菱屋時代のこと

テーマ:

 

 

私がこの世界に入る時に修行先に選んだのは、当時業界最大手で業界外でもかなり有名だった「菱屋」というネクタイ専門問屋でした。

 

残念なことに20年ほど前に会社が無くなってしまい、今ネクタイ業界で働く若い方の中でもその存在を知る人間も少なくなっているのが現実です。

それもそのはず、当時の同僚や上司、業界内の知人で今もネクタイを生業としている人間は片手で数えられるわけですから・・。

 

その中の一人がTUNE INTERNATIONALの小松社長です。

 

http://www.tune-cravatte.co.jp/

 

先輩の営業のお手伝いで、渋谷のスクランブル交差点にあったショップへ行った時、初めてお会いしたわけですが・・・。

当時はF社の営業マンで、当然競合する同業他社の一人でしたが、その時の事は何故かよく覚えています。

先輩に「あれは何処っすか?」とコッソリ尋ねると、滑舌の悪い先輩が「こっ、コマっちゃんだよ」と・・・。「あっ、ファックス・・・、フェアファクス」

 

別にF社なんて書く必要がないじゃないですか・・!?(苦笑)

(余談ですが、フェアファクスさんの創業者である慶伊社長さんも菱屋の偉大なるOBです。

あのラルフローレンを最初に日本に紹介したのは菱屋であり、慶伊社長の功績です。)

 

その頃の専門店を廻るネクタイ問屋は常に300本ほどの現物を持ち歩いて店頭でネクタイを拡げて営業をしていました。

ネクタイが上手く売れない時でも、他のアイテムを惜しみなく買ってしまうような連中が沢山居て、楽しい毎日であったことが懐かしく思えます。

 

その時には、小松さんにこんなにお世話になると思いませんでしたし、人と人の繋がりは不思議なものだと思うばかりです。

菱屋を辞め家業を継いでから何年かした後、当時担当していたあるショップで小松さんの手掛けたネクタイを見て、再びお会いすることになりお付き合いさせていただいております。

 

大して商品的に役に立っているわけでもなく、逆に色々な励ましやアドバイスをいただいて、そんな意味でも「お世話になっている」と心底思う次第です。

ネクタイに対しても奇をてらうことなく真っすぐに向き合い、堅実なモノヅクリをしていらっしゃるところは見習いたいと常々思っています。

私がそんな小松さんに出来ることと言えば、一緒にゴルフへ行った際に、「ファぁ~~~」と大きな声を出したり、一緒に林に入ってボールを探すくらいの事しかありません。

 

互いに歳を重ね、「いいおっさん」になってしまったけど、当時の事、つまり「初心」を忘れることなくいられる存在として、いつも感謝しています。

出来る事なら商売の事を考えることなく、格好いい服やネクタイを一緒に観ながら「あれ欲しい、これ欲しい」と当時のノリで楽しめたらと思います。

オシャレを楽しむ仕事である以上、それが基であると思いますし、当時は重い荷物をもって営業に行くことも楽しくて仕方ありませんでした。

 

 

さて、冒頭の写真。

サンプルに作った手結びの蝶ネクタイです。

菱屋の展示会には必ず手結びの蝶タイでお客様をお迎えしていました。

どのお客様をどう案内して、どう商品を説明・・・・なんてことは二の次で、何を着てどう合わせて、格好良く臨むかを真剣に考えるばかりでした。

 

 

 

先述した先輩はそれこそ、インディジョーンズのショーンコネリーみたいなクラシカルな装いで現れていました。

その時の気持ちは今でも忘れていませんし、その楽しみを忘れる時は、この仕事を辞める時だと思っています。

 

 

さの