森友学園問題とは何だったのか? ――フェイクと物語―― | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

 いよいよ明日23日に迫った森友学園の籠池泰典理事長の証人喚問。
 果たして数々の疑惑のある「森友学園問題」で中心にいる籠池氏が何を語るのか世間の関心は極めて高い。

 

 NHKではこうした世間の反応を踏まえてか、総合テレビで午前は参議院予算委員会での証人喚問を、午後は衆議院予算委員会での喚問の様子をそれぞれ中継することをすでに決定している。まさに森友学園尽くしの一日になりそうだ。

 

NHK 籠池氏優先し総合で放送 センバツはEテレ、大相撲はBSでスタート
https://www.daily.co.jp/gossip/2017/03/22/0010023755.shtml

 

 しかし、こうした世間の盛り上がりに反して、森友学園をめぐる問題では依然として非常に争点がわかり難い。

 

 そもそもこの問題は当初公示価格で9億円ほどと試算されていた同学園が小学校を建設中の公有地が、およそ8億円もの割引をされた価格で売却されていたことが判明したのが問題の発端だった。
 つまり、本来最大の争点は

 

 「この8億円あまりの値引きが適正に判断されていたのか」

 

 ということにあったわけである。


 公有地を管理する立場の財務省はこの価格設定は「適切であった」と主張しているが、これには確かに疑問があることは間違いない。


 だが、一方で財務省の設定した売却価格が不当であったのかをめぐっては、森友学園の敷地内に埋められていると見られるゴミ処理の費用には、最大でおよそ10億円あまりかかるという試算が近畿財務局、大阪航空局の担当者、学園側の施工業者が集まった会合で示されていたことも当時のメモなどから判明しているため、これが事実であるとすれば逆に国は公示価格よりも高いゴミの撤去費用がかかる可能性のある土地を1億円で売り抜けたということになる。

 

森友学園:ごみ撤去費10億円超想定か? 学校用地、算定の半年前
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/86843 

 

 いずれにせよこの疑惑については証人喚問の中で真相が明らかになることはまずないだろう。


 そもそも最初から財務省側が価格設定をしていたのであれば、籠池氏が真相を知っているわけがないからである。

 そこで、これを踏まえた上で、明日の国会でどのような質疑がなされるかを予想するとまずは「この値引きが不当であった」という前提に一応は立つ必要がある。


 そうなるとこの「不当な」値引きをめぐって森友学園から有力な政治家や、あるいは中央省庁に対して何らかの働きかけがあったのではないか、ということが争点になるのはまず間違いないだろう。


 この森友学園の問題が発覚した当時、まずその疑惑の渦中に置かれたのは安倍晋三総理大臣であった。


 これは森友学園が建設中の「瑞穂の国記念小学院」の名誉校長に安倍総理の昭惠夫人が就任することが決定しており、校舎建設のための寄付金集めでは「安倍晋三記念小学校」という名前が使用されていたためである。

 

 このため野党側は夫人と繋がりのある小学校のために、安倍総理本人が財務省に対して何らかの働きかけを行っていたのではないかと疑いをかけたわけである。


 だが、これは次第に情報が出るに連れて、そもそも安倍総理本人が籠池理事長と接触していないことや、籠池氏本人も安倍総理にそうした働きかけをしたことはないと証言したことで、ほぼ疑いは晴れた。

 

 こうなると次に疑惑が向けられたのが安倍総理に近い閣僚である。

 

 とくに疑われたのが安倍総理と思想信条が近いとされ、過去に森友学園の弁護を担当していたことが判明した稲田朋美防衛大臣であった。

 

 稲田氏は当初、籠池氏とは関係がないことを答弁で強調していたが、後に13年前の裁判所の出廷記録で森友学園の顧問弁護士を勤めていた夫の代理として森友学園原告代理人として出廷していたことが判明し、発言を訂正して謝罪する事態となっている。


 これにより野党は一斉に「虚偽答弁」として、稲田氏を批判したが、しかしこれも本題である森友学園の土地取得に対する有力な根拠とはならなかった。

 これまでのところ稲田氏と籠池氏は確かに稲田氏が答弁ししているように近年あまり接触があったとは見られないからである。
 このため稲田氏がわざわざ森友学園のために財務省に口利きをしたという可能性はほぼ考えられない状態にある。

 

 つまり、現段階ではまったくのこの口利きの有無についてはわかっていないのだ。
 あるいは今回の証人喚問で籠池氏の口から誰か大物政治家の名前が出れば・・・という期待はマスコミ、野党ともにあるだろうが。その場合にも籠池氏の証言だけからその繋がりを立証することは相当に困難だろう。

 

 このように見ると、実は森友学園に関する問題は、あくまでも「疑惑」であり国政の範囲ではほぼ決着がついている状態にあるといえる。


 それにも関わらず野党が「安倍政権と森友学園との間には強いつながりがあるのではないか」という疑惑を設定してしまったことが、この問題をより複雑にしているのは間違いない。

 

 おそらく野党としてもすでに直接この問題をめぐって個別の政治家(とくに安倍総理)に対して「関与」の責任を問うことは難しいと考えているはずだ。
 だが、それではせっかく世間がこれだけの関心を持っている今、この疑惑を簡単に処理してしまうのは惜しいという思いもあるのだろう。稲田氏のように「脇の甘い答弁」を引き出すことができれば、それだけでも政権にダメージを与えられると踏んでいるからである。

 

 こうしたマスコミと野党の思惑が今国会を「森友学園国会」にしてしまったのは間違いない。

 ところが、そこからある弊害が生まれているのも確かである。


 その弊害とは、いうばれば「情報の週刊誌化」とでもいうべき現象である。

 

 もともとインターネットには、情報の信頼性よりも、スピードが要求されるところがあり、これは東日本大震災などの際にもいくつも不正確な情報が出回ったことでも問題となった。

 

 しかし、今回の森友学園問題ではこうした情報の拡散に、テレビなどの大メディアも進んで巻き込まれているという印象がどうにも強い。

 

 まず、ここまでのことを振り返ってみると、そもそもこの件では公になっている情報がほとんどないのである。

 

 財務省はもっぱらこの件に関しては「適切」であったと繰り返しており、森友学園の小学校開設を認可した大阪府にしてもこの認可決定は不適当であったという可能性については言及しつつも、なぜ認可したのかについては口を濁している。

 

 つまり疑惑だけが存在し、全体の繋がりが見えないわけである。

 

 こうなると必然的に注目を集めるのは、問題の当事者である籠池理事長となった。

 

 ところがこの数週間を見ると、籠池氏の口からもたらされる情報や、その行動にはいずれも不可解な点が多い。

 

 籠池氏はまず今月10日の会見の中で、安倍総理や昭惠夫人に対して何らの働きかけを行っていたことを述べたが、それからわずか6日後の16日には現地視察に訪れた議員団の前で、建設中の小学校に対して、安倍総理からの寄付があったことを明言し、あたかも安倍総理や昭惠夫人が学校の認可、土地の取得に何らかの関与をしたのではないかとにおわせる爆弾発言を行っている。

 

森友学園・籠池理事長「火に油会見」の墓穴
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/661506/

籠池爆弾とんだオチ!?寄付疑惑は“KYアッキー劇場”で終了か
http://www.excite.co.jp/News/society_clm/20170318/TokyoSports_664024.html

 

 こうした発言に大手メディアは次々と飛びついていった。


 さらに当初は森友学園を追及していたが、そこから一転して森友学園の代理人として登場したtwitterで「ノイホイ」の名で知られる菅野完氏の存在が混乱に拍車をかけることになったのも間違いない。

 

 菅野氏は多くの記者たちに囲まれる中で、単独インタヴューを行った籠池理事長の発言として。

 

 「財務省の佐川局長から身を隠すようにいわれた」
 「現職閣僚から籠池氏に現金が渡った」

 

 などの情報を流し、さらに。

 

 「内閣が二つ飛ぶ」

 

 といったさらに大きな疑惑があることを暗示するような発言を行っている。

 

「現職閣僚が籠池氏に現金渡した」発言の真偽は? 作家菅野完氏の「内閣2つ飛ぶ」爆弾告発の行方
http://www.j-cast.com/tv/2017/03/16293255.html

 

 しかし、こうした情報はほとんど信憑性のないものであると思われた。

 

 まず財務省の立場からすれば、すでに事件が公になっている以上、籠池氏がしばらくの間身を隠したところでどうしょうもないことであり、しかもそれを局長クラスがわざわざ画策するとは考え難いからである。


 すると案の定、間もなく佐川局長から電話を受けたと菅野氏が籠池氏の話からとして紹介した森友学園の代理人弁護士が、これを否定し代理人を辞職する旨を伝えるニュースが伝えられた。

 

籠池理事長の弁護士 「身を隠す」問題で辞任の意向
http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000096542.html

 

 そして残る閣僚からの現金の受け渡しについても、やはり具体的な情報が出ないままで、籠池氏の口から突如「安倍総理からの寄付金」の問題が飛び出し、マスコミ各社の報道も一斉にそちらに食いつくことになったわけである。

 

 さらにこの安倍総理が昭惠夫人を通して行ったという寄付については、菅野氏から森友学園が安倍昭惠夫人の寄付金を入金した際のものという振込用紙が証拠として提示され、これも大きくワイドショーなどで取り上げられている。

 

 こうした中で野党も籠池氏を大阪の自宅まで訪問し、籠池氏から国会に招致されればその場で証言をするという旨の発言をとるなど、菅野氏からもたらされる情報に大きく振り回されることとなった。

 

 つまり野党、マスコミとも、とりあえず籠池氏の発言に乗ったというわけである。

 

 だが、そもそもこの一連の籠池氏やその周辺から出る情報にはいかにも怪しげなものが多かった。


 しんぶん赤旗は16日付の新聞で籠池理事長の妻の証言として、2016年の10月に籠池理事長と稲田朋美大臣が防衛大臣感謝状の贈呈式の場で会っていたことを紹介したが、これは数日後にそもそも籠池理事長が贈呈式に参加していなかったことが判明し、記事が誤報であることを認め訂正する事態となっている。

 

赤旗が誤報認め「記事を取り消します」 籠池氏は稲田朋美防衛相と「会っていなかったことが分かりました」!!
http://www.sankei.com/premium/news/170318/prm1703180034-n1.html

 

さらに安倍昭惠氏からの寄付金をめぐっても、安倍総理、昭惠夫人共に寄付金を送ったことを否定しているが、この寄付金を受け取る際に、昭惠夫人に対して感謝料を渡したという籠池氏側の発言もここへ来て二転、三転している。

 

 当初、籠池氏側は「昭恵夫人を通じて受け取ったとする寄付金100万円のうち10万円を「感謝」という名目で返金した」としていたが、「週刊文春」の取材に対しては、この10万円は最初から「講師料」の名目で用意していたと答えている。

 

籠池氏“問題発覚後、昭恵夫人からメール”
http://www.news24.jp/articles/2017/03/17/04356714.html

籠池氏 昭恵夫人への講演料10万円支払いを証言
http://bunshun.jp/articles/-/1835

 

 こうなると必然的に問題はそもそも籠池理事長やその家族の証言がどの程度の信頼性があるのか疑わしいということになるだろう。
 野党は引き続き「籠池氏の証言」をもとに寄付金を否定する安倍総理や昭惠夫人との証言との食い違いを追求するだろうが、問題はその度合いだ。


 もしもここで籠池氏の証言を全面的に信じて、昭惠夫人を参考人招致することになれば、こうした発言の食い違いは致命的な矛盾ともなりかねない。
 そうなれば野党として逆に責任を問われる形となり、返ってダメージを追う可能性もあるからである。

 

 こうなると大よその幕引きの形というのは予想ができるように思われる。

 

 自民党、公明党はおそらく籠池氏の証言の信頼性を否定することで、これまでに籠池氏の口から出た昭惠夫人からの寄付などが虚偽であったことを証明したい腹積もりなのだろう。

 

 一方、野党はできるだけ籠池氏に巻き込まれない形で、つまり籠池氏の証言が仮に虚偽であったにせよ、できれば安倍政権と籠池氏の間に何かしらの関係があったことをにおわせたままで終わりにしたいのは間違いない。

 

 そして視聴者やマスコミが期待しているのは、もはや完全に追い詰められた身である籠池氏の口からどんな爆弾が飛び出すかという、そのひとつに尽きるのだ。

 

 おそらく、この問題で今後籠池氏が参考人招致される可能性はほぼないため、これで森友学園問題の「政治疑惑」は幕引きとなるだろう。

 

 今後は財務省の土地売却に関する取引が適切であったかどうかの議論になるが、これは国会で追及したところで政治案件になり難い。
 これに対しては野党側もまったく決め手がなく、与党側も財務省の内部調査を優先すると見られるため、早くても次の動きが出るのしばらく先になるはずだ。

 

 一方、森友学園の事実上の代理人となっている菅野氏などは、すでに政府と森友学園の関係から、大阪府の松井知事に追求の矛先を変えているようだが、これはすでに大阪府の問題であり、松井知事個人から安倍総理との繋がりがあることまでが明確にならない限り、国会で与野党が争点とする可能性は低いと思われる。

 

 つまり、盛り上がりに反して、実際は「あっけない幕切れ」となる可能性の方が高いというわけである。

 

 しかし、それではこれだけ世間を騒がせた森友学園とはどういう問題だったのかというとき、それはひとつにはメディアと視聴者がその物語性に踊らされていたということができる。

 

 これは森友学園の経営する幼稚園の中で、教育勅語を児童たちが唱和していたということが発覚したときからそうだろうが、ここから安倍政権の保守傾向と、戦前の道徳律とされていた教育勅語とが結びついたことで、安倍総理やその周辺が「戦前回帰の教育を行う学校を応援していた」という物語性がまず生まれてしまったことにある。

 

 このために、安倍政権と森友学園との繋がりばかりが疑われ、何か国ぐるみでの森友学園への優遇が行われたのではないか、という話になってしまったわけだ。

 

 実際、人はこうした一見すると「真実らしい物語」には弱い。
 そのため何が事実であるかを見定めるよりも先に、少しでもそれらしい疑惑を探すことに関心を持つものである。

 

 つまりこの事件の虚しさとは、そうした物語の虚構のために生じたものであり、実は事件そのものの解明とはまったく無関係であったことによるのだろう。

 

 昨今「フェイクニュースはなぜ生まれるのか?」という問題がメディアで提起されているが、今回の問題はそうしたテーマに対して、多くのサンプルを提供してくれたように思えてならない。

 それは結局、どんな情報を信頼するかということは、大手メディアにしても個人にしても、あまり変わらない側面がある、ということである。

 

 

 今回も読んでいただき、ありがとうございました。