女王のように | 浅慮相乗のブログ

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『指輪物語』、映画にもなっていますので、あらすじをご存知の方は多いとおもいます。長編の物語で、山場もあちらこちらにありますが、今日、思い出したのは、ほんの小さなエピソードです。

フロドとサムが滅びの山の亀裂に一つの指輪を投じる旅路で、ゴンドール大公国の第二公子ファラミアと出会います。その高潔な人柄を見て、フロドは指輪を管理してくれないかと頼みますが、ファラミアは断ります。

ゴンドールがかつてのように女王の気品を持って光り輝くのを見たいが、指輪の力でそうしようとは思わない、それでは奴隷の女主人と同じだから。喜んで働く奴隷達の親切な女主人であっても、と。


佐賀県武雄市の武雄市図書館がグッドデザイン賞の金賞を受賞しました。概要については通商産業省の 資料 をご覧下さい。

「“図書館を中心とした市民生活の提案”という市民の新たなライフスタイルをデザインする「新・図書館構想」」

その提案は、市長と随意契約による指定管理者によるものでした。そこに、市民の意思は殆ど反映されませんでした。

「判断の基準は、私の場合、直観。自分が行きたい図書館をつくる」
「極端に言えば、『市民が主役』とは全然、思っていません。政策は商品。それを市民がどう評価するか。スピードが最大の付加価値」
東洋経済ONLINE より

デザインは大勢で妥協を重ね、作り上げるものではないのかもしれません。けれど、行政が一部の人間の意図により行われることは、望ましいことなのでしょうか?行政の原資は税金です。あなたや私が納めた税金です。市税のみならず、地方交付税交付金や、各種補助金の形で投入されています。

改修後のハードウェアにも問題があります。消防法違反の部分ができてしまい、一部、立ち入り制限をしなければならない箇所ができました。2階のキャットウォークです。本来なら双方向に脱出路を確保しなければならない長さですが、一方向にしか階段がないため、立ち入り制限で何とかクリアしています。キャットウォーク等の問題点については、 「武雄市図書館2階のポールパーティションと巨大書架のリスク」 にまとめられています。

書庫をなくし全面開架としましたが、複雑な構造と高層書架、独自分類とがあいまって、書籍、資料を探しにくいとの声も上がっているようです。また、「千円図書館ってなあに?」に書いたように、カフェがあるのはともかく、座席数に課題があります。
「万人に受けようと思ったら、ものすごいつまんない図書館しか出来ないんですよ。この図書館が嫌だったら他所の図書館に行きゃあいいんですよ」

グッドデザイン金賞を受賞した武雄市図書館は利用者に奉仕するのではなく、利用者がそこに順応することを要求しているのです。いみじくも、市長自身が 放言 しています。

まるで、主人に服従する奴隷のように。

女王のように端正な佇まいの建物は現市長の就任前、2000年10月に完成しています。

かつて、その内部は、様々な人の、様々な利用に応える、懐の広いものでした。女王のように、威厳がありながらも、人々を惹きつけ、人々から慕われる建物でした。その面影は今、 記憶 の中にのみあります。


武雄市図書館については、 まとめサイト があります。また、 市民による学習会 もあります。

普段、図書館を利用していない方は多いと思います。使わないのだから、別にどうなってもかまわないという方もいらっしゃるでしょう。けれど、武雄市図書館の改修問題が問いかけているのは、生活に密着した行政の暴走を、どう考えるかということなのです。