【読書】小さな会社を強くする ブランドづくりの教科書/岩崎邦彦 | THE ONE NIGHT STAND~NEVER END TOUR~

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「40歳からの〇〇学 ~いつまでアラフォーと言えるのか?な日々~」から改題。
書評ブログを装いながら、日々のよしなごとを、一話完結で積み重ねていくことを目指しています。

小さな会社を強くする ブランドづくりの教科書/岩崎邦彦



経営者調査のデータをみると、経営者の8割が自社商品の品質に自信を持っています。 しかし、約8割の中小企業の業況は不振もしくは停滞です。このデータが示唆することは、品質が良いだけでは、経営はうまくいかないということです。(p267)

あとがきに書かれているこの一節が、この本が書かれる必要があった理由です。一部には経営者の勘違いがあるにせよ、総じて日本製品の品質はいい。しかし、必ずしも売上に、利益に結びついていないという点は、さまざまな形で指摘されています。
ではどうすればいいのか。その処方箋のひとつがこの本に書かれていること、つまりは「ブランドづくり」なのだと思います。

<目次>
プロローグ
PART1 モノづくりから、ブランドづくりへのシフト
 CHAPTER1 ブランドづくりのベクトルを統一しよう
 CHAPTER2 ブランドの力
 CHAPTER3 強いブランドの条件
PART2 どうすれば強いブランドをつくれるのか
 CHAPTER4 ブランドつくりのファースト・ステップ
 CHAPTER5 強いブランドは、感情に訴える
 CHAPTER6 なぜ、二番手ではダメなのか?
 CHAPTER7 ブランドづくりは、ひき算である
 CHAPTER8 強いブランドの強力な土台
 CHAPTER9 目に見えないブランド価値を形にする
 CHAPTER10 良い名前、悪い名前
 CHAPTER11 誰のためのブランドか?
 CHAPTER12 広告に頼らないブランドづくり
 CHAPTER13 強いブランドの価格戦略
 CHAPTER14 強いブランドには、ハーモニーがある
 CHAPTER15 ブランドづくりにゴールはない
あとがき


書かれていることは、オーソドックスなマーケティング理論に基づくブランド戦略です。そういう意味では他のマーケティング・ブランディングの本を読んでも変わらないとも言えます。しかしこの本の価値はタイトルにある「小さな会社を強くする」にあります。「ブランドをつくれるのは豊富な広告宣伝費が使える大企業だけ」という信仰は根強くありますが、そうではない、中小企業でもブランドをつくることができるのだ、ということが本書のテーマになっています。

著者本人が関わっている高糖度トマトのトップブランドアメーラを実践例としてとりあげ、データに基づく「統計分析」とブランドつくりの「実践」が融合されていて、説得力を増しています。


広告宣伝費をかけないとブランドがつくれない、というのは今の時代においては通用しないと思います。その大きな理由の一つが「人は広告を信用しなくなっている」ということです。

たとえば。次のメッセージのどちらを信用するか考えてみてください。
①「あのトマト、とても甘いの」
②「当社のトマトは、とても甘いです」

本書で示される消費者1000人アンケートでは、圧倒的(77%)多数が「①の方を信用する」と回答しています。つまり、広告よりも「口コミ」のほうが信用できるということです。口コミの効果は以前から指摘されてきましたが、SNSが発達によって、より一層、伝播は容易になってきています。そして口コミには高額な「宣伝広告費」は発生しません。

口コミは無料。広告予算に乏しい中小企業にとって、ブランド価値を伝える最高のコミュニケーション手段となる。(p220)

ここを起点に考えれば
「どうすれば口コミが拡がるようにできるか」
という施策を打っていくことがブランド戦略の基本になってきます。

口コミを広めていくために、最初に段階で気をつけなくてはいけないことは、ブランドは「名前」ではなく「知名度」が高まればブランドになるわけではない、という点です。

強いブランドは、目を閉じてそのブランドを思い浮かべたときに、何かしらの映像が頭の中のスクリーンに映し出される。ブランドは心の、連想だ。(p37)

強いブランドをつくるためには、
①明確なコンセプトがあり、消費者の心の中に明確なイメージが形成される
②売り手のセンスやデザイン力などによって、消費者の感性に訴えている
この2要因が決定的に重要なことがわかる。単に機能や品質が優れているだけでは、強いブランにはならないということだ。
(p75)


このように、ブランドは、明確で統一されたコンセプトと、感性に訴えかけるイメージを持たなくていけません。たとえば「京都」「銀座」はブランドですが「茨城」「弦巻」はブランドとは言い難い。それぞれをイメージしてみればわかると思います。そして「小京都」「○○銀座」が日本中にたくさんある理由も見えてくると思います。

ただ、大切な前提は忘れないようにしないといけません。

ブランドで、「鉛」を「金」に変えることはできない。そうではなく、「金」を「より輝く金」に変えてくれるのがブランドなのだ。(p153)

ボロボロの品質のものをコンセプトやイメージで誤魔化すことはできません。品質がいいことは大前提です。ここは勘違いしないように。ろくでもないものを大量の広告や裏工作によるパブリシティによって一瞬ブランド化させられたように見せかけることは出来るかもしれませんが、絶対に長続きはしません。リピーターは付きませんし、それ以上に、信用失墜の影響が大きすぎて立ち直ることができなくなると可能性が大です。
こんな手法を使えるのは大企業だけなのでそれほど心配はいらないと思いますが、あくまで「より良い品質のものをわかりやすく伝えていく」「より良い品質の信用の積み重ね」がブランドであるということは忘れずにしないといけません。

中小企業にお勤めの方、中小企業にかかわりのある方は、マーケティングの部署にいるいないにかかわらず、手に取ってみてください。そもそも中小企業にマーケティング専門の部門があることがまれでしょう。どんな立場であっても、本書に書かれている視点をもって仕事をし、時に応じて提案をしていくことは、自分を高めるためにも、会社を良くしていくためにも大切なことだと思います。