【現地リポート】 半年後の福島は今(上) ~『汚された農産物』 | 民の声新聞

【現地リポート】 半年後の福島は今(上) ~『汚された農産物』

震災の被害者であるはずの福島県民が振り回される不条理…。3.11から半年経った福島には、予想以上の大波が押し寄せている。「福島=放射能」というイメージ。福島県産の食品だけでなく、花火や中古車にまで波及する広がりぶり。売れない青果物、訪れなくなった観光客。放射能汚染への不安は風評なのか実害なのか。政治が実効性ある策を打てないなか、未曽有の危機に陥っている福島を訪れ、民の声に耳を傾けた。農家は被害者であり、青果物は放射能に汚されたのだ。消費者の不安に理解を示しつつ、それでも「食べてほしい」と言うしかない流通関係者の立場は、あまりに哀しい


【収穫高減、単価安】

JR福島駅から阿武隈急行で一駅。卸町駅近くに広がる広大な福島市中央卸売市場(同市北矢野目)。段ボールに入った多くの福島県産青果物が積み上げられている。

桃の出荷はひと段落し、果物は梨(豊水、幸水、二十世紀)やブドウ(巨峰)、野菜はキュウリやトマト、インゲンが主流。11社の仲卸業者が忙しそうに動いている。市場年報によると、同市場での青果部門の年間取扱量は、昨年度が6万㌧。産地別では福島が22.4%でトップ。特に果物は3割近くに達し、2位の熊本の倍近くになっている。

「震災の時は、何かにつかまっていないといられないくらいだった」。市場内を歩きながら卸売会社の幹部は振り返った。

福島の農産物が直面しているのは、「収穫高減、単価安」。廃業した兼業農家もいるほどの危機。

「『果たして売れるのか』という不安が払しょくされない。年金をつぎ込んでやっている兼業農家もあるなかで、売れる見込みがないなら、とやめてしまう」

取扱量が、この10年間でほぼ半減していたところに直撃した地震と放射性物質。県内産の果物は半値以下に下がり、各仲卸業者の売り上げへの影響も小さくなくなってきた。九州では、福島のアンテナショップ出店が地元の反対で中止された。いわき市の小名浜漁港で水揚げされたカツオが、東京・築地市場で値がつかなかったという〝事件〟は、すぐにこの市場にも伝わった。長く市場と関わってきて、これまで経験したことのない状況。半年経っても何ら有効策を打てない国への怒りは強い。「政府・行政の対応がもっと速かったら、こんなに苦しまずに済んだのではないか。特に国の動きは酷い」

「検査はきちんとやっている。安全でないものは市場に出していないから食べてほしい。われわれは、いつになったら自信を持って売れるのだろうか」

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市場の一角で開かれるセリ。放射性物質による食品汚染に対しては、流通業者の思いもさまざまだ


【全員移住して総除染せよ】

山形出身の仲卸会社社長は、「消費者の反応は過剰ではない。風評なんかじゃない。床に落ちたおにぎりを食べるかどうか、というのとは違うんだから」としたうえで「戦争のような国難なんだ。小沢一郎のように少し強引な政治家でないと駄目なんじゃないか。クリーンで何もできない政治家より、ダーティでも良いから福島を再興させてくれる政治家がいいよ」と語気を強めた。

この社長は震災直後から、「今年は福島県産はすべて廃棄。全員移住して土地をきれいにして生まれ変わらないと駄目だろう」と仲間内で話していたという。

「農地全体を覆っているわけではないんだから、放射性物質に晒しっぱなし。膨大な数の桃をどうやってチェックするんだよ。俺たちは福島県産の青果物を円滑に流通させるのが仕事だから言いにくいけど、毒をまき散らしているのと何が違うんだ」

「政治家は、もう元の家には戻れないとはっきり言うべきだ。それで、農家も含めきちんと補償をして移住させる。農産物も数年間は出荷停止させる。下手に出荷して、それで基準値を超えるから消費者の不信感が高まるんだ」

大型スーパーの担当者は、他県産がどうしても入手できないとき、やむなく福島県産を買うという現状。

別の古参関係者は「福島の工場で加工されたカット野菜は使わない、と宣告された。中元に贈った桃は送り返された。中古車は、福島ナンバーというだけで3、4割値が下がるという話も耳にした。『福島を応援しよう』は口ばっかりじゃないか。きれい事は言わないでほしい」と怒りを口にした。

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市場から県外へ出荷されるトマトやナシ。買うか否かは消費者個々の判断だが、売り場を奪ってはいけない



【家族の生活のために売る】
自身も放射線量の高い地域に生活する仲卸業者(44)は「俺にも中二の娘がいるし、買いたくないという人の気持ちも分かる。でも、これで生活している以上、買ってもらわなきゃ。」。なるべく福島県産の果物は食べさせないようにしているという。

しかし、それだけでは家族を養うことはできない。いら立ちの矛先はつい、県外の消費者へ向かってしまう。

「売り上げは3割近く落ちるのではないか。農薬に関しては基準値以下なら食べるのに、どうして放射性物質は食べてもらえないのか。基準値以下の農薬で病気になった人がいるのか」

福島市が東北大学に依頼して行っている検査(9/21発表分)では、ナスやキュウリ、キャベツなどほとんどの農産物が「不検出」だったが、国の暫定基準値(500ベクレル)以下とはいえ、トマトで2ベクレル(セシウム137)、コマツナ3ベクレル(セシウム134)、クレソンが41ベクレル、実がジャムや果実酒に加工できるナツハゼは42ベクレル(ともに134、137合算)と、放射性物質による食品汚染が決してゼロではないことが数字として表れている。

多くの専門家が「いつまでも緩い暫定基準値を使わず、厳しい基準値を設けるべきだ」と指摘するなか、市場でも「他の物質と同じように、放射性物質に関しても政府がきちんと規制値を設定してほしい。それ以下なら、消費者も買ってくれるだろう」という声を多く聞いた。地元の人々は放射性物質が雨のように降り、それが決して生易しい量ではないことを良く理解している。それでも、農産物を売らなければ生きていかれない。誇りを持って長年従事してきた仕事とのはざまで苦しんでいるのだ。

先の仲卸業者は別れ際、一瞬、険しい表情になってつぶやいた。

「福島県産をどうやって売るか、毎日毎日そればかり考えているよ」

(了)


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磐越西線・会津若松駅には、福島を応援する寄せ書きが飾られている。ここにも「風評には負けない」の文字