米国、「大統領選」トランプ氏の異常性格に不安「撤退も話題」 | 勝又壽良の経済時評

米国、「大統領選」トランプ氏の異常性格に不安「撤退も話題」

エコノミック・ショート・ショート

11月の米大統領選を前に、共和党候補トランプ氏は「性格異常」でないかとの不安が持ち上がっている。こうなると、大統領として「核ボタン」を押すかも知れない最高権力者に不適格である。事態は、ここまで深刻に受け止められている。この見方は、特定のメディアだけに登場しているのでなく、複数のメディアで危惧されるに至った。

トランプ氏が予備選で見せた他候補への批判や政策を巡る主張において、異常な攻撃や主張を展開している。そのたびに、米共和党の良識派は一斉に眉をひそめ、トランプ氏から遠ざかる姿勢を見せた。だが、共和党候補に決定して以来、「眉をひそめる」どころか、米国の運命を誤らせる。そういう疑念が深まってきた。最近では、共和党員の2割が「撤退」を希望する、という世論調査まで現れている(『ロイター』8月10日付)。

問題は、彼の性格がわずかなことにも過剰な反応を見せ、常軌を逸した反応が見られることだ。このままでは、支持率は悪化したままで、トランプ氏自身がやる気をなくして「候補辞退」の挙に出なくもない。共和党内では、「代替候補者問題」まで秘かに話し合われる始末だ。もはや、「トランプ後」が共和党の話題になるっている。

「トランプ大統領」の場合、日本への影響がいろいろと取り上げられている。TPP(環太平洋経済連携協定)、日米安保体制などに悪影響を及ぼすという懸念だ。ただ、現在の米国内の風向きでは、「トランプ大統領」は幻に終わろう。こういう書き方をすると、すぐに反論が来る。「甘い見方だ」と。いかなる批判も甘受するが、結論は11月10日に出る。

『ロイター』(8月3日付)は、次のようにコラム「なぜ共和党は、いまだにトランプ氏の下で結束できないか」を掲載した。

(1)「米大統領候補の党指名を受けたドナルド・トランプ氏が、共和党の分裂を招く日々は終わっていない。党指名を獲得して以来、トランプ氏は支持を固めるどころか、敏感な共和党員を自らの支援者リストから追い出すべく全力を尽くしている。これは、同氏が8月2日、ライアン下院議長(ウィスコンシン州選出)とマケイン上院議員(アリゾナ州選出)の再選支持を拒否したことによって、極めて明らかだ(トランプ氏は、マケイン氏をベトナム戦争での捕虜だったと酷評している)。同日の選挙運動中に、泣いている赤ん坊を集会から追い出したことは言うまでもない」。

トランプ氏が、過剰な感情家であることは疑いない。共和党幹部のライアン下院議長とマケイン上院議員の再選支持を拒否したからだ。この二氏は、予備選中にトランプ氏支持を渋った経緯がある。それを「遺恨」にして共和党有力者に恥をかかせた。自身が大統領候補であることを忘れた振る舞いである。確実に、共和党本流の支持を減らす行為である。その後、トランプ氏は「逆風」を察知して、支持を表明したが後味はすこぶる悪いのだ。

トランプ氏の選挙手法は、彼独自のビジネス手法を反映している。

「彼がほぼ30年前に出版したベストセラーの自著『アート・オブ・ザ・ディール』(邦題『トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ』)だ。このビジネス書は、彼の型破りな大統領選戦略について多くの要素を説明できる。同書に書かれている11の教えでは、取引に当たっては例えば『センセーショナル』になるなど、自分の立場を『知らしめる』ようアドバイスし、重要な戦略として『やり返す』ことや、『水に落ちた犬は打つ』ことを挙げる。さらに、交渉に勝つには『大きな視野を持つ』必要があると説く」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』3月3日付)。

この記事のように、取引相手に「高飛車」に出ることが、選挙でも有利と信じていることだ。選挙にこの手法が使えるはずがない。不特定多数の有権者を相手にして、「やり返す」とか、「自分の立場を知らしめる」という、上から目線では有権者が逃げ出す。すでに、この現象が起こっている。彼は、とんだ見当違いのことを始めている。選挙の「イロハ」を知らない、ただの「傲慢男」と見なされている。

(2)「8月2日の記者会見でトランプ氏の指名を外すよう共和党に勧めたオバマ大統領は、明らかに同党が抱える後悔の念を見越していた。大統領はそれを実現するための妥当な方法がないことを知っているに違いない。だが同時に、自分の提案によって共和党員が反射的にトランプ氏を擁護することはない、と大統領は恐らく正確に予想していた。他のことであれば、共和党は大統領の言葉や行動すべてに対し、反対もしくはそれ以上の反応を即座に返してきたのにもかかわらず、だ。しかし、ドナルドの旗印のもとにそのような結集は起きなかったではないかとの疑念を、共和党員にこれまで吹き込んできたのはトランプ氏だ。共和党内ではむしろ『指名候補とともに、われわれは何をするのか』という議論が勢いを増している」。

オバマ大統領は、トランプ氏が大統領候補に値しないと酷評している。これは、トランプ氏が「まともな人物」であれば即刻、共和党支持者から大変な反論が寄せられ、逆に共和党を結束させる危険な手法である。だが、共和党支持者から反論が出ないであろうと予測させるほど、共和党内は深刻な分裂状態に陥っている。

共和党内ではむしろ、「指名候補とともに、われわれは何をするのか」という議論が勢いを増している。そして、トランプ氏が自ら立候補を辞退するリスクも計算に入れ始めている。「当選見込みのない」大統領選に、彼が資金と時間をつぎ込むとは思えない。その場合、共和党は代替候補の選出について、手続きを踏まなければならない。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月5日付)で、これに関する解説記事が載せるほど早手回しに動いている。本選を前に、こういう記事が掲載されること自体、異常な話しなのだ。トランプ氏は、本質的に大統領候補になるべき人間でないことを証明した。

(3)「正統的な保守派論客として米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニスト、ブレット・スティーブンス氏が提起した問題がある。大統領としてはもちろんのこと、トランプ氏の執務適格性をめぐる問題の脇で、イデオロギーの問題は色あせてくる、とスティーブンス氏は述べている。この選挙の中心的な争点は、『トランプ氏の考え方ではない』と同氏は8月2日付のWSJ紙で指摘した。『争点は、彼の性格だ。彼の問題は、一般的な礼儀正しさの欠如ではなく、基本的な人間の品性がないことだ。上級や下級、どんな職であろうと、彼は道徳的に適していない』。こうした道徳的異常さは、イラクで戦死したフマユン・カーン陸軍大尉の両親に対するトランプ氏の攻撃によって極めて明白となっている。自身の衝動を全く制御できないという、トランプ氏のさらなる異常さによって、多くの共和党員は眠れない夜を過ごしている」。

大統領選挙の争点は普通、政策である。今回は、トランプ氏の性格をめぐる的確性の議論である。「彼の問題は、一般的な礼儀正しさの欠如ではなく、基本的な人間の品性がないことだ。上級や下級、どんな職であろうと、彼は道徳的に適していない」とまで、スティーブンス氏からこき下ろされている。具体的には、イラクで戦死したフマユン・カーン陸軍大尉の両親に対するトランプ氏の攻撃の非常識さである。

米国では戦死者に対して深い尊敬の念を示すことが常識となっている。トランプ氏は、この米国における「普遍価値」を踏みにじってみせた。前記のマケイン上院議員がベトナム戦争で捕虜になったことを非難もしているのだ。トランプ氏には、軍人への畏敬の念がないことを証明した。彼は、6回の徴兵検査をすべて「逃避」した人物だ。足のかかとが「痛い」とかいう理由をつけて回避した。このトランプ氏が、大統領として米軍の最高指揮官にふさわしいかどうか。議論するまでもなく「不適格」の烙印を押される。トランプ氏は、自身の抱える根本的な弱点に気づかず、売名行為で共和党候補に駆け上がったにすぎない。

『ブルームバーグ』(8月5日付)は、「米大統領選 共和党幹部 トランプ氏撤退も視野 代わりの候補選出など真剣に検討」と題して、次のように伝えた。

(4)「ABCニュースのジョナサン・カール記者は、番組『グッド・モーニング・アメリカ』で、『共和党の複数の幹部はドナルド・トランプ氏が大統領戦から手を引いた場合はどうなるのか、またどう代わりの候補を見つけるかについて真剣に検討を進めているとの話がある』と述べた。カール記者によると、共和党全国委員会(RNC)は強制的に候補者を撤退させることはできず、トランプ氏自らが手を引く必要があるという」。

トランプ氏が大統領選から手を引き可能性を取り上げている。彼が「利に賢い」性格から見て、負け戦をいつまでも続けるはずがないという前提である。ともかく、自己の「所得申告書」を公開しない秘密性が、選挙で有権者から受け入れられるはずがない。彼は財布の中身を見せることに抵抗している。一説では、口でいうほどの高所得者でないと指摘されている。ウソがばれることを恐れているというのだ。

(5)「トランプ氏が大統領選から手を引いた場合は、168人の共和党全国委員会メンバーが新たな候補を選出する必要があり、その場合、選出は9月初めまでに行う必要があると付け加えた。また、カール記者は、『現在、トランプ氏の言動は極めて予測不可能で、共和党幹部らは理解できない同氏のメッセージを全く制御できないことから、撤退も可能性としてはあると明らかに考えている。こうした規定について彼らが調べているのはそのためだ』とし、RNCのプリーバス委員長は『憤慨』しており、トランプ氏との会談で大幅な戦略変更が必要だと伝えたという」。

トランプ氏が、大統領選を継続するかどうかは8月がヤマ場と見られる。9月初めに代替候補を出さないと本選に間に合わないのだ。いずれにしても、代替候補が出ても共和党は「大敗」必至である。その場合、共和党の上下両院議員選挙に大きな影響が出るのは不可避だ。クリントン氏が勝てば、TPPも一部手直しがあったとしても、法案成立の可能性が高まるであろう。

【訂正】8月7日ブログで、「日中友好協会の理事長職の男性」を「日中友好関連の団体役員」に訂正します。

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(2016年8月13日)
日本経済入門の入門