震災復興や国土強靭化、それに東京オリンピックに向けて、官民挙げての施設建設やインフラ整備が必要なのに、既に供給力は限界に達している。特に人材不足は深刻で、当ブログでも何回か取り上げているが、その後も更に悪化しているようだ。
有効求人倍率(H25年11月の季節調整値)は、やっと1になったばかりだが、ご覧のように建築関係の職業は平均よりはるかに高い。データがないので断言はできないが、建築関係の設計技術者もかなり不足しているはずだ。
建築関係の中でも特に建築躯体工事に携わる人の不足が突出しているが、この事実は麻生副総理兼財務大臣も非常によく知っていて、昨年暮れの記者会見で次のように説明している。
人手不足に関して言わせてもらえれば、間違いなく今鉄筋の曲げ工から型枠工、鉄筋コンクリートを作る時、建物を建てる時に鉄筋を曲げたりするのが鉄筋の曲げ工です。型枠工というのは、固めた鉄筋の枠に木枠をずっとはめていくのを型枠工と言うのですけれども、曲げ工、型枠工に至るまで数が足りません。間違いなく足りません。
(中略)
1級建築士が10人集まっても家は建たないんです。当たり前の話でしょう。大工がいなければ、左官がいなければ家は建ちません。1級建築士が10人集まっても家は建たないのです。そういった現実というものが、少しずつ今、我々としては、地方においてこういうことになってきますと、人口減は結構大きな問題になってきていますと、私共はそう思っています。ですから結構厳しいのです、この話は。
【麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成25年12月24日(火曜日)】より
【麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成25年12月24日(火曜日)】より
麻生副総理がここまで認識していることは、安倍政権全体としても土木建築の工事供給力不足を把握しているということだろう。しかも、人口減にまで言及しているのは、この件を現在および将来の大きな問題だと認識しているということになる。
これは他の業界も同じだが、現在の日本は建築躯体工事や測量技術者のように、資格や経験の必要な職業が人材不足になっている。建築業界では、公共事業の象徴ともいうべきコンクリートを作るための技能工不足が、一番のネックになっているのである。
その一つの解決策として、以前のエントリで予算編成や執行の工夫で年末や年度末に集中する工事を平準化することを提案した。もう一つ考えられるのは、地域による忙しさのばらつきをうまく調整して工事力をカバーすることだ。
地域のばらつきを見たいのだが、職業別・地域別の有効求人倍率のデータがない。そこで、全体の数値を都道府県別に比較してみた。有効求人倍率が1になったと言っても、人材不足が深刻な地域と、逆に雇用がまだ厳しい地域との差は大きいようである。
有効求人倍率の低い沖縄、埼玉、鹿児島など各県に型枠工や鉄筋工が余っているかどうかは不明だが、西日本は建築業者がヒマだという話も目にしたことがある。人材情報をもっと広く共有し工夫をすれば、不足を少しはカバーできるのではないか。
そして、人材不足を根本的に解消しようとすれば、不足している人材、今後不足しそうな人材を意図的に増やすしかない。ところが、有効求人倍率に表れているように、この職業に就きたいと考える人が、そもそも少ないという問題がある。
ここ最近の有効求人倍率は月ごとに改善しているが、完全失業率が横ばい(4.0%)となっているのは、そういう意味での求人と求職のミスマッチの可能性がある。これをどうするべきかは、また稿を改めて論じてみたい。
それはそれで何らかの政策が必要だが、それでもまだまだ人材不足が深刻だとなると、次に出てくる案が外国人労働者の活用である。外国人労働者と言うと、反射的に「移民1000万人」を思い浮かべてしまうが、大量移民を防ぐ活用法もあるはずだ。
とりあえず、現在、政府や自民党がどんな検討をしているのかを見てみよう。
読めばわかるが、これは欧米諸国の二の舞になりかねない移民政策とは違うようだ。
読み解く=五輪控え人手不足の緩和策 建設、外国人雇用拡大へ 政府、自民 時限立法を検討
政府、自民党が、国内の建設現場に受け入れるベトナムなどアジア諸国からの技能実習生を拡大する方向で検討していることが3日、分かった。2020年の東京五輪に向けた建設ラッシュが始まるのを前に、建設業の人手不足の緩和策として外国人労働者を増やす考えだ。
技能実習の期間延長などを軸に、五輪までの時限措置とする案が有力で、14年中に入国管理の法令改正作業に入る見通し。建設現場の雇用は外国人に依存する形に変化する可能性がある。
国土交通省や法務省によると、国内で働いている外国人の技能実習生は現在約15万人。このうち1万~1万5千人が建設業に携わっている。技能実習制度は単純労働を認めておらず、鉄筋組み立て、配管、内装、建設機械の操作など熟練が必要な技術が実習の対象になっている。
政府、自民党は、外国人の技能実習期間を現行の3年から5年に延長したり、実習期間を終えていったん帰国した外国人の再実習を認めたりする案を検討している。従業員の5%程度までとされている企業の実習生受け入れ枠を2~3倍に増やす案もある。
国交省は15年には五輪の施設工事がスタートするとみており、「事前の入国審査などを考えると、できるだけ早く制度を見直すべきだ」(自民党幹部)との意見が強い。
国交省などは実習制度が改正されれば、年間5千人程度受け入れている建設分野の実習生は1万人以上に増えると試算している。
ただ政府、自民党には外国人労働者を雇用調整に利用したり、違法な単純労働に使ったりするのを警戒する見方もある。政府の産業競争力会議でも外国人労働者の活用を主要課題にしており、意見調整を急ぐ。
建設分野の技能実習生の約7割は中国から来ている。今後は日系企業の進出が増え建設ブームを迎えているベトナムを軸に、東南アジアからの実習生の受け入れを増やし、建設技術の移転につなげる考えだ。
(2014年1月4日西日本新聞)
www.nishinippon.co.jp/wordbox/word/7529/10178
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最後の「建築技術の移転につなげる」に注目したい。安倍総理はASEAN諸国や現在訪問中のアフリカ各国などに対し、インフラ建設や技術移転のODAや円借款を提案している。しかし、技能者不足の日本には、現地に人材を派遣する余裕はない。
そこで、日本に実習生を受け入れ、企業で実地の研修を十分積んでもらおうというのが上記の考え方のようだ。自国の発展に寄与する技術や技能の習得が目的だから、期限が来れば自分の国に帰って活躍してもらうことになる。
ただ記事にもあるように、懸念材料もたくさんあるから、それらをきめ細かくつぶしておく必要がある。また、特区など地域を限定して成功事例を作ってから広げるなど、外国人労働者の流入に歯止めがかからなくなる事態を避ける工夫も求められる。
そういう政策を、日本人の雇用を奪うとして反対する人もいるが、マクロ的には失業率4%で、有効求人倍率がまだ1であっても、ミクロ的には極端な人材不足も既に起きている。求人があっても、それに合う人材がいないのである。
同じように、規制緩和や構造改革はインフレ対策だから、いまやるべきではないという人がいる。これも、供給不足が深刻な業界には全体がデフレ期であっても、規制緩和が有効であれば、それを実行した方がいいのは当然のことだ。
昨日の安倍総理は、アフリカのモザンビークでODA700億円供与を表明した。これには、技術者らを日本の大学や企業に招くなどして、5年間で300人以上の人材を育成することも盛り込まれている。
ODA供与や円借款は、外交・安保上の戦略であると同時に、現地のインフラ整備などに協力することにより、日本企業が進出しやすくなるという経済的な狙いがある。そして、そのような環境を作るためには、現地の人材育成は必須なのだ。
中国のように、安い労働力だけを利用するのではなく、被支援国自身の力で成長していけるようにするには、人材の育成は最重要課題なのである。人材不足が深刻な日本から派遣するより、研修生を受け入れる方が、はるかに現実的でメリットもあるのではないか。
直近の震災復興や、今後急がれる国土強靭化を担う人材は明らかに不足している。そして、少子高齢化に伴う今後の労働人口比率の低下は避けられない。人材不足は何も建築関係だけではないのである。
だから、期間や業務内容、それに対象国などを限定した形の外国人労働力活用なら、真剣に検討するべきだと考える。
(以上)
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