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珠城りょう貫禄十分、プレお披露目公演「アーサー王伝説」大阪公演開幕

 

月組の新トップスター、珠城りょうのプレお披露目公演、ミュージカル「アーサー王伝説」(石田昌也潤色、演出)が東京公演を終えて28日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで大阪公演が開幕した。今回は、この公演の模様をお伝えしよう。

 

岩に突き刺さった聖剣を引き抜いた少年がアーサー王となり、グィネビアと結婚するも、グィネビアは美貌の剣士ランスロットを愛してしまう。悲劇の英雄譚は、欧米では聖書の次に読まれているというほどの有名な物語。ディズニーの「美女と野獣」でベルが野獣に読み聞かせていたのもこれ。「円卓の騎士」や「キャメロット」など映画、舞台でも何度も取り上げられているが宝塚では宙組誕生の初公演「エクスカリバー」として上演、最近も真風涼帆主演で「ランスロット」が上演されている。

 

今回の舞台は「太陽王」や「1789」などを生み出したドーヴ・アチア作、演出によるフランスのプロダクションの新作。タイトル通りアーサー王伝説をもとに魔術師マーロンとモーガンの戦いを絡ませて自由に脚色したミュージカルだ。少年時代のアーサーから始まって、グィネビアとランスロットが去った後の王国で、王として気高く君臨するまでをフレンチミュージカルらしいロック調の音楽とパントマイムを多用した振付を駆使して描き、新王誕生と新トップ披露を重ね合わせた作品に仕上げている。しかし、ランスロットと発狂したグィネビアを国外追放して王として君臨するというのはあまり後味のいい話ではなく、おめでたいトップ披露というにはあまりふさわしくないような気もした。ただ宝塚は、物語が終ってから華やかなフィナーレがあり、すべてを吹き飛ばしてしまうのであまり気にしなくていいのかも。

 

珠城は、エクスカリバーを手に舞台中央に登場するオープニングから、貫録は十分。トップとしての存在感の確かさを証明した。上背もあり、立ち姿もきりっとして申し分なく、演技も堂々としていて安定感抜群。天海祐希以来のスピード出世というにふさわしい実力を如何なく発揮した。あまり完璧すぎて面白みがなく、逆にハラハラするような危なっかしさがほしいくらいだ。ただ、物語が物語だけにややもすると芝居が単調になるきらいがあり、緩急をつけるとか何らかの工夫がほしい。演技の振り幅が広くなるとさらに魅力がますこと請け合いだ。

 

グィネビアの愛希れいかは、金髪の巻き毛にわっかのドレスといった中世のプリンセスがよく似合い、魔術に翻弄されてのこととはいうものの、夫を敬愛しながらもランスロットに心を奪われる心情を巧みに表現した。珠城とのコンビも「激情」の時はいかにも姉さん女房という雰囲気だったが、今回はやさしく寄り添うシルエットがいい感じで、少しずつしっくりしてきた。

 

ランスロットは朝美絢。一幕後半からの出番で、野心に満ちた美貌の剣士というより、まだ少年っぽさの抜けきらない若い青年といった風情で登場。珠城に比べればずいぶん小柄に見えたがグィネビアが一目ぼれするだけのみずみずしい存在感をキープ、珠城とは対照的な個性でもあり、役のイメージキャストとしては大成功だった。こうして月組で新トップ、珠城のサポート要員としてうまく始動したばかりなのに、先日、雪組への組替えが発表された。演じるほうとしては複雑だろうが、新天地でもさらなる活躍を期待したい。

 

ほかに特筆したいのは魔女モーガンを演じた美弥るりかと魔術師マーリンを演じた千海華蘭。実はこの舞台、この二人の力がなければ、味もそっけもないものになっていた可能性大。それだけ出番も多く、すべてをリードした。千海は、独特の歌唱とダンスの実力が印象的な貴重な存在だが、今回は端正な風貌を白髪とヒゲで封印、舞台の進行役ともいえる老けの大役。ほぼでずっぱりで台詞も珠城より多いのではないかと思うほどで、これまで一番の役どころを熱演した。気になっていた声質の高さもうまく役にあっていた。フィナーレでは、金髪にタキシードで踊っていたが、まさか同一人物とはだれも思うまい。一方、マーリンと敵対する魔女モーガンを演じた美弥は、このメンバーのなかではその存在感と巧さは群を抜いており、この舞台のすべてを美弥が動かしているように見えた。アニメのキャラクターを思わせる凄みのあるメークと衣装で、これだけの豊かな表現力を見せつけられると降参するしかない。余裕しゃくしゃく楽しげに演じているのも好感が持てた。

 

円卓の騎士メンバーも含めて印象的な脇役が多く、書ききれないが、まずはアーサーの仇敵メリアグランス役の輝月ゆうまの凄み、相変わらずのうまさで目を引いた。パントマイムの妙技で会場を沸かせたアーサーの兄、佳城葵も、芝居心のある演技で印象に残った。娘役では少女の姿をした神アリアンロッドというそれこそアニメキャラクターのような紫乃小雪、モーガンの手下の小悪魔姉妹に扮した早乙女わかばと海乃美月ぐらいが目立つ役。レイア役の早乙女の美貌が際だったが、これまでの活躍を思うとこれではやはり何か物足りなかった。あと少年時代のアーサー、ケイ、メリアグランスを夏風季々、陽海ありさ、妃純凛といった娘役下級生たちが演じ、初々しかった。

 

フィナーレは愛希、早乙女、海乃の3人によるナンバーから始まって、かっこいい男役に戻った美弥を中心にしたガールズたちの群舞、続いて珠城が男役陣を引き連れてダンス、最後は珠城と愛希のデュエットで締めくくった。

 

©宝塚歌劇支局プラス10月29日記 薮下哲司

 

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