無許可助産院で女性死亡:相模原の助産院長が書類送検

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140917-00101745-kana-l14

要約)
・相模原の助産院【のぞみ助産院】の院内プールにて水中出産
 (昨年4月27日午後11時半)
・出産後大量出血、お腹の痛みを訴えたが
 嘱託医(提携病院)に連絡せず子宮収縮剤を投与
 (そもそも2008年から提携病院を設定していなかった)
・翌2時50分頃には血圧が取れないくらい低く
 意識も無い状態であり救急搬送したが女性は死亡


この助産院長が先日書類送検された事が
ニュースになりました

当ブログでも何度か
自然なお産やトンデモ助産院を
バッシングしてきましたが・・

【自然なお産】に対し毒を吐きまくった記事
↓ ↓
http://ameblo.jp/kyusan0225/entry-11784183009.html
http://ameblo.jp/kyusan0225/entry-11788272602.html

このニュースを受けて
ある論文を紹介したいと思います

助産所からの搬送例の実状と周産期予後
平成16年
北里大学産婦人科・小児科

概要)
・1998年~2002年の5年間に助産所から搬送された
 母体搬送21例と新生児搬送15例の転帰を調べた
・母体搬送21例中新生児死亡は4例(19.0%)だった
・これは同時期の病院からの例では4.6%であり
 助産所からの例では明らかに新生児死亡率が高かった
・母体搬送21例中6例、新生児搬送15例中9例が
 助産所取り扱い基準逸脱例であった


助産所に対して
かなり批判的な論文ですし
結構衝撃的な結果がいくつも明らかになっています

詳細を追って説明しますが、
論文最後の考察・結論部分の内容が
非常に印象的だったので、
先に紹介したいと思います

考察抜粋)

我々の地域内にも助産所が6施設あり、
そこでの分娩を希望する妊婦も見受けられる。

しかしながら、助産所での活動内容(健診内容、分娩様式、
分娩数など)はわれわれ医療機関側からは不明な点が多く、
また
助産所のおける嘱託医制度についても
形骸化している
と言われて久しい。


当院への母体搬送・新生児搬送例を検討してみると
助産所分娩には適さない妊婦が
経過中に医療機関を受診せずに、

除算所で分娩していることもあることが判明した。

さらには妊婦の、あるいは助産所の
あまりにも強い
「自然」分娩指向があるためなのか、

搬送時期が遅れ重症・予後不良となった症例も見られた。

以上)

北里大学の先生方の
心情を察する事が
できる様な考察文ですが


論文内容を少し噛み砕いて説明します


まずは、母体搬送21例の内訳と転帰
を細かく確認してみます

読みづらいのでクリックして下さい
↓↓


nonreassuring fetal status
という難しい言葉がでてきますが
これは分娩進行中に
赤ちゃんの状態が悪くなったという意味で、
病院だと、帝王切開術や
鉗子・吸引分娩等で
早急に出産を検討する段階です

PROMは前期破水といって
満期前に破水してしまう事を指します

破水すると、赤ちゃんを守る羊膜が破れるので
ばい菌に感染しやすくなるため
感染が起こるより前に出産する必要があります

さて、搬送理由を見てみると

A) どこで経過を見ても防げなかったもの
  切迫流産・切迫早産・弛緩出血・PROM・常位胎盤早期剥離

B) 病院であればすぐに対応出来たもの
  nonreassuring fetal status全般

C) 病院で経過を診なくてはならないもの
 (助産院での分娩基準では無いもの)
  骨盤位(逆子)・前置胎盤・IUGR(子宮内胎児発育不全)

に大きく分ける事が出来ます
分娩中に赤ちゃんの状態が悪くなる
nonreassuring fetal statusは、
帝王切開や鉗子・吸引分娩ができる病院だと、
すぐに対応ができるので、
赤ちゃんが亡くなってしまったり、
障がいが残るリスクも少なくなります

しかし、帝王切開等が出来ないリスクは
助産院で分娩を選択するお母さん達は
十分理解・納得済みだと思います
(・・・多分)

しかしこの論文で驚くべきは
赤字の部分

つまり

本来病院で経過を診るべき症例が
2割以上(6/21例)含まれていた事です

しかも、前置胎盤やIUGR(子宮内胎児発育不全)等は、
小・中規模の病院ですら診るべき病態では無く
診断がつき次第、
即設備が整った大きな病院に
紹介されるようなレベルです


なぜなら


何か(大量出血、胎児死亡、染色体異常等)が起こると
本当に怖いし、
その何かが起こる確率が高い事は
専門家の誰しもが知っているからです



何故助産院が大きな病院に紹介しなかったのか・・

1:怖さを知らないから
2:診断ができなかったから
3:その他(お母さんの強い希望、助産師の強い信念等)


なんかが理由として考えられるけど
おそらく2が圧倒的なケースなんだろうと思います
(3も実は根が深い問題なのですが・・)

最近ずんずん体操問題でハインリッヒの法則を解説しましたが
http://ameblo.jp/kyusan0225/entry-11922461445.html

トラブルが起きる前段階に
気づく事が出来ないのであれば
トラブルは防ぎようがありません

いくら助産院が
何かあったらすぐに嘱託医と連携がとれます
と謳っていても、危ない症例に気づかないのであれば
リスク軽減にはつながりません


さらに、上述した様に
嘱託医との連携すら怪しい場所も沢山あります
(この助産院も、嘱託医連携していると
妊婦さんに説明していたけれど、
実際は登録していなかった様ですし・・)


しかし
トラブルに気づく事が出来ないのは
仕方がありません


・十分な検査機器が無い
 (採血・超音波・レントゲン等)
・取り扱い症例が極端に少ない
・フォローする人が少ない

理由は沢山あります
特に超音波検査は、侵襲が無く
得られる情報がとても多いため
きちんと扱える事は非常に大事なのです

正直産科医でも
超音波検査、採血が無く
その場で処置できる道具も無い

そんな状況下で現在の医療レベルを保つのは
不可能に近いです

私達産婦人科は
トラブルの前段階をきちんと把握するため
沢山の症例を経験し、検査方法を学ぶのです

お産は年間1000件近くありますし
産科外来は毎週50~100人の妊婦さんをみるため
超音波検査のスキルも否応無く上がります
しかもお産に関わる人数も多いため
他の先生の治療方法を学んだり、
はたまた下の先生の失敗をフォローしたり
様々な危ない症例を見聞きしたり

そうやって経験をつんでいき
高い医療水準を保っています


さて続いて・・
新生児搬送(産まれた後の赤ちゃんだけ搬送する)
も15例ありましたが

やはり先ほどと同じ様に
助産院で扱うべきではない症例が
含まれていました

9例も!

内訳はこちらです
↓クリックしてみて下さい

双胎妊娠なんかも含まれている事は
大変驚くべき事です・・

しかも、出産するまで
双子に気づかなかったみたいです

双胎妊娠は、切迫早産、妊娠高血圧、胎児死亡等
様々な合併症を伴う事が多いので
慎重に経過をみないといけませんし
やはり双胎妊娠という理由だけで
小・中病院から大病院に紹介されるケースも
あるくらいです

さらにちゃんと超音波検査がされてないためか
超音波検査で簡単に見つかるくらい
大きな胎児奇形や染色体異常のケースも
多く見受けられます

この結果をみていると
私達人類が必死に作ってきた
治療・診断方法が全く生かされていない様で
怒りすら覚える内容です


結局小・中病院からの母体搬送例と
助産所からの母体搬送例の
新生児死亡率はこの様になり
大きな差がある事が明らかになりました



何度も言う様に
これはあくまで、
最も大きなトラブル(死亡)
の差でしか無く

先述のハインリッヒの法則を考えれば
危ない橋を渡ったお産は
助産院では病院に比べ
おそらく大変高い確率である事が
示唆されます


実際この論文には
相当不可解で、常識を逸した
分娩管理をした例が一つ紹介されています


以下抜粋:一部改変

29歳 41週0日・遷延分娩・子宮内感染
          nonreassuring fetal status

経過:40週2日陣痛発来後、4日間水中分娩を行っていた。
40週5日21時破水、分娩進行せず41週0日で母体搬送

緊急帝王切開術
新生児所見
3,157g Ap(アプガースコア)
1分値0点
5分値0点(10分値1点)

児胃内容培養:H.Parainfluenzae
(母体の膣培養から多数の細菌が検出)

重度感染症のため、日齢5新生児死亡となった

以上)

水中分娩自体
私には全く理解でき無い方法ですが

経過をみる限り
ろくすっぽ衛生管理もしていない状況で
水中分娩を何日も何日も試みて

膣の中はばい菌だらけ
破水してからも、適切な判断は全くされず
胎児の胃の中がばい菌だらけになるまで
ほっておかれたのだから
長い時間苦しんだ胎児が不憫でなりません

アプガースコアという言葉が出てきますが
出生後の赤ちゃんの元気さを示す指標で
出生後1分、5分後に評価をして点数をつけます

出生直後の元気度を示すアプガースコア
All About
http://wrs.search.yahoo.co.jp/FOR=KZaDFCRV3ijxp.9He26NsPyL3UJTVJtOvl0m7NPF7927LZkHBHyQ72iSGNKfkQys2gPr.OVAb3GaYiYAWoFQZKe6BRjkvBogvFzeZTCz2A4adaSPcJWNk_2304TKpGBR4l0EWrlSqxAFWCQPQzkVDq_wjJXFxdgM5xtExL3yEmgwNKfQva3GmdFR4khIUrL7G1coKqdV2m2A7frTCGec/_ylt=A3aX6ER5khlUnFYAf5eDTwx.;_ylu=X3oDMTBtdHJ2NDZ0BHBvcwM2BHNlYwNzcgRzbGsDdGl0bGU-/SIG=11nb8tj5o/EXP=1411062841/**http%3A//allabout.co.jp/gm/gc/185540/

・皮膚色
・心拍
・刺激への反応
・筋緊張
・呼吸

この5項目を10点満点で評価し、
7点以下が新生児仮死となります

この症例の赤ちゃんのスコアは
1分後0点、5分後0点

つまり
産まれても鳴き声を上げず
全く動かず
心拍すら無く


こんな状態が
5分間も続いたのです

私自身の経験では
事前に胎児が亡くなっている症例以外で
アプガースコア0点
を経験した事は未だありません

胎盤早期剥離や
子宮破裂等
どんなに注意していても防げない症例なら
まだ納得もできますが

助産師の判断なのか
それとも母親の強い希望なのか

文章からは分かりかねますが

お産に関わる専門家や母親のエゴによって
結局一番の不幸がふりかかったのは
何の罪も無い子供だったのです・・


自然なお産
水中出産

希望する事自体は
私は自由だと思いますが

この様な例が続くのであれば
やはりやめた方が良い
と忠告したくなってしまいます

また
自然なお産
自分らしいお産

耳障りの良い言葉を生み出し
この様な方法を軽々しく持ち上げるメディアも

今回の書類送検されたケースや
紹介した論文の様なケースも
しっかり報道して、
ちゃんと議論をして欲しいと思います