【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~屋内外で変わらぬ線量。4万Bq/㎡超える土壌汚染 | 民の声新聞

【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~屋内外で変わらぬ線量。4万Bq/㎡超える土壌汚染

空間線量が年20mSvを下回ったことを理由に「特定避難勧奨地点」の指定を一方的に解除したのは違法だとして、福島県南相馬市の住民808人が国を相手取って起こした民事訴訟の第3回口頭弁論が28日午後、東京地裁で開かれた。準備書面を原告自身が説明をするという〝奇策〟で事実上の意見陳述を行った原告側は、屋内外で空間線量に差が無いこと、広範囲の汚染が今も続いていることを主張した。第4回口頭弁論は6月6日。



【「国の遮蔽係数は不当に低い」】

 「国が用いている遮蔽係数が不当に低いことについてお話しします」

 原告の1人、平田安子さんが法廷で語り始めた。裁判長はじっと平田さんを見つめながら聞いていた。実は、本訴訟では原告自身の意見陳述は裁判所に拒否されている。そこで、福田健治弁護士ら弁護団が利用したのが「準備書面を原告が説明する」という手法だった。これなら裁判所側も「準備書面の範囲内なら」と認めざるを得なかった。進行協議の場では「今後も構いません」と裁判所は言ったという。事実上の〝意見陳述〟だった。「原告の生の声が法廷に響くのは大切。作戦を変えようと考えました」(福田弁護士)。

 平田さんの自宅は、屋外の平均空間線量が0.19μSv/h。それに対し、屋内の平均空間線量は0.18μSv/hだった。つまり、屋内外でほとんど差が無いというわけだ。「窓やサッシ戸を開ければ、空気中に漂っている目に見えない放射性微粒子がチリやほこりと一緒に家の中に入ってきます。洗濯物や布団を屋外に干せば、放射性微粒子が付着して家の中に持ち込まれます。家の中の除染が行われたことはありません。原発事故からこれまでの時間の経過を考えれば、屋内外で空間線量が変わらないのは当然のことです」(平田さん)。

 原告に名を連ねている120世帯について、ボランティアグループ「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」が屋内と平均空間線量と玄関先と庭の平均空間線量を測定。遮蔽係数を計算すると0.81になったという。国の遮蔽係数は0.4だから、国は実際の汚染の半分しか考慮していないことになる。

 法廷では、平田さんの自宅のある南相馬市原町区片倉地区の空間線量を示したメッシュ地図も掲示された。住宅地図を南北100メートル、東西に75メートルに区切って空間線量を測定したが、同地区は、0.6μSv/hを超える地点が過半数に達した。国は一方的に特定避難勧奨地点の指定を解除したが、実際には今も広く面的に汚染されているのだ。平田さんは、裁判官にこう言って頭を下げた。

 「国の遮蔽係数が不当に低いこと、私たちの地域の空間線量が高いことを十分にご理解いただきたい」
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午前6時に南相馬市を出発して裁判所に駆け付け

た原告の中には「虫蛙鳥猿消えたこの里に住めと

言うの?総理大臣」と掲げた人もいた=東京地裁


【4万Bq/㎡以下は2世帯のみ】

 平田さんは、自ら「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」の測定に参加した。「本当のことを知るには自分で動くしかありません」。自宅の測定を心配そうに見つめていた老夫婦の姿が、今も忘れられないという。

 原発事故さえなければ、どこにでもあるような楽しい生活が送れていたはずだった。だが、子や孫は遠くに避難し、寂しさが募る。「子どもや孫が戻って来ても大丈夫かなあ?」。しかし、測定を始めると、老夫婦の期待を裏切るような数値が出た。2階の部屋は、0.28μSv/hに達した。畳表面の汚染は、1平方メートルあたり1万ベクレルもあった。「どうでした?」の不安そうに尋ねる老夫婦に、平田さんは測定結果を伝えることが出来なかった。「後日、書面で送りますね」と言うのが精一杯だった。心が痛んだ。決して他人事ではない。自身は茨城県つくば市に避難中。2人の娘は夫婦で新潟県などに避難している。平田さんもまた、放射性物質に家族を引き裂かれた1人だった。
 原町区押釜行政区で暮らす男性は、自宅が1平方メートルあたり10万~20万ベクレルに達するが「これでも低い方だ」と語った。「南相馬の土壌汚染は、酷い地点で1平方メートルあたり1億ベクレルにもなるんだよ。測定した原告206世帯のうち、放射線管理区域となる1平方メートルあたり4万ベクレルを下回ったのはたったの2世帯だけ。空間線量だけでは汚染を判断できないんだ」。

 高齢の母親を介護するため、原発事故から半年間は避難せず地元に残った男性は「因果関係は分からないけど、これまで病院になんかかからなかったのに白内障や糖尿病になった」と体調不良を訴えた。別の女性は、娘が3人を出産することになったが「里帰り出産が叶わない」と嘆いた。「年20mSvでは安心して住めない基準。負けられない裁判なんです」と力を込めて話した。

 国は「年20mSv以下は安全だ」と帰還を促すが、被曝への不安から若い世代ほど戻らない。「孫がいるが戻れる状態にない」、「若い人が戻らないから将来が暗い」と原告らは語る。菅野秀一原告団長も「年寄りばかりの限界集落になってしまったが、勉強すればするほど、とても戻って来られる状況ではない」とジレンマを口にした。
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(上)南相馬市原町区片倉地区は、空間線量は

依然として1.0μSv/hを上回る。「ふくいち周辺環境

放射線モニタリングプロジェクト」が測定した

(下)平田安子さんの自宅は、屋内と屋外で空間

線量に差が無かった。「屋内の方が被曝が低い

とは言えない」と法廷で訴えた=参議院会館


【「なぜ福島だけ年20mSv?」】

 原告らはこの日も、用意したバスで午前6時に南相馬市を出発。開廷前には、経産省前で「きれいな土を返せ」、「きれいな山を返せ」と訴えた。ある原告は「原発労働者は年5mSvで労災認定されるのに、なぜ福島県民だけは年20mSvで特定避難勧奨地点の指定が解除されるのか納得できない」とマイクを握った。多くの人が、横断幕に目をやることもなく、足早に通り過ぎて行った。あと何回、訴えれば霞が関の住人には伝わるのだろうか。
 閉廷後、参議院会館で開かれた報告集会で、原告でもあり「ふくいち~」のメンバーでもある小澤洋一さんは「除染作業員は年5mSv以上浴びてはいけないのに、私たちに関しては20mSv以下で大丈夫だと国は言っている。おばあさんが畑仕事をしている隣で、完全防護をしている作業員がいるなんておかしい」と国の方針を批判した。

 最近は、海外メディアの取材を受けることも多くなってきた。「こんな汚れた国でオリンピックなどやってはいけない」と話しているという。
 経産省前で抗議の声をあげる原告の背中に、こんな言葉が書かれていた。

 「虫(ホタル、コオロギ、トンボ)、蛙、鳥(スズメ、カラス)、猿消えたこの里に、住めると言うの?総理大臣」

 民を切り捨ててでも東京五輪で「原発事故の収束」をアピールしたい安倍晋三首相に、南相馬市民の問いかけが理解できるだろうか?

(了)