|櫻|sakura|
櫻よ
看ていたのか
じっとそこから
ずっとそこから
両親が多忙だったのと、あんなこんないろいろな事情が重なって、京都にある母方の実家で、祖母の手によって育てられた。
屋敷の庭の真ん中に大屋根のように佇む桜。 もし空に舞い上がるとしたら、周囲の家ごと、まるで島のように持ち上げていってしまうであろう大桜。
本当に隣の家を持ちあげてしまった悪戯桜。
実は由緒ある出で、京都の円山公園にある、日本で、いや世界で1番有名であろう枝垂桜の妹にあたる。
僕が生まれるちょうど一週間前に他界した偉大な祖父。 その年はまったく咲かなかったそうだ。
後にも先にもまったく咲かなかったのは、植樹してから数十年のうちで、その年だけだったという。
そして、また長い年月が流れ、相当な年下女房だった祖母も、祖父をだいぶ待たせつつ、ついに旅立っていった。
祖母は、櫻にとって、まさに「母」だった。 雨の日も雪の日も嵐のときも、毎日毎日、二人はともに生きた。
たくさんいた子供たちも、ひとり、またひとりと去りゆくなかで、小さくなってしまったカラダをさらに丸めながら、一枚一枚落ち葉を拾う。
櫻を囲む一面の立派な苔たち。 この美しい緑の舞台だからこそ、櫻が輝くのよ、と祖母はいう。
苔はデリケートだ、ホウキが使えない。 だから一枚、また一枚とキリがなく落ちてくる葉を、とにかく一枚、一枚、ひたすら丁寧に拾う。
一年でたった一週間のために、祖母はそのありったけの愛情を注ぎ続ける。
そしてまた春が訪れる…
祖母は誇らしげに、我が娘の晴れ姿を、誰といわず披露する。 その祖母の笑顔は、笑顔を越えたその顔は、まさに「幸福」そのもの・・・ その祖母が旅立った。
その年、櫻は咲かなかった。
話には聞いていた。が、それでも自分の目を疑う…視るまでは正直信じていなかった…
そっと桜に手を沿え、祖母の姿を思い出す。
ふとなにかが光った。
咲いてる!
全部ではない。きっと桜もそこまでの元気はなかったのだろう。まだ生えたてであろう小さな枝。 その先の蕾のいくつかが咲いていた。
あれからまた幾年の歳月が流れる。
次の年からは何事もなかったかのように桜は咲き続け…そして、あの夏の日を迎える。
桜が…なにより屋敷が…
そのときの僕にはどうすることもできなかった…母には絶対に観に行くな!と言われたのだが好奇心に勝てず「切り倒される瞬間」を観に行ってしまった。
いまだにそれを思いだし…とてつもない無力感におそわれる。
櫻よ、いまの僕はどうですか?
僕が「あなた」を誇れたように
「僕」はあなたが誇れるような男になれたでしょうか
あなたのように立ち
あなたのように看護ることができたなら
そして…
あなたのように咲き
あなたのように散りたい
【月額募金】あの牡蠣の人が代わりに海を護ります
ダンギズム旅稿旅籠学校すべての授業が【修学旅行】
2008-03-28
2008-02-04-08:08:08