あなた無しでは | 浅慮相乗のブログ

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このブログの内容は私が所属する/した、いかなる組織とも関係ありません。
Twitter ID @senryoAIIT と同じ人間が書いています。

以前、2つのエントリで「ITストックホルム症候群」なる言葉を使ったことがあります。

ご利用は計画的に
http://ameblo.jp/senryo-sojo/entry-11731925194.html

自助、共助、ストックホルム症候群
http://ameblo.jp/senryo-sojo/entry-11797776750.html

"ストックホルム症候群(ストックホルムしょうこうぐん、Stockholm syndrome)は、精神医学用語の一つで、犯罪被害者が、犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、過度の同情さらには好意等の特別な依存感情を抱くことをいう。"
ウィキペディアの執筆者. “ストックホルム症候群”. ウィキペディア日本語版. 2014-07-24. 
http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A0%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4&oldid=52384272
(参照 2014-08-31).

私がITストックホルム症候群という言葉を初めて聞いたのは、これを聴講した時でした。

情報ネットワーク法学会 - 第3回「技術屋と法律屋の座談会」
(デジタルフォレンジック研究会 第7期第2回講演会との共催)
http://in-law.jp/bn/2010/index-20101122.html

2010年11月11日のことです。それより早く、2010年08月19日に前田勝之氏(@keikuma)がご自身のブログでこのようなエントリを書かれています。

"岡崎市立中央図書館事件を見ても感じるのだが、ひどいシステムを導入あるいはひどい運用をされているにも関わらず、発注側担当者が開発会社あるいは運用会社をかばうという「IT版ストックホルムシンドローム」が、自治体においては良く見られる。"
サーバ管理者日誌 IT版ストックホルムシンドローム
https://www.nantoka.com/~kei/diary/?20100819S1

ちょっと言葉が違いますが、使われ方は一緒です。前田氏は学習会「追跡されるあなた -ビッグデータとプライバシー-」の講師をされた方です。

君がどんな人間であるかを私は知っている
http://ameblo.jp/senryo-sojo/entry-11882942438.html

ITストックホルム症候群という言葉が使われたのは、岡崎図書館事件とそれとともに明らかになった図書館システムの不具合について語られた文脈の中でした。岡崎図書館事件、Librahackとも呼ばれることがあります。Twitterではハッシュタグとして#librahackが用いられています。

この事件については、フォーラム「ネット時代の情報拠点としての図書館─ “Librahack” 事件から考える─」の公式記録に整理されています。

LSC岡崎図書館未来企画フォーラム
ネット時代の情報拠点としての図書館─ “Librahack” 事件から考える─
http://www.terracco.jp/etc/doc/librahack_book.pdf

ざっくりと言うと、図書館の新着資料の情報を取るために図書館のシステムにアクセスしたエンジニアが、システムに対する攻撃をしたとみなされ、逮捕され、起訴猶予となったのですが、システムへのアクセスは常識的な頻度であり、図書館システムの側に欠陥があった可能性があること、これを多くのエンジニアたちが調べているうちに、問題のシステムが丸見え状態になっていたこと、岡崎市立中央図書館の延滞者リストが他の図書館に漏れていた、もしくは混入していたということが発覚したのです。

図書館にシステムに詳しい人がいれば、起訴猶予となった方はそもそも逮捕されなかったでしょう。システム側に問題があることが分かったでしょうから。けれど、その図書館にはシステムの専門家はいませんでした。システムを納入した企業の専門家に頼らざるを得なかったのです。

このことを少し考えてみましょう。

もし、現行のシステムに不満があるとします。システムを入れ替えるには現在のシステムでどのような処理がされているか、どのようなデータがあるのか等々をシステムを受注しようとする側に伝えなければなりません。

しかし、システムの専門家がおらず、現行システムの納入者におんぶにだっこ状態になっていたら、このような情報を発注の為に開示することは難しいでしょう。納入者が自分に替わるものの為に詳細な仕様を起こすことなど、期待できるでしょうか?

現在、Twitter上で主に #公設ツタヤ問題 というハッシュタグで語られている問題があります。なにかと話題になっている佐賀県の武雄市図書館と同じカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者とする図書館が、あちこちの基礎自治体で誕生しようとしているのです。周南市、多賀城市、海老名市。そして今度は小牧市です。

ツタヤ図書館「小牧の顔に」 17年度開館、カフェ案も:愛知:中日新聞(CHUNICHI Web) 
http://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20140830/CK2014083002000052.html

海老名市と小牧市では図書館業務で実績のある株式会社図書館流通センターと組んでの指定管理者です。図書の貸出カードに武雄市図書館同様、Tポイントカード機能を持たせたものも使うのか、自動貸出機の利用でTポイントを付与するのかは定かではありません。

Tポイントカードは複数の企業で採用され、様々な店舗でポイントがつくので人気があります。但し、ポイント付与時に取得される情報がどのような範囲で利用されるのかユーザーであるデータ主体に分かり辛いことでも定評があります。図書館の利用に関する情報は外部に出すべきではないという意見もあります。

利用情報の問題は現在、個人情報保護法改正もにらんで議論の的になるであろうことは予想に難くありません。無論、これは非常に大きな問題です。ですが、もう1つ、忘れてはならないことがあります。図書館システムにTポイント付与の機能を組み込むことは図書館システムについて、CCCへの依存が生じるということです。

4年前の岡崎図書館事件を発端とする一連の事件で、行政システムのベンダロックイン、ITストックホルム症候群は注目されました。私が挙げた2つ以外にも、多くの場で議論されてきました。

今、#公設ツタヤ問題 から目を背けることはこれまでの議論を無駄にすることになりはしないでしょうか。