「箱根駅伝」で起きた途中棄権


 進化理論を、研究していると、駅伝は良く観戦します。持久力をつけたのが、人類の進化解明上の、大問題だからです。

今年の箱根駅伝では、日本体育大学が、予選会から出場して、総合優勝し、感動を与えました。もう一つ、気になったのが、中央大学と、城西大学の途中棄権です。途中棄権までは至らなくても、冷たい強風の中で、失速する選手が散見されたことです。

シーシャトル理論の観点から、途中棄権の原因と対策を分析して見ました。




 一般的な気象条件の下での陸上長距離では、熱中症対策のため、水分補給(正確には、塩分量0.4%ぐらいのイオン水)が必要です。ところが、今年の箱根駅伝の気象条件は、寒い向かい風で、低体温に見舞われました。条件は、熱伝導率が空気中の27倍強もある水中で走っているのと、同じです。各大学の運営管理者(監督)は、水分補給にバタバタしていましたが、熱中症予防ではありませんので、処置の仕方が間違っています。低体温対策が必要です。





陸上長距離は、フルーイッドシフト(組織液移動)という生体反応を利用して、持久力を発揮します。身体を、脚部・胴体・頭部に区分して働き具合を見ると、一番、働いているのが脚部で、次が胴体で、何の運動もしていないのが、頭部です。ところが、汗をかく順番を見ると、頭部・胴体・脚部の順です。昔の駕籠での移動に例えると、一生懸命走っている駕籠を担いでいる人は、汗をかかず、駕籠の乗っているだけの、お客が汗をかいているという奇妙な現象が起きているのが、陸上長距離です。これが、フルーイッドシフト(組織液移動)です。放熱の役割を果たすため、発汗をし、頭部の温度を下げます。長距離選手が、頭に水を掛けたりするのは、頭部の温度上昇を防ぐためです。頭部の温度が上がるので、冷やすため、塩分の働きで頭部に組織液が送られ、汗をかいて、頭部を冷やします。熱中症は、頭部を冷やすのが追いつかず、高温化する一方で、身体は低体温化し、全身痙攣が起きて、死に至ります。

痙攣は、寒くて、筋肉を動かして熱を発生させようとする生体反応です。熱中症から助かった人の話を聞くと、頭部は、強烈に暑くて、身体は、寒かったという体験をしています。



特に、男性が駆使する外脳は、脳容量が増えていく脳で膨張傾向にあります。外脳の媒体が油成分で構成されており、熱が籠もると膨張します。限られた空間の中での熱膨張により、神経細胞が圧迫され、死亡する確率が男性では高いと思われるのです。男性が熱中症にかかったら、女性よりも、死ぬ確率が高いのです。男性の頭が禿げるのは、放熱のためであり、禿げたところがテカテカ光っているのは外脳の油成分がにじみ出てきた物です。昔から、チョンマゲをして、頭頂部の髪を切り、或いは、髪の毛を短くするのは、放熱をするための知恵です。

陸上長距離選手が走る前に、バナナを食べると良いというのは、カリウムを摂取するためです。カリウムは、炭水化物などの炭素を酸素で燃やし、炭酸ガスと運動エネルギーとなる熱を発生させる時、触媒となるからです。水に濡れた木炭は、触媒のカリウムが流されていますので、火がつきません。

イオン水というのは、実体は、0.4%の食塩水で、吸収を良くするために糖質が含まれています。身体の組織液の塩分濃度が0.9%と高いのですが、走っている時、呼吸などで、水分が自然に出て行きますので、0.4%のイオン水で良いのです。飲料メーカーは、緻密に計算しながら、熱中症予防のためのイオン水のスポーツドリンクを造っているのです。





強烈な向かい風であった箱根駅伝の途中棄権で起きた現象は、体温を奪う水中で起きる生体反応であるブラッドシフト(血液移動)です。一般的な気象条件で起きるフルーイッドシフト(組織液移動)とは、全く別の生体反応です。水中では、熱伝導率が大気中の27倍強ありますので、強烈な低体温に見舞われます。身体は、筋肉がありますので、動かすことで、熱を発生させられますが、頭部は筋肉がありません。頭部の体温低下による細胞死を防ぐために、血液を送り込んで、頭部の温度を保とうとします。その血液は、脚部の血流を制限して、頭部に送り込むのです。これが、ブラッドシフトです。

血流制限下の置かれた脚部は、悲劇です。血流による栄養と酸素が制限されていますから、筋肉が動かなくなってきます。箱根駅伝で起きた途中棄権の選手に起きた現象を、「子鹿走り」と表現しましたが、生まれたての子鹿のように筋肉が機能しなくて、フラフラし出すのです。そんな選手に、水分補給しても何の役にも立ちません。別の対策が必要です。なお、ブラッドシフトは、頭部に血流は、十分に、確保されていますから、熱中症のような命の心配は要りません。すぐに回復するはずです。


 

水泳では、200~400メートルを過ぎた頃から、ブラッドシフトの生体反応が起きてきます。脚部が、血流制限下におかれるのです。水泳の800メートルとか、1500メートルは、フリースタイルであるクロールで泳ぎますが、脚力に頼らず腕力を主に使って泳ぎます。長距離で、100メートルを泳ぐようにダッシュして足を使ったらすぐにバテます。800メートルであれば、残り150~100メートルぐらいで、キック力を振るに使うのです。

陸上長距離は、脚力が主ですので、水泳の長距離はそのまま適用できません。しかし、水泳の長距離選手は、脚部を血流制限下で、トレーニングしていますから、脚部の持久力は高いのです。

水中で起きるブラッドシフトを陸上で再現したのが、加圧トレーニングです。加圧トレーニングの原理を発見したのは、日本人のスポーツ科学の研究者です。脚部を軽く縛り、血流制限下におきます。或いは、加圧パンツも、開発されています。脚部を血流制限下でトレーニングすると、夜寝ている間に、成長ホルモンが分泌されて、軽い負荷の運動で、筋肉強化ができるというものです。正月という寒い条件下で行われる箱根駅伝で「子鹿走り」を防ぐには、ブラッドシフトに備えた血流制限下のトレーニングが欠かせません。特に、箱根の山登りをする選手には必要です。





「山の神」と言われた東洋大の柏原選手は、箱根の山を猛烈なスピードで駆け上がったのですが、背景には、2つの要因があると考えています。

双子であったことと、貧血であったことです。

長距離選手には、双子が多いのは、双子が産まれる確率よりも明らかに多い。日本では、日本の長距離会を湧かせた宋兄弟、現在では、東洋大の設楽兄弟など多くの双子選手がいます。トライアスロンでは、イギリスのブランディー兄弟が有名です。双子は、母親の胎内で、母親から臍の緒を通じて得られる酸素を、二人で分け合いますから、酸素が薄い高地で成長するような物で、天性の高地順化がなされていると考えられるためです。





貧血は、常に血流制限下におかれますから、高校の頃、貧血で苦しみながらもトレーニングを続けた結果、脚部に疲れを知らない持久筋肉が発達をしたと考えられます。思春期を過ぎるとリンパ系と共に、造血機能が発達してきますので、貧血が治ります。貧血による血流制限下で鍛えた脚力は、箱根の山を駆け上がるときに、疲れを知らない筋肉として本領を発揮したと考えられます

柏原選手は、高校時代速い選手ではありましたが、貧血持ちであったため、各大学から推薦入学を忌避され、東洋大学の監督が進展性を買って、受け入れたと聞いています。

中学。高校と貧血で苦しみながら、トレーニングを重ねてきた選手というのは、血流制限下で脚力を鍛えていますから、箱根の山登りで大ブレークする可能性があるのです。





向かい風が強く、温度が低い時の当面対処は、額から耳を覆う暖かい毛糸の帽子を被って走ることで、ブラッドシフトの生体反応が起きるのをある程度、防ぐことができます。

寒冷下で、50キロという長距離を走るノルディックの選手は、上半身の力を使うこともありますが、頭に毛糸の帽子を被っているので、ブラッドシフトが起きません。

帽子は、途中、脱ぎ捨てるように指導しなければなりません。中盤以降、暑くなって、汗をかきだしたら、もう、ブラッドシフトが起きる心配は要りませんから、捨てて、サポートしている部員に拾って貰えばいいのです。ケニア人ランナーで、寒さに弱いと言うことで、毛糸の帽子を被ったランナーがいましたが、ブラッドシフトが起きるのを防止するため、自然に出てきた知恵です。





長期的な対策は、夏場、脚部への血流制限下のトレーニングを採り入れることです。望ましいのは、陸上練習と併行して、週に二回ぐらいのプールでのトレーニングを採り入れることです。水泳をすると上半身の胸回りの筋肉が着いて、基礎代謝が高くなり、持久力が落ちますので、脚部と中心とした鍛え方をするのです。ビート板を使って、頭部をつけて、キック練習です。

更には、水中で、ランニングの練習をするのです。水中でのロードは、陸上での4倍以上あり、血流制限下でなされますから、疲れを知らない持久筋力がついてきます。血流制限下のトレーニングは、山登りに起用する選手には、欠かせないトレーニングです。さらに、陸上では、併行して、加圧パンツを導入して、ロングスローディスタンスで血流制限下のトレーニングをすると、疲れを知らない脚力がついてきます。

また、プールを採り入れるトレーニングには、副次的効果があります。

夏場、プールで泳いでいる子供は冬場、風邪を引きません。寒暖の変化に対する対応力がつくのです。箱根駅伝の前、風邪を引いて、走れなくなる選手が出て、健康管理に苦慮しているようですが、夏場に、寒暖に対する対応力をつけることで、風邪を予防できます。

また、プールでのトレーニングは、地球重力が軽減されますから、故障の発生を未然に防止できます。故障の原因というのは、突き詰めると、全てと言っていいほど、地球重力です。地球重力を軽減して、筋力を強化しておけば、故障など起こしません。

以上が、長期的対策です。





高校でも、大学でも、陸上長距離の監督は、長距離の一流選手です。フルーイッドシフト(組織液移動)の生体反応の世界しか知りません。ブラッドシフト(血液移動)など、思いも寄らない世界です。ブラッドシフトで「子鹿走り」に陥った選手に、脱水症状によるものとしか考えられず、水を持っても、冷たくて、頭部の温度低下を促しかねず、事態を悪化させるだけです。受け付けません。監督やら応援部員が差し出した水を飲んだ選手はいないのです。ブラッドシフトを起こしたら、手の施しようは限られていて、選手の血流制限下の脚力が頼みの綱です。ブラッドシフトが起きたら、腕の振りを大きくし、上半身に熱を発生させ、速度を落として、足を少し休め、脚力の機能が回復したら、速度を上げると途中棄権で襷がとぎれる危険は避けられるかもしれません。オリンピッククラスの選手である青山学院大学の出岐選手は、さすが一流選手だけあって、速度を落として、途中棄権を回避し、ある程度のスピードを回復したようです。ブラッドシフトは、生体反応であり、根性の話ではありません。知恵の話です。寒冷下では、どんな一流選手でも、夏場のトレーニングと、知恵がなければ、ブラッドシフトは、避けられないのです。

体調は、良かったのに、ブラッドシフトの生体反応が襲ってきて、足が動かなくなると、原因が分からないので、選手は、完全に、自信を失います。「自分は長距離選手に向いていない」と考えます。向き不向きとは関係ありません。ブラッドシフトの生体反応が起きるメカニズムを知らなかっただけです。良い経験で、トレーニングと走行技術に反映させればいいのです。





私的な心情を言えば、15回の優勝を誇る中央大学が、途中棄権をし、シード落ちし、来年、予選会から出て行かなければならない姿を見て、大変残念な思いで、本ブログを書いています。

読者の中で、中央大学に限らず、箱根駅伝関係者を知っている方がいたら、本ブログを読んで頂けるよう薦めて頂けたら、来年は、途中棄権が、少しでも減っていくと信じています。


追記

頭部に行く血管は鼻の奥から額に通じています。夏場は、頭を冷やして熱中症を防ぐために、鼻で息を吸い、頭部に流れる血液を冷やす必要があります。


箱根駅伝のような冬場の気象条件では、鼻で息を吸うと、頭部が更に冷やされ、ブラッドシフトが起きやすくなります。口で息を吸うのです。脳を暖めるために、できれば、鼻から空気を吐き出します。

水泳選手の呼吸法で、夏場とは逆の呼吸法です。水泳選手は、口から息を吸って、鼻から吐きます。鼻孔保護と頭部を冷やさないためです。

「夏場と冬場では走り方が違う」という原理は、走っている選手が理解していて、状況に合わせて採用しなければなりません

読者の方へのお願いは、箱根駅伝を走る多くの選手に読むよう薦めて戴き、途中棄権という残念なことが起こらないようになって欲しいと思っています。