【読書】福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出/小倉昌男 | THE ONE NIGHT STAND~NEVER END TOUR~

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「40歳からの〇〇学 ~いつまでアラフォーと言えるのか?な日々~」から改題。
書評ブログを装いながら、日々のよしなごとを、一話完結で積み重ねていくことを目指しています。

福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出/小倉昌男



著者紹介はするまでもないと思いますが、ヤマト運輸の社長・会長を歴任された、故小倉昌男さんのご著書です。2003年10月が初版ですから、いまから11年前の本ということになります。

ヤマト運輸の会長を退任後、
ヤマト福祉財団を設立されました。そこで行われてきた、障害者就労施設の施設長や職員向け「経営パワーアップセミナー」の内容を中心にまとめられたご本です。

<目次 >
第1章 障害者の自立を目指そう!私の福祉革命
第2章 福祉を変える経済学
第3章 福祉を変える経営学
第4章 先進共同作業所の経営に学ぼう


福祉について書かれた本であると同時に、あるいはそれ以上に、「経営の入門書」と捉えたほうがいいと思います。

第1章は、小倉さんが福祉問題に関わる契機やそこで感じたさまざまな問題点を述べられていますが、2章以降は、共同作業者などの障害者就労施設の施設長や職員向けに、「経済や経営」について解説しています。

施設長や職員の方は、福祉については高いに意識を持たれている人がほとんどだと思いますが、経済や経営についての知識はあまりお持ちではないでしょう。もちろん知っている方、わかっている方もいらっしゃると思いますが、そういう方は小倉さんのセミナーに参加されないと思います。

経済や経営についてはほどんど知らない人向けに、小倉さんが経済や経営を教えているわけです。そのエッセンスがこの本に詰まっています。

福祉関係の方でないと読んで意味がないという内容ではありません。事例は福祉関係の施設をあげていますが、どの業界にも通用する、普遍性のある経営の基本をわかりやすく解説されています。

ですから、福祉云々を一回はずして「経営の入門書」として、小倉さんの名著『経営学』の入門編という位置づけて、まず読んでみるのもいいと思います。

その上で、福祉のことに興味を持ってもらえたらと思うのです。小倉さんがどういう問題意識をもち、どんな切り口で福祉の問題に取り組んでいったのか。なぜ、福祉の世界の方々に、経営を教えていこうとされたのか。それを知っていただけたらと思います。

共同作業所の設立目的は、本来「障害者が仕事をして、カネを稼ぐ」ことであるべきだと思います。もちろん仕事をちゃんとやっている作業所もたくさんある。ただ、そういった作業所でも、障害者に十分な賃金を支払っているかというと決してそんなことはない。なぜでしょうか?(p35)

共同作業所で支払われる工賃(障害者への月給)は、当時平均1万円でした。(いまは少し上がってきていますが、まだ倍にもなっていない状況です。)

これはまともではない、と思う人も多いはずです。時給が100円以下という作業所がほとんどだという計算になります。その原因を小倉さんは「施設関係者が『経営』を知らないからだ」と考えます。

自分のところの売り物―モノやサービスに「付加価値」をいかにつけていくか、というのは経営の基本であり、また、市場経済の本質でもあります。(p125)

物は作れば売れる、というわけではありません。販路を見つけないといけないですし、なにより「売れる」物を作らなくてはいけません。

福祉施設の関係者の方は、人は大好きで、だから福祉の仕事に取り組まれているのだと思いますが、その一方、ビジネスには興味がないのだと感じます。極端な場合、「ビジネスは悪」と思われている方もいるのではないかと思います。

それではいつまでたってもいまの状況から脱することはできません。
まっとうな方法でお金儲けすることは悪いことでもなんでもない。「自立」を考えていけば「お金」の問題は避けてと通れないわけですから、どうやったら売上を増やし、工賃を上げていくかを考えることは、障害者のためであるわけです。

ですから、経営、ビジネスという視点を持ち込むことで、共同作業所の状況を少しづつでも変えていくことができるのだと思っています。


もちろん、行政にも問題はあります。われわら健常者の意識も変えていかなくてはいけません。

ある障害者が「私は障害を持って生まれたことを不幸と思わないが、日本の国に生まれたことを不幸だと思う」と言ったと伝えられているが、この言葉の意味するものには深いものがある。(p1)

福祉の仕事を始めて感じたのは、障害者の自立を阻害し障害者に対する差別をしばしば助長してきたのは、実は行政すなわち国である、ということでした。(p49)

共同作業所を回って歩くと、みんな作業所をつくるのに苦労しています。作業所が精神障害者の働く場だとわかると待ちをあげて反対運動が起きることが多いからです。いまだにそうです。設置に苦労された作業所の方から直接聞いた話ですが、ある町で精神障害の方のための作業所をつくろうとしたら、町のひとにはっきり言われたそうです。 「そんな施設をつくるなんて怖い。そういう施設の意義は認めるけれど、私の町内につくることにだけは反対する」 (p55)


さまざまな問題があります。一筋縄ではいかないし、お金だけですべてが解決するわけではありません。
そんな中、できる限り自分ごととして捉えて、自分にはなにができるのか、真剣に考えていきたいと思っています。見て見ぬふりができないわけではありません。しかし、知ってしまった以上、そうはできない、何かしなくてはいけない、と感じています。

PS
経営に関しては、この後はぜひこちらの本にチャレンジしてほしいです。

小倉昌男 経営学


そして、福祉や障害者雇用に興味を持たれた方は、ISFネットの渡邉幸義社長にご著書をぜひ読んでみてください。きっと、何か感じることがあるはずです。

社員みんながやさしくなった


美点凝視の経営  障がい者雇用の明日を拓く