アメリカのトランプ大統領が出した7カ国の人のアメリカへの入国を認めない大統領令については,アメリカ連邦地方裁判所と高等裁判所により差し止めが認められたことを,先日このブログでも御紹介しました。

 

 

 

その後の報道によりますと,政府側は最高裁判所への上訴を行わない方針を決めた,ということです。このまま高等裁判所の判断が確定することになります。

 

 

 

この一連の裁判は,強大な権限を有するアメリカ大統領の出した命令を,アメリカ連邦地方裁判所の1人の裁判官が差し止めたところから始まりました。トランプ大統領は,ツイッターなどでこの裁判について不満を述べていたということですが,最終的には裁判所の判断を尊重して従ったわけです。これが「法の支配」です。

 

 

 

皆さんは,そのような差し止めを行った連邦地方裁判所の1人の裁判官とは一体どのような人だろう,と思われませんでしょうか。実は共同通信が配信した記事でその裁判官の人柄が紹介されていましたので,御紹介したいと思います(四国新聞2017年2月7日付掲載の記事より)。

 

 

 

「米西部ワシントン州シアトルの連邦地裁でイスラム圏7カ国からの入国を禁じる大統領令の一時差し止めを命じ,一躍『時の人』となったジェームズ・ロバート判事(69)は,難民や障害のある子ども,黒人や社会的弱者に寄り添う人権派として知られている。

 

 

 

米メディアによると,同州シアトル生まれのロバート氏は30年以上法律事務所で勤務後,当時の共和党ブッシュ大統領(子)の指名で,2004年に連邦地裁判事に就任。本人も共和党を支持していたという。かつての同僚は『とても慎重な判事。法の解釈は保守的だったが思い切った適用をした』と話す。

 

 

 

ロバート氏はシアトルで精神障害のある子どもらのケアをする施設の代表も過去に務めており,妻と共に6人の子どもを養子に迎えている。東南アジアからの難民の弁護も長年無料で引き受けていた。

 

 

警察の黒人に対する行き過ぎた実力行使が全米で問題視されていた16年,法廷で,人口に占める黒人の割合が約20%なのに警察の発表で命を落とした人の41%は黒人だと指摘。黒人の人権尊重を求める合言葉『ブラック・ライブズ・マター(黒人の命だって大切だ)』を述べ,話題になったこともあった。

 

 

 

上院から連邦判事の承認を受けた際は『差し迫った必要性や問題を抱えた人を助けられることが,法の執行の最もやりがいのあるところだ』と述べ,『法廷を後にした人に,公正な裁きを受け,自身も法体系の一員として扱われたと思ってもらえるような仕事をしたい』と抱負を語っていた。」

 

 

 

私はこの記事を拝見して,今回の大統領令を差し止める法解釈を行った際の裁判官の心の中がうかがえたような気がしています。皆さんもそうではないでしょうか。

 

 

 

法そのものは紙に書かれた活字にすぎず,私達はその活字に自分の価値観に基づく意味を与えていくのです。それが法の解釈であります。

 

 

 

ロバート裁判官の解釈は,法の動きを支える存在である正義・公平・平等の感覚が込められたものであり,だからこそ高等裁判所の裁判官もその解釈を支持し,最終的にはトランプ大統領も上訴を行わなかったように感じています。その感覚は,全ての人が心の中に共通して有しているものだと思うからです。ロバート裁判官に敬意を表し,その人権感覚を学びたいと思っています。