そもそもの発端は、

アシスタントたちと話していて

「最近楽しいことないねえ」

ってことになったんで、新宿の紀伊国屋書店に行って、一人一万円の予算で

「今まで経験したことがない楽しそうなこと」が書いてある本を見つけて買おうってことになって

3時間くらい各自本を探してから、近くの居酒屋でそれぞれ買った本を持ち寄ってプレゼン大会したんですね。


ちなみにこの日、僕たちが買った本は↓です

楽しい本2

この遊びはかなり盛り上がりまして

「人生まだまだ楽しいことあるぞ!」

ってことで気分よく飲んでたら結構酔っぱらってしまいまして、


それで、よくよく考えたら今、新宿にいるわけじゃないですか。


それで新宿と言えば「ギラギラガールズ」じゃないですか。


というわけでアシスタント2人を連れて、3人で店の前に行ったんですよ。


そしたら黒服っぽいお兄ちゃんが話しかけてきて



「ギラギラですか? すみません、今、1時間待ちなんですよ」



――今思えば、この時点で怪しかったんですけど


僕たちもお酒が入ってて、なんとなくこの男がギラギラガールズの店員だと思ってしまったんですね。


「同じ系列のお店がありますんで、そこで時間つぶしてもらえればすぐに迎えに来ます」


そう言われて、まあ1時間だけだったらそうしようってことでその店行ったんですよ。


それで女の子がついて、グラスのワインを頼み始めて、

ただ、すごく早いペースで飲むんですよ。

それで、なんとなく嫌な予感がして


お店に入ってから40分くらいですかね、お会計お願いしたんですよ。


それで伝票見たら




21万円




だったんですね。


それで、「あ、これ完全にやられたわ」って思いまして



店員呼んで


「これ高すぎると思うんですよ」


って言ったら


「いや、これは正統な値段なんで」


って返されて、さらに


「最初に説明しただろ」


って脅すような感じで言ってきたんです。



それで、僕ってみなさんがご存じように文化系の、人畜無害の、超ビビリな男じゃないですか。



だから、このときも超ビビってたんですけど、



ただ、僕って、みなさんがご存じのように





地球上にあるマニュアル本、ほぼ全部読破した男じゃないですか





当然、ボッタクリ対策マニュアルも読破済みだったんで





一度深呼吸しましてね、頭を「オートマチック・マニュアルモード」(マニュアルを自動的に実践していくモードです)に切り替えまして、




まず、その場で110番に電話しまして。



「ぼったくられてるんで来てください」



って言いまして。


警察から住所を聞かれたんで、店の人間(彼の名前はKです)に



「住所教えてください」


って言ったら



「はあ?」


みたいな感じでくるんで



「住所も教えてもらえない状況です」



って警察に泣きつきつつ、なんとかビル名だけ教えてもらって現場に警察呼んで電話を切りました。


※ちなみに「怖い人」とのトラブルに対しては「即効で110番」が正解です。相手が「警察に言うなよ。どうなっても知らねえぞ」と脅してきた場合は、熱湯を前にしたお笑い芸人が「押すな」というのと同じで「警察に電話しろ」という合図なので覚えておきましょう。



そしたらKが


「警察呼ぶより弁護士呼んだ方がいいよ」


って言ってきたんで



「もちろんそうするけど」



ってここは本当に申し訳ないんですけど、山本社長に電話しまして


「今ボッタクリにあってるんだけど、相手の対応もひどくて、絶対払わないって決めたから弁護士の人に連絡しておいてください」


って言いましてね。


それでKに


「絶対払わねーからな。弁護士にいくら払ってもこの21万は絶対払わん。適正な金額じゃねーから」


と言いました。


いや、僕は決してケンカしたいわけではなくて


マニュアルに「この客は面倒くさい」と思わせろって書いてあったんですよね。だからここは少しカマしておきました。



それで警察に来てもらって、派出所の前に場所を移しました。



ただね、Kがめっちゃ落ち着いてるんですよ。



こいつたぶん、毎日こんなことばっかりやってるんでしょうね。



それで僕は内心、「こいつかなり手ごわいな」と思いました。



やっぱり、経験者って強いんですよね。



何事も、マニュアル10冊読むより、経験者の方が遥かに強いのが現実です。



でもね、僕はこれで戦ってきましたから。



大学時代も恋愛マニュアル片手にイベントサークルの猛者たちと渡り合ってきましたから。



僕の背後には、現実の壁を前にして震えてる何百万の子羊たちがいるんですよ。



彼らのためにもね、マニュアル界のチェ・ゲバラは、ここで引くわけにはいかんのです。



それで歌舞伎町の派出所の前に行ったんですけど、



土曜日の24時の歌舞伎町の派出所前は人だらけでした。



僕たちみたいに色んな揉め事起こしてる人の集まりが8個くらいあるんですよね。



それで警察の人たちに仲介してもらって会話が始まったんですけど、



「言った言わない、飲んだ飲まない」の水掛け論になりました。


伝票見るとお店の女の子が飲んだグラスの杯数が30杯くらいになってるんですけど、


絶対そんなに飲んでないんですけど、しかもワインのグラス1杯5000円になってて


「お前ら俺に黙ってロマネコンティ飲んどったんかコラ」って感じなんですけど


それを証明する手段がないわけです。


しかもこのとき初めて知ったんですけど、



警察の人は店の人間に「この値段にしろ」とは言えないんですね。



ただ「話し合って」って言うだけなんですよ。



それで「いくらくらいだったら妥当だと思うの?」って言われて



僕は、自分にも責任があると想定して(女の子も確かにお酒をガンガン飲んだけど止めたわけではないし)自分として限界まで誠実な金額として「8万」を提示しました(これでももちろん、払い過ぎなんですけど)。


そしたらKが電卓はじいて「12万」って言ってきたんですよ。


それで「なんでいきなり9万円下げてきてんだ」と。さっきまで「正当な金額」だって押してたのにやっぱりボッタクリじゃねーかってことになりまして。


しかも、8万でも払い過ぎなんで、絶対8万は引かないってここで決めました。


でも、ここからKも引かないんで


会話は完全に平行線になりました。


それで警察の人は


「君らで話し合って」


って放置プレイになりかけたんですよ。



――それで、普通の人なら「警察だから何とかしろよ」ってキレそうになるところだと思うんですよ



ただ、僕はそうしませんでした。



「必ず警察を味方につけろ」ってマニュアルに書いてあったんです。



警察は正義の味方ではなく、自分たちと同じように働いているサラリーマンだ。一日何件も同じような事件があって、相談を受け、大変な思いをして仕事をしている。そんな警察官の立場にたち、彼らを理解し、味方につけろと。



そこで、僕は、(ここが勝負どころだな)と思って、Kとの言い合いをやめ、



警察の人3人と、Kに向かって「今から少しだけ僕の話を聞いてください」と前置きして、話始めました。




「僕は、普段、歌舞伎町で飲むことはほとんどありません。歌舞伎町で飲んだのは人生の中で3回か4回です。

ギラギラガールズも昔、知り合いに連れてきてもらって一度行ったことがあるだけのお店です。

でも、素晴らしいお店だったので、今日、新宿でアシスタントたちと飲んでて、彼らも普段頑張ってくれてるんでねぎらってあげたいなと思い、

『ギラギラガールズ行こう』ってことで歌舞伎町に来たんです。

そしたら、店の前で「ギラギラガールズの系列店で1時間休憩して」って言われてそのお店に行って、1時間弱飲んで、ボトルの何も入れてなくて、出てきた伝票が21万円なんです。これが嘘偽りのない、僕が置かれている状況です。


僕は、今、怖いです。


僕は(Kを指して)彼が怖い。彼は何度もこういう経験をして、こういう交渉をしてきています。

でも、僕は初めてなんです。

こういう事件に巻き込まれて、こういう交渉するのも初めてなんです。110番したのも初めてです。


正直言って、21万円は払えない金額ではありません。カードを使えば払えます。


でも、どうしてそれをしないのか。僕がなぜ、自分の提示した金額にこだわるのか。


僕は思うんです。


僕みたいな人間が、今日、歌舞伎町に何人もいるのではないかと。


突然、高い金額を払えって言われて、恐くなって、泣く泣く払ってる人間が何人もいるでしょう。


それで、僕が今この21万円を払ったら、こういうお店が「こいつらチョロイな」って思って、今後も僕のような状況に置かれる人間が増えていくと思うんです。


そしたらどうなりますか?


歌舞伎町怖いなぁ、歌舞伎町って嫌だなぁって人が増えていったら、ここに来る人がいなくなります。


僕のような、普通の人間が歌舞伎町に来れなくなります。


そしたら、この街はどんどんダメな方に流れていくことになります。


警察官のみなさん、聞いてください。


僕がなぜ、こんなに怖い思いをしながら、泣きそうになりながら、Kと戦っているのか。


僕は、お金が惜しくて戦っているんじゃありません。



僕は、この街を――歌舞伎町を守るために、戦っているんです




――最後の方、派出所の前で大声叫んでましたからね。



「歌舞伎町を守るために戦っているんです!」



の台詞のときは、派出所の前でいた人の集団たちがみんなこっち見てましたからね。


小さく拍手してる人もいましたからね。


キング牧師の演説「 I have a dream.」


と並んで


水野敬也の 「I protect kabuki-cho.」


は今後語り継がれていくことになると思いました。


そしてこの演説が、警察の人にブッ刺さりまして、


「(Kに)ちょっとこっち来て」


って言って、Kを少し離れた所に連れていって、説得が始まりました。


警察官の方もかなり熱の入った説得で、正直、僕はこれで8万円に落ち着くと思いました。



でも、Kは折れなかったんですよ。



戻ってきたKには余裕は消えていましたが、それでも彼は


「弁護士を呼びなよ。弁護士と話しするから」


と言いました。


それで、このとき僕は、まあKも背負ってるものがあるんだろうなと思いました。


僕や警察に言われて値段下げたら上の恐い人に怒られたりするんだろうなとも思いました。


ただ、僕も曲げられないですから。


8万円でも高すぎるのに、これ以上は絶対払わないと決めてますから。


ここで曲げると僕の方も大事なもの失いますから。



そこで山本さんに「やっぱり弁護士の人お願いします」って頼むことにしました。



それで弁護士の人が40分後に歌舞伎町の派出所に来るってことになって電話を切ったんですけど、


その瞬間の出来事でした。



これが映画やドラマだったら「いやいやそんなことあり得ないだろ。リアリティがねえわ」ってなる出来事が起きたのですが




「ちょっといいかな」



って見知らぬお兄さんが現れてこう言ったんです。




「俺が2万払うから、合計10万で手を打たない?」




僕も、アシスタントも、Kも、同時に





えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!





でした。




どおゆうことーーー!?




でした。
理由をたずねるとお兄さんが言いました。




「いや、途中から聞いてたんだけどさ、これで弁護士来るの待って、ずっとやりあってたらみんな可哀そうだと思ってさ。彼も(K)仕事があるだろうし、君たちも帰りたいでしょ。だから俺払うよ」



マジかと。

こんなことあるのかと。

それで僕としても弁護士の人にも山本さんの人にも迷惑かけたくなかったんで、Kもそれだったら10万で良いと言ったので完璧な手打ちだと思いました。

それで山本さんに電話して「こういう状況で弁護士の人大丈夫になりました」と言い(山本さん、本当にご迷惑おかけしてすみませんでした。)、Kはお兄さんから直接2万もらうと問題があると言っていたので、僕がお兄さんから2万円受け取って、自分の8万円を足して10万円をKに渡しました。

ちなみに、「お兄さんに「普段は何されてる人ですか?」と聞くと建設会社の社長だと言っていました。

お兄さんは言いました。


「君たち、田舎から来たんでしょ。歌舞伎町のこと知らないんでしょ」


僕はアシスタントたちと声をそろえて言いました。



「はい。田舎から来ました」



そして僕たちは



「こういうのってドラマでしか起きないって思ってました」


「あの、今度街でお会いしたとき『ホワイトナイトさん』って呼ばせてもらってもよろしいですか」


とアシスタントたちと散々お礼を言ってその場を去りました。


そのあとアシスタントたちと飲み直そうってことになり、




餃子の王将




に入りました。



ここなら確実にぼったくられないんでね。



それでハイボールを飲みながら餃子をつまみに、これまでの濃密な2時間と奇跡的な収束について話し合いながら盛り上がったのですが、


ふと、アシスタントがこう言ったんですよ。






「『最近楽しいことねえな』ってことで新宿に来ましたけど、めっちゃ楽しかったですね」








■ このブログ「ウケる日記」が本になりました!


ウケる日記

ウケる日記で特に人気の高かった記事(2012年1月まで)に加え、未公開日記として50ページの書き下ろし「富士急ハイランド事件」が掲載されています。富士急ハイランド事件は、僕の人生で起きた最も衝撃的と言っても過言ではない事件なのですが、書いたときのあまりの熱量で膨大な量になってしまい発表する場が見つかりませんでしたが、今回、書籍化ということで入れさせていただきました。ぜひぜひよろしくお願いします!
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