映画「あいときぼうのまち」海外医療支援の立場から | 瀬田直の世界

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久方振りの更新です。先月からハノイのクリニックで働いています。これからはベトナム事情、海外から見た日本、医療などについて書こうと思います。


さて、映画「あいときぼうのまち」(瀬田直:陸軍大尉役)2014年6月から公開中です。


明日9/20(土)より宮崎キネマ館、小倉コロナシネマワールド、小田原コロナシネマワールドの三館で上映が始まります。宮崎、小倉、小田原にお住まいの方、友人知人のいらっしゃる方、どうかよろしくお願いいたします。

また、熊本・Denkikanと大垣コロナシネマワールドでの上映は本日9/19まででした。ご高覧いただいた方、ありがとうございました。ぜひ、感想をお聞かせ下さい。


本作は東電の名前を出しているためか、ほとんどメディアに取り上げられていませんが、地道に草の根の広がりを見せています。本作パンフレットへの寄稿文に私の考えが書かれていますので、そのまま転載いたします。皆様、今後もよろしくお願いいたします。


公式ホームページ www://http.u-picc.com/aitokibou/

予告編 m.youtube.com/watch?v=LCbHCsP6zF0


海外医療支援の立場から

私は2001年からスリランカ、ニューヨーク、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアで海外医療支援に携わってきた。紛争、戦争、トラブル、事故による爆弾創、銃創、刺創、熱傷、骨折など、あらゆる外傷患者が搬送される。大半は一般市民、罪のない犠牲者だ。スリランカでは過激派組織「タミル・イーラム解放の虎」掃討後もタミル人とシンハリ人の対立は収まらない。ナイジェリアで過激派ボコ・ハラムによる虐殺が組織的かつ大規模に行われる。人種、民族、宗教、信条、貧富の差など、あらゆる要因があるが、残念ながらこれが世界の現状である。しかし、人々には笑顔があり、友情があり、食事があり、歌があり、ダンスがある。彼らにより救われた気持ちになったのも、また事実だ。
3年前まで日本は援助する側だった。しかし、2011年3月11日の東日本大震災、人類史上初めて経験する同時に4基という福島第一原発爆発後の核の制御のため、世界中の叡知が必要になっているのだ。
ウラル核惨事、米国スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故 、東海村JCO臨界事故など、核の平和利用として推進されてきた原発も爆発すれば核兵器と同様に広範囲に被害を及ぼす。原発の使用済み核燃料は核兵器に転用可能であり、結局のところ、原発推進勢力と軍事産業は表裏一体である。これは本作品「あいときぼうのまち」でも描かれている通りだ。

放射能による健康被害

急性期の放射線被曝は出血、下痢、感染症、皮膚障害、肺炎、心膜炎などを引き起こす。一方、食事、水の摂取などからの低線量被曝により白血病、悪性リンパ腫、甲状腺癌の他にも糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、眼科疾患や免疫力の低下、妊娠、出産異常、先天性障害、小児癌など様々な疾病が起きることが指摘されている。しかし、これらの解析は十分なされたとは言えず、医学界に課された急務である。
日本医学界はどうか?「笑っていれば放射能は逃げて行きます」と言う者がいる一方、真摯に放射能対策を考える医師も存在する。2011年4月の文科省が幼児、児童、生徒が受ける放射線量の限界を年間 20ミリシーベルトと規定した通知に対し、日本医師会は科学的根拠が不明だとして国ができうる最速・最大の方法で放射線被曝量の減少に努めることを求めた。2014年4月、「こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」は 日本小児科学会の「統計学的には、約150ミリシーベルト以下の原爆被爆者では、がんの頻度の増加は確認されていない」との見解の撤回を求めた。また、独自で甲状腺や血液検査を積極的に行う良心派の医師もいる。今後、個人情報、あるいは特定秘密保護の名のもとに病気の情報隠蔽がないよう監視の目が必要だ。

福島を取り巻く状況

「あいときぼうのまち」は1945年の石川町でのウラン採掘から始まり、1966年の政府/東電による福島第一原発の誘致、2011年3月11日の震災と原発の爆発、2012年に草野家の子孫が東京に避難した時までが描かれた貴重なドキュメンタリー的フィクションである。しかし、その後も福島を取り巻く状況は刻一刻と変化している。
2013年9月、安倍晋三首相が国際五輪委員会で「 汚染水の影響は完全にブロック」、健康問題については「今までも現在も将来もまったく問題ない」と発言する。2014年3月、東日本大震災関連死が3000人を越える。放射能汚染水を希釈し海洋に放出することが検討され、除染の効果がないまま福島県民への補助金打ち切り、帰還が進められつつある。各電力会社から再稼働の安全審査が申請されているのは10原発17基。同時にベトナム、インド、トルコ、アラブ首長国連邦などへの原発輸出が進行中である。
日本は今やなりふり構わぬ原発と兵器輸出で国民の命よりカネを優先する国に変貌している。TPP、国防軍という名の徴兵制、特定秘密保護法案もこの流れと軌を一にしている。 そんな中、5月に福井地裁は大飯原発の運転再開の差し止めという画期的な判断を下す。

一条の望みを

今後も福島第一原発の廃炉作業は困難をきわめるだろう。ウラン、プルトニウムを含む高レベル核燃料は無害化に10万年かかるという。 地震国日本で核を安全に保管する方法があるのだろうか?暗憺たる未来。しかし、それでも我々は生きていかなければならない。見て見ぬ振りは、許されない。我々全員が当事者だ。
「あいときぼうのまち」は日本の現状に対する痛烈な反語だが、本作品のラストで中学生の玲が吹くホルンの美しい音に一条の望みを見出したいと思う。 後世で我々の子孫は本作品をどのように見、感じるだろうか。(2014年5月)