子宮頸がんを予防する意味 | 臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言

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心に移り行くよしなしごとをそこはかとなく書き連ねています。

 日本における子宮頸がんの新規患者数は、毎年8千~9千人と言われ、そのうち、3分の1弱の2千~3千人が治療の甲斐なく最終的には子宮頸がんで死亡している。30代の女性の死亡原因としては、子宮頸がんは代表的な疾患であるから、早期発見や予防が重要とされている。

 ところで、毎年の出生数(女子)は、55万~60万人なので、単純に計算して、一生の内で子宮頸がんになる女性は60~70人に一人と言うことになる。
 つまり、330~340人の大田原市の小学6年生女子の内、死ぬまでに子宮頸がんになるのは、5人程度であり、残りの325人以上(95%以上)は、ワクチンを接種しても、しなくても、子宮頸がんにはならない。

 また、今回のワクチンは、すべての子宮頸がんを予防できるものではない。子宮頸がんの原因となるウイルスには、いくつものタイプがあり、このワクチンで予防できるのは、せいぜい3分の2である。
 結局、ワクチンを接種した人たちの中でも、2人ぐらいは子宮頸がんとなり、おそらく1人は子宮頸がんで死ぬという計算になる。

 「がんになるのはいやだから注射してよかった」などと子どもは無邪気に言っているようであるが、痛い注射をしなくても、子宮頸がんにならない人はならないし、注射をしたのに、子宮頸がんになって死んでしまう人もいるというような説明は、おそらく聞いていないのであろう。
 テレビ通販の宣伝文句ではないが、普及促進を訴える人は、メリットを強調するあまり、デメリットの説明を疎かにし、効果の限界を説明することを厭うもののようである。

 ところで、最近、流行りの事業仕分け等で、評価の基準の一つとなる費用対効果という観点では、今回の子宮頸がん予防ワクチン(ヒト・パピローマ・ワクチン)は、いかがなものであろうか。
 330人にワクチンを接種する費用は、ワクチンを接種する直接の費用だけでも、約1,500万円となるが、事前の説明会や講習会の開催、説明用のパンフレットやチラシの印刷配布代、これらの事務に携わる職員(公務員)の人件費などを考えると、総額2,000万円を下らないのではなかろうか。
 一方、ワクチン接種による効果の方は、子宮頸がんの患者発生を少なくとも4人減らせたとして、医療費の節減効果は総額1,000万円ぐらいのものであろう。

 確かに、ワクチンを接種しなかった場合に比べて、1人か2人は子宮頸がんで死亡したかも知れない人の命を救うことはできるが、この人たちも、いずれは何らかの理由で必ず死ぬのであるから、子宮頸がんではなく、別の理由で死亡したというようなことを効果として数えることには、いささか疑問が残る。
 もちろん、人間誰しも死ぬのは嫌だろうから、死なずに済むなら、それに越したことはないし、命と引き換えなら、ワクチン3回分、計5万円の費用ぐらい、全額自費でも安いであろう。

 結局、税金の使い道としては、子宮頸がん予防ワクチン(ヒト・パピローマ・ワクチン)接種費用の全額公費負担と言うのは、甚だ疑問の多いところではあるのだが、大田原市民や日本国民の評価は、いかがなものであろうか。

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大田原で、全国初の子宮頸がんワクチン集団接種
【5月14日 下野新聞】

 全国初となる集団接種での子宮頸がん予防ワクチン接種が13日、大田原市の金丸小で行われ、小学6年の女子児童10人がワクチン接種を受けた。
 校医や看護師、子宮頸がん予防に詳しい自治医科大の鈴木光明教授が接種に立ち会い、午後1時半から保健室で希望した10人から既往症や発熱の有無などを聞き取ったうえで、医師が上腕の筋肉に注射した。児童たちは約30分で問診と接種を終えたという。
 記者会見で同校の郷佳代子校長は「痛みを心配した子もいたが、『がんになるより受けてよかった』と言っていた」と児童たちの様子を説明。同席した吉成仁見大田原地区医師会長は、副作用への対応など校医向けの事前研修を開いたことを説明、安全面への配慮を強調した。
 集団接種の利点について、鈴木教授は「接種率が向上することに尽きる。その点で市の集団接種はすばらしい」と評価。一方で「100人規模の会場でも、十分な問診を行うべき」と今後の課題を挙げた。
 同市は昨年2月、全国自治体に先駆けて同ワクチン公費全額補助を決定。続いて対象児童の接種率向上に向けて集団接種の導入を決めた。全国で40前後の市区町村が同ワクチン接種に何らかの補助策を講じたが、集団接種に踏み切ったのは大田原市だけだ。

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小6女子98%接種希望 大田原市・子宮頸がん予防ワクチン
【4月29日 下野新聞】

 市内小学6年女子を対象に、子宮頸がん予防ワクチンの接種費を全額公費負担する市は28日までに、対象者の希望をとりまとめた。全対象者341人の内、98・53%にあたる336人(市外通学を含む)が接種を希望。市は、専門家による啓発講演や、全国初の集団接種方式が接種希望率向上につながったとみている。
 市は8日から、市内24校(分校を含む)を通じ、保護者の希望取りまとめを開始。接種回数や副作用、健康被害救済制度などを解説する書類を配布した。
 26日に取りまとめた資料によると、各校で学校医が実施する集団接種希望者は328人。市内の医療機関に通院して接種する、個別接種希望者は8人だった。希望しなかった保護者は3人で、回答なしは2人だった。
 市は16日、自治医科大産科婦人科学講座の鈴木光明教授の講演会を開催。保護者や市民約300人に、ワクチンの効果や副作用の少ない同ワクチンの安全性などを解説した。啓発用チラシ配布でも接種率向上を図った。
 金丸和彦保健福祉部長は「講演会や(保護者の負担が少ない)集団接種で、保護者の子宮頸がん予防の意識が高まったと認識している」と高い接種希望率を分析した。
 接種は5月13日から来年1月19日まで、各校で実施する。接種による副作用で健康被害が起きた場合は、市が全国市長会を通じて加入している保険から、最高1億4200万円の補償が受けられる。
 6月にも始まる、中学生1~3年生の個別接種は5月中に、接種費用の半額を補助するクーポン券を全対象者に配布する予定。