【読書】黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語/吉田理宏 | THE ONE NIGHT STAND~NEVER END TOUR~

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「40歳からの〇〇学 ~いつまでアラフォーと言えるのか?な日々~」から改題。
書評ブログを装いながら、日々のよしなごとを、一話完結で積み重ねていくことを目指しています。

 

黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語/吉田理宏



十勝バスの再生物語です。
十勝バスとは、北海道帯広市に本社を置くバス会社です。この会社に限ったことではないですが、地方のバス会社は経営が厳しいところが多いです。自動車の普及でバス利用者が減り、そのため減便せざるを得なくってさらに利用者が減る、という悪循環のサイクルが続いています。 多くは「公共交通機関」として行政から補助金が出ていて、それで何とか存続しているのが実態なのですが、その補助金も一定以上の利用者がいなければ打ち切られてしまします。

一応、僕も以前、ホテルや旅行という業界にいたので、バス業界とはかなりお付き合いさせていただきました。ある程度、内情は知っているつもりです。こう言ってはなんですが、札幌などのような大都市ならいざ知らず、帯広の十勝地方を中心をするバス会社が自力で再生を果たす、というのは並みの努力ではできないことだ、というのは簡単に予測がつきます。

そんな中、十勝バスは、2011年、40年ぶりに「運送収入」で前年比プラスを達成しました。それがどうして可能だったのか、その理由がストーリー仕立てで書かれています。

<目次>
はじめに
第1章 父と子の決断
第2章 試練のはじまり
第3章 苦悩
第4章 先輩の土下座
第5章 学びの日々
第6章 雪解け
第7章 小さなチャレンジ
第8章 新たな出発
おわりに


本を読む前に、著者の吉田理宏さんと、この本の主人公である、十勝バス社長・野村文吾さんの出版記念トークショーに参加してきました。
「この話は事実に基づくフィクションです」
と注釈されていますが、トークショーを伺う限り、ほとんど「事実」なんだと思います。

物語は、文吾さんが会社を継ぐところから始まります。父上の文彦さんが「会社をたたもうと思う(会社更生法を申請する)」という話を聞き、文吾さんが会社に戻り、再建を担おうと決意します。

しかし、その後の展開に華々しいことはなにひとつありません。V字回復したわけでもありません。会社の雰囲気が変わり、業績が回復するまで10年以上の月日がかかっています。

その間の、文吾社長の悪戦苦闘、試行錯誤について書かれた本だと言っても過言ではないと思います。言い換えると、野村文吾社長の成長物語としても読めると思います。

ちょっと考えていただきたいのですが、40年ぶりに業績が上向いた、ということは40年間下がり続けてきたということです。そういう会社がどんな雰囲気になっているか、想像するだけで怖いでしょう。

普通の企業なら、とっくに廃業をしていると思います。しかし、公共交通としての責任を担っている以上、そう簡単にやめられない。でも業績は悪化し続け、不本意ながらリストラの連続になる。そんな会社を立て直すのは並大抵のことではありません。

しかも文吾社長は、別な会社で経営の勉強をしていたわけではありません。跡を継ぐことを前提にせず、普通にサラリーマンとして働いていました。もちろん、そこで学んだことがのちのち活かされる、という面があることは本書を読み進めればわかりますが、しかし、再生請負人のような経営のプロが就任したのとはわけが違います。

でも、だからこそ、多くの中小企業の方には参考になるはずだと思います。よほどの大企業でない限り、白馬に乗ってカルロスゴーンのような経営者がやってくることはあり得ないのです。血道に、まさに「なにもない(なくなってしまった)自分たちに小さなイチを足して、積み上げていく」ことでした再生は果たせないのだと思います。


あとがきにこうありました。

時代は今、リーダーシップのあり方を模索しています。
「大きな船に乗っていれば幸せになれた時代」はとっくの昔に過ぎ去り、「自分の考えや個性を大切にする」「一人ひとりが主人公」といった幻想のようなフレーズに誘導されながら、結局はどうしたらいいのか、何をしたらいいのか見えないのが、今の日本であるように思えます。
(p146)


まさに「結局はどうしたらいいのか、何をしたらいいのか見えない」時代だと思います。多くのビジネス書は、大企業の成功体験をきれいにまとめていますが、それを自分事に引きつけて考えるには、自分たちとは差がありすぎる、と多くの中小企業の方は思っているのではないか、と想像しています。

そんななか、この本はそうした人たちにこそ、ヒントを示してくれるはずです。物語として描かれていますから、さらっと読むことができます。ぜひ、手に取ってみてください。きっと勇気つけられ、そして、明日への活力が湧いてくると思います。