中国、「不良債権」4大銀行の利益急減「忍び寄る信用危機」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「不良債権」4大銀行の利益急減「忍び寄る信用危機」



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中国の銀行が危ない
帳簿に隠す資産運用

7月と8月。相次いだ中国経済への衝撃は今、ようやく癒えてきた感じもする。上海株価は一時3500ポイントを回復した。凍結していたIPO(新規株公開)も、一部で解除する動きが出ている。

こうした状況を見て、一部で株価底入れ感が出ている。だが、中国経済の抱える根本問題は、何一つ解決していないのだ。それどころか、不良債権が激増しており、12月と予想される米国の利上げがもたらすショックで、中国からの資金流出懸念が高まっている。「中国信用危機説」の根拠がこれだ。

上海総合指数は11月5日、前日比1.8%高の3522.82で取引を終えた。8月26日の底値から20%余り上昇した計算だ。過去最長の935日に及ぶ強気相場を終え、弱気相場入りしたのは約4カ月前の6月29日である。現在、再び強気相場に転じたとはいえ、弱気相場入り前の6月12日の最高値に比べればなお32%ほど低い水準にある。今回の株価回復を主導したのはハイテク、金融、工業株などである。この株価上昇の裏には、中国政府の動きが指摘されている。

『ブルームバーグ』(11月6日付)は、次のように報じた。

①「国や政府系ファンドが株式を購入しているようだ。このような当局の対応で、広範な市場で急速に市場心理が改善されたのではないかと分析されている。国信証券のトレーダー、ツァオ・ビントン氏は『一部投資家は、金融株の上昇で強気相場が戻ってきたと感じている。第13次5カ年計画の内容は市場にとってプラスだった。上海総合指数は3500を上回り、市場にさらなる投資家を呼び込んだ』と話した。クレディスイスの中国ストラテジスト、チェン・リー氏は、『ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)ではなく流動性に支えられた株価上昇だ』と分析。中国経済と企業収益を懸念して、外国人投資家は株式購入に参加していないと説明した」。

今回の株価回復の裏では、公的資金が動いており、これが安心感を煽っている。とりわけ、第13次五カ年計画(2016~20年)が、6.5%以上の経済成長を「公約」した形である。これが支援材料になって、金融株などが買われている。だが、外国人投資家は先行きを警戒、株式相場に対して慎重である。

外国人投資家が冷めた目で眺めているのは、中国経済と企業収益に懸念を深めていることが理由である。冷静に見れば、上海株は値上がりするよりも、値下がり懸念のほうが強い。米国の利上げが、新興国からのドル資金流出に拍車をかけると予測されているからだ。その場合、最大の被害国は中国になる。これが世界市場では、圧倒的な見方になっている。中国要警戒なのだ。

現在の反発相場では、皮肉にも金融株が先導役を務めている。金融株こそ、中国経済の台風の目である。「知らぬが仏」とは言うものの、余りにもマクロ経済の常識を無視した動きだ。中国は、経済常識の「エアーポケット」という感じが強い。

中国の銀行が危ない
『ロイター』(11月13日付)は、「2016年に忍び寄る新興市場の信用危機」と題して、次のように報じた。

②「債務残高が多くてもデフォルト(債務不履行)は少ない──。そうした状況の再来を楽しんでいた世界だが、来年は激しい衝撃が待ち構えているように思われる。米連邦準備理事会(FRB)が12月の利上げを準備し、ドルが再び上昇を始める一方、中国からマレーシア、ロシア、さらにはトルコ、メキシコ、ブラジルに至る新興市場諸国で企業・家計の債務が警戒水準まで積み上がっていることに対して、この5年間で、(最大の)懸念が高まっている」。

一口に「新興国」と言えば、焦点が拡散されてしまい、具体的にはどこの国を指しているのか判然としない。だが、後のパラグラフでは「中国」そのものであることが分かる。世界政治の上では、中国が米国と対立するなど派手に振る舞っている。その中国が、世界経済の波乱の目になるという印象を持ちにくいかも知れない。中国軍部は、それとも知らず南シナ海で今日も埋め立て工事をやっている。今後、「経済破綻」に見舞われれば、撤退する時期がこないとも限らない。ものの哀れとは、こういうことを指すのだろう。

中国経済の生命線は、米国に握られている。FRB(米連邦準備制度理事会)が決定する利上げが、中国からのドル資金流出を促進するからだ。中国の置かれている立場は、米国に対して「新しい大国関係の樹立」を呼びかける大国ではない。ただの「新興国」に過ぎず、米国の利上げを怯えながら眺めている「弱小国」である。このギャップこそ、中国の本当の姿である。私が一貫して主張しているように、中国が日本と張り合える経済的な実力はない。ましてや、米国と覇権争いする資格もない国である。それを錯覚しており、跳ね上がっているのだ。

③「このような債務不履行の見通しが気がかりなのは、これまでに積み上がった債務が大きく、この2四半期の資本流出に伴う新興市場諸国の信用逼迫が懸念されるからだ。JPモルガンの試算では、流出した資本は5700億ドル(約69兆9000億円)という前例のない水準であり、約3分の2は中国からの流出である。対国内総生産(GDP)比で見た債務総額もやはり増大している。対GDP比で見た家計、非金融企業、公的部門を合わせた債務総額は、2007年以来約44%ポイント上昇し165%になっている。こうした背景を考えると、与信環境が厳しくなりデフォルトが増加するという見通しは冷水を浴びせられるようだ。債務増大の大半を占める中国ではなおさらである」。

JPモルガンの試算によれば、最近の2四半期で新興国市場から流出したドル資金は、5700億ドル(約69兆9000億円)という前例のない水準に達している。そのうち、約3分の2は中国からの流出である。つまり、約3700億ドル余が2四半期で流出したのだ。中国はこの実態を隠して、世界のあちこちでドルをばらまいて歩いている。あたかも、世界の覇権国のような振る舞いをしている。その足元では、滔滔とドルの流出が起こっていたのだ。

マッキンゼー国際研究所による中国の抱える債務総額(対GDP比)は次のようになっている。

     2000年   2007年  2014年
政府     23%     42%    55%
非金融企業  83%     72%   125%
家計      8%     20%    36%
(注:2014年は4~6月期現在)

上記のデータを見ると、2007年から2014年にかけての債務の増加が急増している。とりわけ、非金融企業では対GDP比で72%から125%へと膨張している。生産者物価指数(PPI)は今年10月、44ヶ月連続で前年比マイナスを続け、月を追うごとに下落幅を拡大している。最新データでは、前年同月比マイナス5.9%である。この下落率を勘案すると、企業債務が返済不可能である。デフォルトは不可避だ。中国政府がどれだけ繕って、2016年以降の「6.5%以上の成長」を公約しても、「口約束」であることは疑いない。中国経済はここまで追い込まれている。

④「20カ国・地域(G20)などが参加する金融安定理事会は11月9日、銀行の自己資本規制に関する危機以前のルールについて、新興市場諸国への適用免除措置をすべて撤廃した。専門家らの試算では、中国の4大銀行がこの新たなルールに適合するため、最大4000億ドルの資本上積みをしなければならない可能性がある。こうなると、中国政府がこれら4大銀行に対して経済成長のテコ入れを求めているのとは裏腹に、融資引き締めへの圧力が生じる可能性がある」。

世界経済に大きな影響を与える「新興国」と言えば、それは中国を指している。これまで、新興国の銀行は自己資本規制に関すルールの適用を免れてきた。今後は、その「特典」を外すことになったのだ。これに伴い中国4大銀行は自己資本積み増しを必要とし、最大4000億ドル(48兆円)に上る。一行平均1000億ドルである。この措置の狙いは、巨大銀行が経営破綻に陥った場合、政府が税金を投入した救済を避けるため、リスク資産に対する社債や資本などの割合を、2019年に16%、22年に18%の2段階で引き上げるよう求めている。18%時の追加の調達額は、世界全体で約60兆円と試算されている。大半は、前記のように中国の銀行の必要分(48兆円)となっている。

中国政府が、景気テコ入れ策で大きな役割を期待している4大銀行は、資本積み増しの必要上、逆に融資規模の削減策すら予想される。こうなると、貸出増加は極めて難しくなる。銀行が景気テコ入れで期待に応えられないとなれば、中国政府はどうするのか。財政支出の拡大である。すでに、その前哨戦が始まっている。

『ブルームバーグ』(11月13日付)は、次のように伝えた。

⑤「中国財政省が11月12日発表した10月の財政支出は前年同月比36.1%増で、財政収入は8.7%増に止まった。歳出拡大ペースが、歳入を大きく上回っている。製造業や不動産投資の鈍化が景気の重しとなる中で、今年の経済成長率目標達成を目指す政策当局の決意を裏付けた。1~10月の財政支出は前年同期比18.1%増、財政収入は7.7%増である。同省は、『景気下振れ圧力と構造的な減税などに伴い、財政収入は今後2カ月、相当な厳しさに直面するだろう。歳入の伸びが鈍る中で、主要な歳出の全てを確実に達成するため財政支出が迅速化されている』と説明した」。

すでに、歳出規模が歳入規模を大幅に上回る状態に落ちこんでいる。1~10月で、歳出は前年同期比18.1%増、財政収入は7.7%増である。この傾向は今後、かなり長期間にわたり続くに違いない。2016年以降の5年間、政府の公約する「6.5%以上の成長率」は、財政赤字で賄うとすれば「自殺行為」である。日本経済の「失われた20年」の轍を踏むことになろう。

帳簿に隠す資産運用
『大紀元』(11月12日付)は、次のように伝えた。

⑥「中国4大国有銀行が10月末発表した1~9月期決算報告によると、国内の景気低迷で同期の増益率は1%台に下回った。11月1日付『華爾街見聞』が報じた。4大国有銀行の中国銀行、工商銀行、建設銀行、農業銀行の決算報告書によると、前年同期比でそれぞれの増益率は0.79%、0.65%、0.73%、0.57%になった。中でも、中国銀行の7~9月期連結決算は前年同期比で純利益は1.5%減の407億元(約7733億円)になった。工商銀行も同8%減少したという」。

中国は、不良債権の発生をひた隠しにしている。だが、「頭隠して尻隠さず」である。論より証拠である。不良債権への引当金積み増しで純利益が減少している。4大銀行の今年1~9月累計増益率は、いずれも1%未満である。7~9月期に限れば、中国銀行は前年比で1.5%減益。工商銀行は同8%減益である。いかに不良債権処理が経営の重圧になっているかを証明している。

国有銀行は、国有企業の「指定銀行」である。4大銀行ともなれば、名だたる国有企業が貸出先であろう。その国有企業の経営が不振であるから、国有銀行の利益状況が悪化しているのだ。国有企業は非効率経営の典型例である。経営トップは、中央政府では「閣僚クラス」とされている。彼らに経営センスがあるはずがなく、民間企業がオリジナル製品を開発しても、簡単に真似してお茶を濁している。「イノベーション」意欲がゼロの集団である。

非効率極まりない国有企業が、今後とも中国経済の中核的な存在である。習近平氏はこう宣言した。この状態で、中国経済の将来に希望が持てるだろうか。在日中国人で熱烈な愛国エコノミストですら、国有企業の「解体」を主張している。習近平政権は、非効率な国有企業を存続させなければ保たない政権である。彼を支える「太子党」が、国有企業に利権を持っているからだ。ここに、彼の限界がある。

⑦「4行の連結決算報告をみると、不良債権比率に関して農業銀行が2.02%と2%台を突破したほか、工商銀行、建設銀行と中国銀行は平均的に1.45%前後になっている。国内外の専門家は、当局の公表に不信感を示している。CLSA証券は10月中旬に発表した研究報告において、中国銀行業の不良債権比率は8.1%以上で、政府当局の公表した1.5%よりも6倍近く高くなっているとの見解を示した。また、中国のシャドーバンキング問題に詳しい朱夏蓮氏は、『ブルームバーグ』(10月30日付)に対して、中国銀行業の不良債権比率は20~21%、もしくはその水準を上回っていると発言した」。

中国政府は、国有銀行の不良債権比率さえも「ねつ造」している。これだけ嘘八百を重ねてくる国家も珍しい。4大銀行の不良債権比率は、2%前後の数字しか公表しないが、実際はどれだけあるか分からない。4大銀行を含む中国銀行業全体の不良債権比率は、20~21%に達しているとの推計も存在する。20カ国・地域(G20)などが参加する金融安定理事会が、新興国の銀行業、とりわけ中国の4大銀行に焦点を合わせた資本積み増し計画を迫ったのは当然である。中国は外交舞台では派手に動くが、経済分野では自らが問題の焦点になっている。国際経済会議では、隅の方で小さくなっているのであろう。

⑧「不況で収益が大幅に減少した中国金融業は、収益性の高いシャドーバンキングの金融派生商品への投資を拡大している。『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(11月1日付)によると、中国4大銀行を含む多くの金融機関はこれまで、信託投資、信用担保などシャドーバンキングの金融派生商品に投資してきた。中国招商銀行の今年1~9月期の投資収入は前年同期比58%増。主に信託受益権との金融派生商品に投資してきた。また『定向資産管理計画』(日本の投資一任運用商品に相当)を運用してきた中信銀行の投資収入も同32%増になったという。WSJは専門家の話として、シャドーバンキングの金融派生商品は、中国金融機関の投資収入の4分の3を占めているとした」。

ここに、銀行業にあるまじき行動が曝かれている。4大銀行を先頭にして、高利回りのシャドーバンキングによる金融派生商品へ投資しているというのだ。銀行業は、「サウンドバンキング」という名の通り、銀行破綻を招かない健全経営が基本である。だから、資本でも他産業には見られない規制がある。この銀行経営の原点を忘れた「暴走経営」には、呆れて二の句が継げない。これこそ、中国社会が儲かるものなら何でも手を出す。そういう危うい「ダボハゼ経営」の実態を示している。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』の報道によれば、中国金融機関では投資収入の4分の3がシャドーバンキングの金融派生商品によるという。シャドーバンキングと言えば、これまで不明朗経営でしばしば問題を起こしてきた「非銀行業」である。公式には、政府の規制によって取締対象になっているはずである。現実には、法の裏をかいて高利を貪っているというから、中国という社会は規範がゼロ同然なのだろう。これでは、独裁者がやりたい放題の政治を行うはず。規範が働かない社会である。

⑨「WSJは、『これらの投資項目はバランスシートに記入されることがなく、識別かつ評価しにくく、債務不履行を防ぐことも難しい』と指摘した。金融大手UBSグループにより、シャドーバンキングの金融派生商品の資産品質が悪化し続ければ、貸付準備金への圧力が強められることが示された。中国の金融機関が、シャドーバンキングの金融派生商品への投資を増やすことで、金融危機が発生する際、これらの資金が市場に流れることが難しく、リスクを増やすこととなるとWSJは警告した」。

金融機関は、シャドーバンキングの金融派生商品保持を貸借対照表(バランスシ-ト)に記載せずに済ませている。いかに杜撰な金融機関経営であるかが分かる。私はここで、「中国経済はもうダメだな」という実感を深める。

個人的な感想を書かせていただきたい。私を金融論で指導した樋口午郎教授(故人)は、古典的金融論の視点から「サウンドバンキング」について、徹底的に分析されていた。当時の、ケインズ流金融論とは異なった角度だ。今になって、樋口教授の教えが生きた知識として蘇る。理論は、流行のものよりも古典こそ生きた知識を与えてくれるもの。中国のデタラメな銀行行動を見て、その思いが一層強くなるのだ。


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(2015年11月25日)