2030年 世界はこう変わる』

アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」

 米国国家情報会議       講談社  2013/4/19

 

 

<本書を誤読する人と精読する人では大きな差がつくだろう(立花隆)>

・アメリカの国家戦略を策定する者、ならびに、アメリカの国家戦略に関心を持つ者が基本的に頭に置いておくべき、近未来(1520年後)の世界のトレンドが書かれている。

 

・米国国家情報会議は、このような中・長期予測のために作られた機関だ。前身は1947年に作られたCIAの内部部門だった(1979年に現行の組織に改組)。作成する報告は、第一義的にはアメリカ大統領のために作られる。

 

・おそらく大統領には別バージョンのディープ版報告書が渡っている。

 

・未来予測は外れることが多いから、ちがう未来展開の可能性がたくさん書いてある。

 

・最悪のシナリオと最善のシナリオではまったくちがう世界が生まれる。日本は最悪のシナリオなら滅んだも同然だが、最善のシナリオならまだいける。

 

2030年の世界  国家を滅ぼす災害の可能性>

1飢饉   干ばつや穀物の伝染病などが長期間続き、不作が長期化する事態です。火山の噴火により大気に二酸化炭素が拡散すると、気温が下がり農業に悪影響を与えます。 

   

2津波   津波の影響は、海抜が低いところにある大都市で深刻です。例えば、ニューヨークやボストンなどの米東海岸の都市や、東京などがこれにあたります。こうした世界的な大都市が壊滅的な被害を受ければ、世界経済にも打撃を与えます。

 

21世紀じゅうにプエルトルコ近海で大地震が起きる可能性は10パーセント超といわれています。

 

3土壌劣化   近代農業は土壌の質の低下を招きます。劣化のスピードは、自然回復できるスピードの1020倍といわれています。健康な土壌を維持するための根本的な解決策なしでは、今後、農業にかかるコストは莫大なものになってしまいます。

 

4磁気嵐  送電網や衛星、あらゆる電化製品を不能にする威力を持ちます。大規模な磁気嵐が起きる可能性は100年に一度といわれています。

 

<オルターナティブ・ワールド><「2030年」4つの異なる世界>

2030年のシナリオ1 「欧米没落型」 アメリカ・欧州が対外的な力を失い、世界は大きな混乱期に移行>

・「政治的にも経済的にも世界を牽引するエンジン役を果たしてきた米国と欧州が、その能力を完全に失ってしまう」というのがこのシナリオです。

 窮地に陥った欧米諸国は内向き姿勢を強め、グローバル化の動きは止まってしまいます。ここで紹介する4つのシナリオのなかでは最も悲観的な予測です。

“第三次世界大戦”が始まるというような、より最悪のシナリオを想定できないわけではありませんが、確率は極めて低いと思われます。第一次・第二次世界大戦が勃発した時代とは異なり、世界各国間の相互依存関係がとても強くなっているからです。本格的な戦争に突入して益を得る国はほとんどありません。

 

・とはいうものの、「欧米没落」型のシナリオが予測する世界像は、かなり悲惨なものです。4つのシナリオのなかでももっとも楽観的な「米中協調」型と比較すると、2030年の世界が稼ぎ出す収入は27兆ドルも小さくなってしまいます。この数値は、現在の米国経済とユーロ圏経済を合わせた規模に匹敵します。

 

・このシナリオでは、米国も欧州も世界のリーダーとして振る舞う能力、もしくはその役割を果たすことへの関心を失います。

 

2020年までに、自由貿易圏はほとんど姿を消してしまいます。

 

・一方、中国やインドのような新興国は経済成長を続け、世界経済成長の約4分の3を担うようになります。ただし、中国もインドも政治と経済システムの近代化に失敗します。政治腐敗、インフラ基盤や金融システムの弱さなどが仇となり、経済成長に急ブレーキがかかります。例えば、中国の場合、経済成長率は現状の8パーセントから2030年には3パーセントに落ち込んでしまいます。

 

・(米国の役割)内向き姿勢を強める。アメリカの世論は自国が世界のリーダー役であることに関心を失う。疫病発生後は、孤立主義も台頭する。

 

・(中国)政治、経済の構造改革に失敗。政治腐敗や民衆暴動が重荷となり経済成長は落ち込む。政府は国粋主義、排他主義の色を強める。

 

・(不安定地域)中央アジアや中東で統治力が低下。疫病の拡散で東南アジア、インドやアフリカの一部、湾岸諸国などが情勢不安に陥る。

 

2030年のシナリオ2   「米中協調」型 第3国で勃発した地域紛争への介入を機に、米中の協力体制が確立する>

・「米中協調」型は、4つのシナリオのなかでもっとも楽観的な予測です。米国と中国がさまざまな場面で協力できるようになることで、世界経済全体が押し上げられるという筋書きです。

 世界経済の収入は2030年までに約2倍の132兆ドルに拡大します。新興国が高成長を維持しながら、先進国経済も再び成長期に入ります。米国人の平均収入も10年で1万ドル増え、「アメリカンドリームの復活」が語られるようになります。

 

・(中国)ソフトパワーが強化され、民主化が進む。世界機構でもアジア地域の仕組みでも重要な役割を果たす。

 

2030年のシナリオ3   「格差支配」型  経済格差が世界中に広がり、「勝ち組」「負け組」が明確に。EUは分裂>

・このシナリオは、国際情勢が世界中で広がる「経済格差」に左右されるというものです。

 国内でも国家間でも、経済格差が広がってしまいます。2030年に向けて、世界全体としては豊かになりますが、人々の「幸福度」は下がります。「持てる者」が富を独占し、「持たぬ者」はますます貧しくなるからです。こうした環境下では、政治や社会は不安定になります。

 国家間では、「勝ち組」の国と「負け組」の国が鮮明化します。米国は、勝ち組の代表格です。ほかの国々が弱体化するなかで、安価な国産シェール系燃料の恩恵で経済が回復するからです。ただ、孤立主義的な傾向を強め、「世界の警察官」としての役割には関心を示さなくなります。

 

・(中国)都市部と農村部の経済格差が拡大し、国民の不満が高まる。共産党政権は支持を失う。毛沢東主義が再台頭し、党は分裂の危機に瀕する。

 

2030年のシナリオ4   「非政府主導」型  グローバルな人材がネットワークを駆使して世界を牽引する時代に>

・このシナリオでは、政府以外の機関や人々が、世界のリード役となります。例えば、非政府団体(NGO)、大学などの教育機関、富裕な個人などです。

 テクノロジーの進歩で、個人や小さな団体でも大きな成果を挙げられる環境が整います。また、課題によっては自由自在に小さな団体同士が連携しあうといったことも簡単にできるようになります。大学などでは国境を越えた人材交流が盛んとなり、グローバル規模で“同窓生”が生まれるようになります。こうした人材が、非政府の団体や個人をつなぐカギとなります。

 

・世界規模でエリート層と中間所得者層が増加することで、グローバルな世論が形成されやすくなります。環境問題、貧困、腐敗撲滅といった課題に、世界中の人々が一丸となって取り組みます。

 

・非政府主導型の社会では、課題ごとにうまくいく場合といかない場合の差が大きくなりそうです。うまくいく場合には、政府が対応するよりも迅速に問題解決に取り組めますが、その一方では大国の反対にあって何も実現できないケースも出てくるかもしれません。

ほかの4つのシナリオと比べると、経済は「米中協調」型に次ぐ成長をみせます。また、「欧米没落」型や「格差支配」型よりも協調ムードが高く、国際社会は比較的安定したものになります。

 

・(中国)一党独裁体制の考え方から抜け出せずに、国際社会で孤立。