1963年制作 今村昌平監督 モノクロ
キャスト
松木とめ:左幸子 松木えん(とめの母):佐々木すみ江
松木忠次(とめの父):北村和夫
岸輝子 小池朝雄 松木信子(とめの娘):吉村実子
北林谷栄 桑山正一 露口茂 長門裕之
春川ますみ 殿山泰司 河津清三郎
映画が始まると直ぐスクリーンに昆虫が出てきて
うごめいています。
観た事もない虫だったので、調べたら
マイマイツブリと言うらしい、湿った土の上を
ごそごそ歩く姿が気持ち悪い・・・・
突然スクリーンいっぱいに『にっぽん昆虫記』と
出て物語が、始まります。
とめは、えんと忠次の娘ですが、えんが忠次と
結婚した時、えんは妊娠8ヶ月で、少し知的障害の
ある忠次は、疑う事もなく、自分の娘と思っている。
ほんとの父は、えんが当時付き合っていた、小野川
らしいがえんにも、実際のことは分からない・・・・
少女時代の時、母のえんが他の男と、戯れて
いるのを観て、えんと忠次は夫婦ではないと
思い込み、戸籍では父である忠次をとめは、好きに
なって行く、この、二人の間には、近親相姦的な
気持ちが湧いてくる。とめの太ももにおできが出来た時
忠次はなんのためらいもなく、そのおできの膿を
吸い出してやる。今村監督は、人間の情欲を、
ストレートに描きます。
畑仕事でのどが渇いた忠次のために、自分の乳を
飲ませるとめ、
製紙工場で働いていたとめのもとに、忠次が危篤
と言うニセ電報が届き、それは、えんが仕組んだ
金目当ての地主の三男に足入れ婚させるため
だった、当時は嫁入りする前に、婿の家で、
暮らして、お互いの相性を見ると言う風習が
あったんですね、忠次は、とめが嫁に行かされると
思って、えんを袋叩きにする。結局地主の三男に
無理やり抱かれ妊娠し、三男は戦死してしまう。
実家で、娘の信子を出産し、忠次に信子を預け
再び製紙工場で働き始め、係長の松波と肉体関係を
持ち、組合の仕事も過激に運動したため、クビになる
実家は、弟夫婦が仕切っていて、とめの居場所は無く、
忠次に信子を預けて、東京に出て、基地の外人カフェや
オンリーさんの家政婦、そこの娘を不注意で死なせて、
新興宗教にはまり、売春宿を経営する女将に雇われ
女中奉公することになり、客の唐沢のお妾さんになり
女将を警察に売って、売春宿を経営するまでに
のし上がる、メイド時代の友達春川ますみを
雇い、とめ共々客を積極的に取るようになり
とめの強欲は、ドンドンエスカレートしていき
春川ますみに責められる。
戦争直後、女達は生きるために、死ぬ思いで、
体を売っていたのが、この時代になると、
女達は、なんのためらいもなく、少しでも
高く自分を売ろうとします。
生活も落ち着き忠次と信子を、呼び寄せ
一緒に暮らしたのもつかの間、忠次は、病気で
死んで逝きますが、今わの際にとめの乳房を
吸いたくて、与えるとめ・・・・
とめは、密告されて、警察に捕まり出て来た時、
娘の信子は、唐沢の愛人になっていた。
故郷にいる恋人と開拓村を作るための
資金欲しさに唐沢の愛人になって、資金が貯まると
故郷に帰った信子、それを知らない唐沢は
とめに信子を迎えに行かせる・・・・・
あまりのすさまじさに息苦しくなりますが、今村監督は、
生きるためには、誠実さや、論理感など捨てて
昆虫のように、ただただ本能のままに生きるとめ。
時々、シーンが変わる時、左幸子さんの素っ頓狂で
ヘンなイントネーションの短歌みたいなのが
詠まれるのですが、貧乏で苦しい生活の中にも
余裕があったのかと思いますが、『飢餓海峡』の
左幸子さんの演技凄かったのですが、
この『にっぽん昆虫記』の左幸子さんの演技も
すさまじく、したたかな、演技に圧倒されました。