かつて中曽根首相は「 米国は複合民族なので、教育など手の届かないところもある。日本は単一民族だから手が届きやすい」との発言を残した。単一民族で万世一系という戦前の発想がその源にあるのだろう。

 この単一民族説は虚構でしかない。DNA解析で明らかになったのは、いまの日本人と呼ばれる集団のルーツは大陸の広い地域に分散し、さまざまな時代にさまざまな経路で日本列島に到達して混血していったという事実である。ハプログループから見ると、3人に1人は東アジアから、7人に1人が中国南部から環太平洋に広がったグループ、14人に1人が列島と朝鮮半島に元からいるグループ、同じく14人に1人の中央アジアから北アジアに分布するマンモスハンターと呼ばれるグループ、同じく14人に1人はオホーツク海方面から、19人に1人は東南アジアから、30人に1人ほどは北方漢民族系、といった具合である。ヘイト集団の人びとも、ぜひDNA分析を受けてほしいものだ。

 古人骨のDNA分析でも裏付けられるが、日本列島はずっと多様な移民社会だった。単一民族は虚構でしかない。輪島などの古文書で明らかなように、海を通じて人やモノの行き来も活発だった。島国にずっと閉じこもって、農作業ばかりに励んでいた訳ではない。ちなみに江戸時代の鎖国も嘘で、実際には長崎、対馬、薩摩、松前を通じてそこそこに貿易も行われていた。鎖国と呼んでいるのは明治維新以降で、いまの教科書には鎖国という言葉はなくなっている。

 多様性を許容して、外に開かれた社会。ここ百年あまりはともかく、もともと日本列島はそうした場所だった。東アジアとは交易でともに栄えて、平和もほぼ保たれてきた。この歴史的事実を思えば、いまの日本列島でも出来ないとは思われないのだが。