東京春音楽祭、ワーグナー「ラインの黄金」(演奏会形式)を東京文化会館にて(5日)。
指揮:マレク・ヤノフスキ
ヴォータン:エギルス・シリンス
ドンナー:ボアズ・ダニエル
フロー:マリウス・ヴラド・ブドイウ
ローゲ:アーノルド・ベズイエン
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ミーメ:ヴォルフガング・アブリンガー=シュペルハッケ
ファーゾルト:フランク・ヴァン・ホーヴ
ファーフナー:シム・インスン
フリッカ:クラウディア・マーンケ
フライア:藤谷佳奈枝
エルダ:エリーザベト・クールマン
ヴォークリンデ:小川里美
ヴェルグンデ:秋本悠希
フロースヒルデ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
これはすごい!日本でこれだけの満足度の高いワーグナーが聴けるとは!
日本における「ラインの黄金」演奏史に残る名演である。
普通、日本のオケでワーグナーを聴くと、どこかきれいにまとまりすぎていて、地の底から咆哮するような、うねりといったものが感じられないことが多いものであるが、この日のN響は気迫といいうねりといい、申し分ないものである(1階6列目所見)。
これだけの演奏になったのは、ワーグナーを得意とする巨匠マレク・ヤノフスキの手腕もさることながら、ゲスト・コンサートマスターをなんとウィーン・フィルのコンマス、ライナー・キュッヒルが務めたことも大きいだろう。全く事前の予告もなかったので、キュッヒルがコンマス席に着いたとき「えっ!」と思ってしまった。
そのキュッヒル氏、割と前の方の私の席で聴いていると、ウィーン・フィルでコンマスをするとき同様、大きな音とアクションでぐいぐいと全体をリードし、ときとして彼の音ばかりが聞こえてくることさえある。さすがワーグナー演奏の経験はN響メンバーとは比較にならないくらい多いはずで、ものすごいテンションで指揮者以上にオケの団員を煽りまくり、普段聴いているN響だと第1ヴァイオリン全体の縦の線がぴったりと合うところ、正直結構荒っぽい。しかしそれがまさにワーグナーの音楽にマッチしているのである!
つまるところ、日本のオケがワーグナーをやると、あまりに整然ときれいになり過ぎるきらいがある。もっと激しく、汚い一歩手前の音を出すくらいでワーグナーにはちょうどいいということか。
歌手陣は申し分ない。私が名前を知っている歌手といえば、ローゲ役のベズイエン、フリッカ役のマーンケ、エルダ役のクールマン、そしてヴォークリンデを歌った小川里美だけで、ヴォータンもアルベリヒも知らない歌手である。
ローゲ役のベズイエン、バイロイト音楽祭でもティーレマン指揮ドルスト演出でローゲを歌っており、お手の物と言ったところか。演技なしでも、舞台に現れただけでこの悪知恵に富んだ狡猾な役柄にぴったりの雰囲気を醸し出している。
アルベリヒ役のコニエチュニー、ティーレマン/ウィーン国立歌劇場における「指環」でこの役を歌ってCDにもなっている。アルベリヒにしてはあまり汚らしさはなくてむしろ英雄的なくらいの立派な声である。
ヴォータン役シリンスはラトヴィア出身、この役としてはやや線が細く端正であり、もう少し腹の底から響く迫力が欲しいところではあるが、歌唱自体の質は高い。
フリッカ役マーンケ、バイロイト音楽祭の現在の「指環」(カストルフ演出、キリル・ペトレンコ指揮)でもフリッカを歌っているが、私はこの人の落ち着いた深みのある声が好きである。2011年にN響定期で歌ったマーラー「大地の歌」は忘れられない。
2階Rブロックで歌ったエルダ役はクールマン。もったいないくらいの配役である。ファーゾルド役ホーヴ、ファーフナー役インスンは舞台右手奥だったのでちょっと印象が薄いが、巨人族らしい押し出しの強さはちょっと感じられなかったか。
4人の日本人女声歌手も健闘。なかでも、ヴェルグンデ役の秋本悠希さんは声に張りがあってインパクトがあった。
それにしてもヤノフスキの指揮は極めて手堅くツボを抑えている。ポーランド生まれながらドイツでキャリアを積んだ指揮者であり、「指環」はシュターツカペレ・ドレスデンと世界初のデジタル録音を完成させたことでも有名。この指揮者、とても地味な印象があるが、実際音を聴くとただそれだけではなく、劇的表現もきっちり堂に入っている。
終演後の喝采ににこりともせずに応じるのはなんとも手堅いイメージ。
これだけの水準の演奏ゆえ、終演後の客席の熱狂もすごい。おそらく明日7日も盛況であろう。聴ける方がうらやましい。
指揮:マレク・ヤノフスキ
ヴォータン:エギルス・シリンス
ドンナー:ボアズ・ダニエル
フロー:マリウス・ヴラド・ブドイウ
ローゲ:アーノルド・ベズイエン
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ミーメ:ヴォルフガング・アブリンガー=シュペルハッケ
ファーゾルト:フランク・ヴァン・ホーヴ
ファーフナー:シム・インスン
フリッカ:クラウディア・マーンケ
フライア:藤谷佳奈枝
エルダ:エリーザベト・クールマン
ヴォークリンデ:小川里美
ヴェルグンデ:秋本悠希
フロースヒルデ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
これはすごい!日本でこれだけの満足度の高いワーグナーが聴けるとは!
日本における「ラインの黄金」演奏史に残る名演である。
普通、日本のオケでワーグナーを聴くと、どこかきれいにまとまりすぎていて、地の底から咆哮するような、うねりといったものが感じられないことが多いものであるが、この日のN響は気迫といいうねりといい、申し分ないものである(1階6列目所見)。
これだけの演奏になったのは、ワーグナーを得意とする巨匠マレク・ヤノフスキの手腕もさることながら、ゲスト・コンサートマスターをなんとウィーン・フィルのコンマス、ライナー・キュッヒルが務めたことも大きいだろう。全く事前の予告もなかったので、キュッヒルがコンマス席に着いたとき「えっ!」と思ってしまった。
そのキュッヒル氏、割と前の方の私の席で聴いていると、ウィーン・フィルでコンマスをするとき同様、大きな音とアクションでぐいぐいと全体をリードし、ときとして彼の音ばかりが聞こえてくることさえある。さすがワーグナー演奏の経験はN響メンバーとは比較にならないくらい多いはずで、ものすごいテンションで指揮者以上にオケの団員を煽りまくり、普段聴いているN響だと第1ヴァイオリン全体の縦の線がぴったりと合うところ、正直結構荒っぽい。しかしそれがまさにワーグナーの音楽にマッチしているのである!
つまるところ、日本のオケがワーグナーをやると、あまりに整然ときれいになり過ぎるきらいがある。もっと激しく、汚い一歩手前の音を出すくらいでワーグナーにはちょうどいいということか。
歌手陣は申し分ない。私が名前を知っている歌手といえば、ローゲ役のベズイエン、フリッカ役のマーンケ、エルダ役のクールマン、そしてヴォークリンデを歌った小川里美だけで、ヴォータンもアルベリヒも知らない歌手である。
ローゲ役のベズイエン、バイロイト音楽祭でもティーレマン指揮ドルスト演出でローゲを歌っており、お手の物と言ったところか。演技なしでも、舞台に現れただけでこの悪知恵に富んだ狡猾な役柄にぴったりの雰囲気を醸し出している。
アルベリヒ役のコニエチュニー、ティーレマン/ウィーン国立歌劇場における「指環」でこの役を歌ってCDにもなっている。アルベリヒにしてはあまり汚らしさはなくてむしろ英雄的なくらいの立派な声である。
ヴォータン役シリンスはラトヴィア出身、この役としてはやや線が細く端正であり、もう少し腹の底から響く迫力が欲しいところではあるが、歌唱自体の質は高い。
フリッカ役マーンケ、バイロイト音楽祭の現在の「指環」(カストルフ演出、キリル・ペトレンコ指揮)でもフリッカを歌っているが、私はこの人の落ち着いた深みのある声が好きである。2011年にN響定期で歌ったマーラー「大地の歌」は忘れられない。
2階Rブロックで歌ったエルダ役はクールマン。もったいないくらいの配役である。ファーゾルド役ホーヴ、ファーフナー役インスンは舞台右手奥だったのでちょっと印象が薄いが、巨人族らしい押し出しの強さはちょっと感じられなかったか。
4人の日本人女声歌手も健闘。なかでも、ヴェルグンデ役の秋本悠希さんは声に張りがあってインパクトがあった。
それにしてもヤノフスキの指揮は極めて手堅くツボを抑えている。ポーランド生まれながらドイツでキャリアを積んだ指揮者であり、「指環」はシュターツカペレ・ドレスデンと世界初のデジタル録音を完成させたことでも有名。この指揮者、とても地味な印象があるが、実際音を聴くとただそれだけではなく、劇的表現もきっちり堂に入っている。
終演後の喝采ににこりともせずに応じるのはなんとも手堅いイメージ。
これだけの水準の演奏ゆえ、終演後の客席の熱狂もすごい。おそらく明日7日も盛況であろう。聴ける方がうらやましい。