http://mainichi.jp/opinion/news/20140906k0000m070148000c.html
<転載>
社説:リニア建設 本当に進めて大丈夫か
毎日新聞 2014年09月06日
JR東海が国土交通相に着工の認可を申請したことで、リニア中央新幹線がいよいよ現実味を帯びてきた。認可が下りれば、国による基本計画決定から41年を経て、巨大プロジェクトが動き出すことになる。
だが、本当にこのまま突き進んでよいのか、と改めて問いたい。
2027年の品川-名古屋開業、45年の品川-新大阪開業を目指すリニア中央新幹線計画は、総事業費が約9兆円に上る異例のスケールだ。JR東海が全費用をまかなうというが、採算面で大きな不安を抱えたまま、踏み出そうとしている。
万一、経営を揺るがす事態になれば、JR東海だけの問題ではすまなくなるだろう。日本の大動脈を独占的に担う、極めて公共性の高い企業であり、税金を使った救済にも発展しかねない。
それなのに、国会で包括的な審議がなされることも、国民的議論が盛り上がることもなかった。ここが一番問題だ。国交省は、計画ありき、でゴーサインを出すべきではない。
リニア中央新幹線には、限界に近付いた東海道新幹線の輸送能力を補うことや移動時間の短縮に加え、東海地震に備えた代替ルートの確保、東海道新幹線の老朽化対応という狙いがある。だが、経済性、環境面、安全性の観点などから、多くの疑問や懸念が指摘されている。
南アルプスを貫くトンネルの工事は特に難航が予想され、大幅な長期化もあり得る。JR東海は名古屋までの工事について、5年前に発表した事業費を935億円上方修正した。しかし、工期、資材価格や人件費、借金の金利など不確実性は多く、大幅な追加もないとはいえない。
想定外の費用増がなくてもこの事業に採算性がないことをJR東海自身が認めている。昨年9月、山田佳臣社長(当時)は、「リニアだけでは絶対にペイしない(帳尻が合わない)」と記者会見で明言した。
東海道新幹線のもうけで穴埋めする考えのようだが、人口減少と高齢化が進む中、需要の増加どころか現状維持さえ確かとは言い難い。新大阪までの工事が完了するとされる31年後の日本の姿を予測することは極めて難しいのである。
巨大プロジェクトの事業費が、当初の想定よりはるかに膨らんだという事例は少なくない。例えば本州四国連絡道路では3.8倍に跳ね上がった。甘い需要見通しで突っ走った過去の失敗に学ぶべきではないか。
東海地震の際の代替ルートというのであれば、リニアでなくてもよいし、北陸新幹線の活用もあろう。まさに国全体に関わる話として検討すべきテーマである。今から本気で議論をしても、遅すぎない。