本ページのアクセス数がとても多いため、もっと詳しく書きました。
http://ameblo.jp/nakajima-themepark-labo/entry-12252326388.html
オリエンタルランドの労働組合の特徴 −社員親睦会を前身とする御用組合−

*本稿は2016年10月発売予定の中島 恵(2016)『観光ビジネス』三恵社に掲載されています。
*アクセス数が多く、何か出版されていないと何にも引用できないと思い、出版することにしました。

観光ビジネス/三恵社

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「夢と魔法の王国」の御用組合
-オリエンタルランドの労働組合-


中島 恵

東京ディズニーリゾート(TDR)を経営するオリエンタルランドの労働組合はどのような性格の組織なのだろうか。
東京ディズニーランド(TDL)開業から5年目の1988年、TDLは有名になった。その頃、TDLの労働組合(労組:ろうそ)が、組合名、役職名、大会名を全てカタカナにしたユニークな労組として日経新聞で「おとぎの国の明るい闘争」として報道された。TDLを経営するオリエンタルランドの従業員が1987年2月に結成、組合名「OFS」(オフス:Oriental Land Friendship Society)、委員長はチェアマン、執行委員はエグゼクティブ、大会名オールメンバーズミーティングである。若いメンバー(組合員)に向けて労組の暗いイメージを一掃する目的であった。組合の組織率が年々低下し、若年層の組合離れが進む中、上部団体のゼンセン同盟や他の単産が労組のニューウエーブと注目していた。1983年4月のTDL開業とほぼ同時に誕生した社員親睦会が組合の役割を果たしていたが、「将来、経営の悪化やトップの交代があった時、親睦会のままでは心配」との声が高まり、正式労組としてOFSが誕生した。しかし組合旗、鉢巻、ビラはなく、代わりにファッションブランドを思わす金色鮮やかなロゴマークをつくった。チェアマンの佐藤健司氏は、メンバー1,860人の平均年齢が27.5歳の若い組合で、従来の労組にとらわれずメンバーと気軽にコミュニケーションが図れる明るい雰囲気づくりをめざしたとコメントした。1988年3月、OFSは初めて本格的な春闘を迎えたが、「春闘」という言葉も使わず、賃上げ要望書も提出しなかった。労使のミーティングの場で決めていく方針であった。アメリカのディズニーランドで1984年秋に賃金凍結をめぐって3週間のストライキがあったことについて佐藤氏は、「イメージが売り物のレジャー産業であってはならないこと」と労使協調路線を強調した。今後の課題として佐藤氏は、(1)浦安市最大の企業労組として市議会など政治への参加、(2)約7,400人のパートタイマーの組織化をどうするかを挙げた。若年層を中心とした労働者の意識の変化、パートタイマー増加などから全国の労組の組織率は27.6%(労働省調べ、1987年6月末)と、12年連続低下していた。産業別雇用者数で2位でありながら組織率が16.7%と低いサービス業での組織化は労働界にとって緊急課題であった。OFSの上部団体、ゼンセン同盟の三ツ木宣武組織局長は「今の若い人には労働者という意識がない。例えばブティックの店員をハウスマヌカンと呼ぶように横文字の方が若者に受け入れられやすいわけで、OFSの出現も時代の流れと言える」と分析している。

日経各紙でオリエンタルランドの労組が報道されたのはこれだけである。それ以外は、ゼンセン同盟に所属する労組一覧にオリエンタルランドが箇条書きで載っているだけである。

ゼンセン同盟とは、2013年11月現在はUAゼンセン、全国繊維化学食品流通サービス一般動労組合同盟の略で通称である。オリエンタルランドは、総合サービス部門(827組合、約41万人)に所属している。「オリエンタルランド」としてではなく、「東京ディズニーリゾート」として加盟している。東京ディズニーリゾート(TDR)内のパートナーホテルの「オリエンタルホテル東京ベイ」(旧新浦安オリエンタルホテル、オリエンタルランドの子会社ではなく、資本関係は無い)、2013年2月に買収してオリエンタルランド傘下とした「ブライトンホテルズ」もここに加盟している。TDR以外のテーマパークでは「後楽園」「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」「ホ-クスタウン」「ハウステンボス」「シーガイア」もここに加盟している。

この労組OFSの初代委員長(チェアマン)の佐藤氏は、アメリカのディズニーランドで3週間のストライキがあったことについて、イメージが重要なレジャー産業であってはならないこととコメントしたことから、労組のトップとして会社と闘う方針ではなく、労使協調という名の御用組合だったと言える。その後もオリエンタルランドの労組の活動が報道されないことからも温厚で従順な労組と推測できる。

アメリカのディズニーランドでのストライキとは、1984年9月25日から約3週間続いた1,884人の従業員によるストライキで、労使協約改定交渉が決裂したことによる14年ぶりに起こったストライキである。カリフォルニア州アナハイムのディズニーランドでストライキが続けられる中、営業は平常通り行われたが、プラカードを掲げた従業員がピケットラインを張る中を異来場者は入園していった。周辺のホテル業者はストライキを嫌った客離れに悲鳴の声を上げていた。会社は同年9月初めに入場者の頭打ちなどを理由に16%の賃金カットを提示したが、景気回復に沸くアメリカ産業界の実態を目のあたりにした組合は猛反発した。「地球上、最も楽しい場所」という有名な看板を掲げたディズニーランドで3週間もストライキが行われ、イメージ低下につながった。

1988年当時の日本はバブル景気であった。オリエンタルランドは開業以来の急成長が続き、有名企業となっていた。この頃から銀行借入による初期投資を回収し、黒字を出せるようになっていた。その段階では、労組のトップは会社と闘う姿勢を見せる必要は無かっただろう。初代委員長(チェアマン)の佐藤氏はどのように選出されたのであろう。オリエンタルランドのキャスト(アルバイト)は従順に従う従業員しか雇わないようようである。それなら労組のトップはなおさら御用組合として従業員を平定する能力のある正社員をトップにしたのではないかと推測できる。オリエンタルランドはこのようなことを公表しないため、推測しかできない。

2010年に福島文二郎氏による『9割がバイトでも最高のスタッフが育つディズニーの教え方』がヒットし、オリエンタルランドの従業員に占めるアルバイトの比率が約90%だということが周知された。
全従業員の何%が労組に入っているかを組織率という。全従業員とはパート・アルバイトを含む。労組は組織率を高めたいが、サービス業では従業員に占める正社員比率が低く、組織率は低い傾向にある。労組は過半代表権を握り、会社と交渉したい。弱い立場の非正社員こそ労組に入って守られるべきであるが、「キャストの世界観」を形成するほどホスピタリティ志向の強い陶酔したキャストが春闘などでオリエンタルランドと闘うとは考えにくい。アルバイトから契約社員に、そして契約社員から正社員に上がりたいキャストにとっては、組合活動は控えたいであろう。そのような知恵や知識が無い若年者が多いのかもしれない。日本の若年者なら、ストライキという名前は知っていても、それが何かほとんど知らないのではないか。労働条件に不満があってもストライキや労組の交渉を通して改善しようと考えないのであろう。オリエンタルランドの従順でおとなしい労組は、1988年以降の日本に設立されたことにもよる。

キャストは夢を壊すことを絶対にしないように教育されている。そのため労働条件に不満があっても夢を壊す発言をしないのであろう。キャスト同士で教育し合う風土であるため、一人だけ会社の方針に反論することは難しいのではないか。
このような背景から、オリエンタルランドの労組はほとんど存在感も活動も無いまま推移しており、それで特に何も報道されないのであろう。
それに比べて、アメリカとフランスのディズニーランドの従業員は、日本と違って活発に労使交渉やストライキを行っている。おそらく国民性の違いであろう。
さらに、アメリカやフランスの労働法は、日本の労働法と大きく異なる。アメリカの労働法は、業績低迷事業のレイオフ(一時解雇)を認めている。フランスではストライキが頻発している。その一環でディズニーランドの従業員も賃上げ(賃金を上げる)要請をしたのであろう。

同じディズニーランドの従業員とは思えないほど、アメリカとフランスの従業員は会社に従順に従わない。これが一般的なアメリカン人労働者、フランス人労働者である。「夢と魔法の王国」と言う言葉をディズニーは好んで使うキャッチフレーズである。しかしそこで働くとなったら、夢でも魔法でもない。現実的な労働である。

「アメリカのディズニー社のレイオフとストライキ
-二大経営者ウォルト・ディズニーとマイケル・アイズナーの思想比較-」
を書きました。
FDFはこちら
http://www2.meijo.ac.jp/mei-kanken/n12-2nakajima2.pdf

「ディズニーランド・パリの経営不振と人員削減-ユーロディズニー S.C.A. の労働組合の動向-」
FDFはこちら
http://www2.meijo.ac.jp/mei-kanken/n12-2nakajima1.pdf

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを経営する㈱ユー・エス・ジェイの労働組合について こちらに若干書きました。
http://ameblo.jp/nakajima-themepark-labo/entry-11892449637.html

オリエンタルランド労組の初代チェアマンが役員に昇進
http://ameblo.jp/nakajima-themepark-labo/entry-12267443428.html

<参考文献>
[1]1988/03/17 日本経済新聞 夕刊 19頁「東京ディズニーランド、おとぎの国の明るい闘争――用語すべて横文字(88春闘前線)」
[2]UAゼンセン「加盟組合」2013年11月
16日アクセス http://www.uazensen.jp/about/kamei.html
[3]1984/10/05 日本経済新聞 夕刊 3頁「危うし、ディズニー王国――株集め、ストに揺らぐ(ニュースの周辺)」