ(ポーランド)…。作品を観た観客から福島に寄せられたメッセージは、異口同音にわが子を守ろうと立ち上がった母親たちの勇気を称えていた。

 ドイツ・フランクフルトでの映画祭で「ニッポンヴィジョンズ賞」を受賞して以来、イアン監督は世界各地で開かれる計19の映画祭に出品、グアム、ウクライナの映画祭でグランプリなどを受賞した。映画祭のたびに、イアン監督はカメラを手に観終わった観客の言葉を収録した。「あなたたちは正しい」「あなたたちの子どもは宝だ」「あなたは独りじゃない」「福島に寄り添います」「福島を決して忘れない」。多くの人が涙をこらえながら、福島への思いを語った。そしてそれは、わが子の被曝を回避しようと奔走している母親らの行動が間違っていないことを、改めて証明していた。

 「ウクライナでグランプリを受賞できた意味は大きい。チェルノブイリを経験した土地ですから」とイアン監督。現地で耳にした言葉は忘れられないという。「『また起きてしまったのか』と言われました。『二度とチェルノブイリのような事故を起こさないために様々なことに取り組んでいるのに、また起きてしまったのか』と。将来、福島の人々が同じセリフを口にする事態にならないためにも、世界に発信していかなければならないのです」。

 作品の中で、17歳の女子高校生が「福島はどんどん忘れられている」と語る。その言葉に、世界の人々から「私たちは忘れない」との言葉が寄せられる。同じ国に住む私たちはどうだろうか?原発事故は現在進行形なのだ。
民の声新聞-小国①
作品にも登場する伊達市立小国小学校。除染は

終わったものの現在も、高い放射線量の中、子

どもたちは通学を強いられている

=2013年3月撮影


【「海外から発信してもらうしかない」】

 イアン監督の密着取材に応じた伊達市の母親は、「あの時、日本はもう駄目だと思った」と涙ながらに振り返った。「新聞もテレビも雑誌も真実を伝えてくれない。だったら、もう海外から発信してもらうしかない。それをやってくれるのなら、家族で全面的に協力しようと思ったのです」。
 作品中、北海道からやってきた26歳の除染作業員は流暢な英語でインタビューに応じている。「これで福島がきれいになるとは思わない」「本当のことを全国の人が知ったら大変なことになる」と語る。
 幼稚園児の女の子は、こわばった表情で甲状腺のエコー検査を受けた。伊達市や福島市の市会議員が、行政の対応の問題点を語る。顔を隠すことなく、大人も子どももカメラの前で今の福島を語る。どれもが、原発事故後の福島の姿。安倍首相が汚染水問題で「完全にコントロールできている」と高らかに語ろうとも、中通りにまで及んだ汚染は解消されていない。被曝の危険性は“風評”ではないのだ。ここには「おもてなし」も「倍返し」も「じぇじぇじぇ」も無縁の、先の見えない闘いがある。

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民の声新聞-菅野議員
(上)26歳の除染作業員は北海道出身。伊達市内

の民家除染に携わったが「もし、自分に子どもがい

たら、ここには住みたくない」と話した

(中)「ふくしま共同診療所」で甲状腺のエコー検査

を受ける女児(幼稚園児)

(下)伊達市の菅野喜明市議。「将来、子どもたち

に健康被害が出たら、市長の責任を問わなければ

ならない」と語る=いずれも「A2-B-C」より


【「“心配し過ぎ”の後悔の方がはるかに良い」】

 「映画祭に参加するたびに『福島の人たちはどうすれば良いとイアンは思うか?』と尋ねられる。正直、私は分からない。のう胞が見つかったからといって、必ずしもガンになるとは言えない。でも、一つだけ言えることがある。後悔の仕方です。“やり過ぎ”、“心配し過ぎ”、“お金の使い過ぎ”の後悔の方が、“あの時もっとやっておけば良かった”、“なぜあの時やらなかったのか”という後悔より遥かに良いということです。違いますか?」

 上映後、観客との質疑応答に参加したイアン監督がこう問いかけると、客席からは大きな拍手が起きた。年内は京都、神戸、広島、そしてニューデリー(インド)の映画祭へさらに出品する。来春には全国ロードショーも計画されている。一人でも多くの人に観てもらい、福島の現状を知って欲しい─。それが被曝回避に立ち上がることが間違いでないことの後押しになれば良い。そうイアン監督は考えている。


※29日の仙台上映会は10:30-13:00、19:00-21:00の2回。会場はせんだいメディアテーク7階 スタジオシアター。問い合わせは東北大学大学院情報科学研究科メディア文化論研究室090(4428)6345=坂田邦子講師=まで
民の声新聞-上映会

民の声新聞-イアン
イアン・トーマス・アッシュ監督。ドイツやグアム、

ウクライナの映画祭でグランプリなどを受賞。「こ

の映画のヒーローはお母さんたちです」とあいさ

つした



(了)