本年4月4日、政府は、全国的な建設業の人手不足を解消するため、外国人労働者の活用を拡大する緊急対策を決定した。新興国への技術移転を目的に労働者を受け入れる「外国人技能実習制度」の期間を実質的に延ばしたり、帰国した実習生を呼び戻したりすることが柱となっており、平成27年度から始め、東京五輪が開催される32年度までの時限措置となるとのことだ。
この緊急対策は、東日本大震災の復興促進や、今後の東京五輪開催へ向けた関連工事、また安倍政権の積極的な公共事業の発注で不足する働き手を補うのが狙いとされている。
だが、国内の治安悪化の可能性も否定出来ない安易な外国人労働者の受入れの前に、「人材の宝庫」たる自衛隊員の活用を考えなければならないのではないだろうか。しかし、自衛隊員の建設企業への再就職が、1通の通達により禁じられていたのだ。
平成18年の防衛施設庁(当時)発注工事において、官製談合により現職及びOBが逮捕され、同年6月15日付けで「再就職に係る自粛措置について」という事務次官通達が発出された。
この通達によれば、建設工事の入札・契約業務と隊員の再就職の関連性について、「国民から疑惑の目で見られることがないようにするため、本庁(当時)課長相当職以上の幹部職員については、離職後5年間、建設工事の受注実績を有する企業への再就職を自粛」し、またこの自粛措置の発端となった企業に対しては、「コンプライアンスが確立され、談合等に関与するおそれがないと認められる間、同企業に対しては、防衛省職員(自衛官含む)の再就職を自粛するものとする」とされていた。
前述のとおり、通達において「改善措置が講じられ、コンプライアンスが確立され、談合等に関与するおそれがないと認められるまでの間」とされているが、既に8年余の年月が過ぎ、そして当該企業は、既に制裁(指名停止)を受けている。また国交省においても、業界内で努力されている旨、国交省監察が公表していることから、査定官庁及び企業側のコンプライアンスが確立しているものと考えられ、防衛省としても、総合評価落札方式導入や防衛監察本部設置など必要な措置が講じられている。
昨年末に策定された防衛大綱、中期防においても、「退職自衛官の再就職支援を行うことは国の責務であること及び退職自衛官の知識、技能、経験を社会に還元する」と明記されており、前述のように国として建設人材の不足への対応を検討している現状を踏まえ、民間需要への対応と退職自衛官の再就職援護環境の改善を図ることは、国民の理解を得られるのではないだろうか。
また防衛省は、建設業界における査定官庁ではなく、調達等に伴う契約関係はあるものの、個々の職務において密接な関係にあった場合、防衛大臣の承認により、再就職の透明性は確保されている。
上記の観点から、4月10日の参議院外交防衛委員会において、「再就職に係る自粛措置について」という事務次官通達の見直しについて、防衛省の考えを聞いたところ、以下の答弁であった。
「建設業界への再就職については、防衛施設庁入札談合事案の再発防止策として、平成18年6月から、全職員を対象として談合関連企業への再就職についての自粛措置等を講じているところでございます。
現在、震災復興事業、東京五輪開催に関連した公共事業、景気回復傾向に伴う民間設備投資の増加等により建設業界の人材不足が深刻化していると承知をしております。また、退職自衛官については、重機や車両の取扱いといった技能等を有し、高い規律、協調性を備えているため、建設業界から再就職のニーズが高まってきているとも承知をしております。
防衛省としては、退職自衛官の知識、技能、経験を社会に還元することは重要であると考えており、本自粛措置の在り方については、公務の公正性の確保といった観点も踏まえつつ、適切に検討してまいります」。
そしてこの度、防衛省内の検討の結果、新たな措置について以下のように決定された。
○(談合)事案に関連した企業を対象とした再就職自粛措置の見直しを実施。
○公務の公正性に疑念を抱かれることのないように、幹部職員以外(本省課長相当職未満)の自衛官及び技官の再就職を可能とする措置を実施。
○技官等については、公務の公正確保のため、①契約・営業担当部署への再就職自粛、②退職前の一定期間(2年間)、契約担当部署に在職していた者の再就職自粛を継続。
今月、一部メディアで、北陸新幹線の設備工事を巡る談合事件で、独立行政法人幹部が東京地裁で有罪判決を受けた件を例に、「政府や関係団体の関与した官製談合が根絶したとは言えず、時期尚早との批判も出てきそうだ」との批判記事も見受けられたが、今回の再就職自粛解除の範囲が限定的であること、また防衛省が、総合評価落札方式導入や防衛監察本部設置など必要な措置を講じていることを、全く承知していない記事と言わざるを得ないものだ。