「勇吉、わしゃあ朝廷と幕府にお願いして苗字をもらっておいた」
二宮光正は勇吉にこう言った。
「何という苗字」
光正はにやりと笑い、
「姫宮」
こう言った。
人々は手を叩いてよろこんだ。
「天摩の庄(現広島市安芸区矢野)だけでなく、この安芸の国には平家の残党がうようよといる。力では抑えきれない。幕府もそれはよく知っている。勇吉おまえは今から名字帯刀を許されるのだ。面倒でもまた京の都と鎌倉まで行ってもらわなくてはならない。一段落してからでいい。その間に咲子姫には二宮の家に入ってもらい、わしの養女となってもらう。いつまでも平家じゃまずいからのう。よいな咲子姫」
咲子姫は黙って頷く。
「勇吉と咲子姫は前世から結ばれる運命にあったのじゃ。夫婦になって仲良くすれば良い。そして末代までこの姫宮と言う名前を残すのじゃ」
この二宮光正の言葉に、勇吉と咲子姫は声を上げて泣いた。
天摩の庄の人々も泣いている。
新しい時代が始まっている。