長さ 13.2cm、重さ 15g、ブレードの最大幅 1.85cm、柄の最大幅 1.4cm、柄の最大厚み 2mm弱、1901年 バーミンガム

今から百年以上前に作られたスターリングシルバーのナイフです。 もともとはバターナイフとして作られた銀製品です。 とても装飾性の高い銀製ナイフで、もちろんバターナイフとして実用されてもOKですが、現代的な用途としては、デスク周りでペーパーナイフとしてお使いいただくのもありかなと思います。

ブレードの先端に向っては、ヴィクトリア時代に好まれた植物文様のファーンパターンが見られます。 また、ブレード部分に斜めに引かれた短冊状の彫刻や、ブレード下方の扇形四分円の彫刻は、ジャポニスムのモチーフブックに見られるデザインです。

 

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裏面にはメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1901年のデートレターが刻印されています。

1901年という製作年を考え合わせると、ヴィクトリアンのシダ模様好みと、ジャポニスムの影響が色濃いエドワーディアン アンティークと言えましょう。

ファーン(Fern)パターンとは、シダ模様を指します。 19世紀のイギリスにおいては、稠密かつ精巧なナチュラルデザインとしてファーンが好まれ、コンサバトリーで育てる人気の植物となっていました。 ウォード箱を使ってさまざまな種類のファーンを収集することも広く行われておりました。 そうしたことが背景にあって、ファーンパターンはヴィクトリアン装飾の中でも特に人気の高いモチーフのひとつとなったのでした。 ヴィクトリアンのフラワーコード(花言葉)によれば、FernにはFascination(魅惑)、Magic(不思議な力)、Sincerity(誠意)といったコードがあてられています。

 

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ヴィクトリア時代のイギリス人のシダ好みについては、以下のアンティーク ポストカードもご参考まで。
Amber 宝石言葉 I draw you to me. アンティーク ポストカード(未使用)

ブレード部分のエングレービングは基本パターンは深めな彫りで、背景部分は細かな鍵彫りの二重ラインや、限界的な彫刻線の重ね彫りなど、レベルの高い手仕事となっております。 写真では十分にその繊細さがお伝え出来ませんが、アンティークハント用のルーペがお手元にあれば、眺めているだけでも楽しめるアンティークに仕上がっています。

また、柄先に向かって、Cスクロールを複合させた波模様デザインが見られたり、格子模様のレリーフなど綺麗で、見所のおおいエドワーディアン アンティークと思います。 スクロールパターン(渦模様)の中でもアルファベットの「C」の形状をしたものを Cスクロールと呼びます。 柄先に向かうエッジ部分に波しぶきのように見られるレリーフのデザインです。 スクロールは波模様デザインの派生形でもあり、また重要なケルティック モチーフでもあります。 波模様のウェーブパターンは、Continuation(続いていくこと)や Eternity(永遠)を象徴するクリスチャンモチーフで、ヴィクトリアンやエドワーディアンの時代に好まれました。

写真のアンティークが作られた当時の時代背景につきましては、英国アンティーク情報欄にあります「14. Still Victorian」の解説記事もご参考ください。 

1853年のペリー来航以来、日本の工芸が広く西欧に紹介され、英国シルバーの世界にも日本の伝統的なモチーフとして蝶などの虫、飛翔する鳥、扇、竹、さくら等のデザインが取り入れられていきました。1870年代、80年代のこうした潮流はオーセンティック ムーブメントとして知られています。

サムライの時代が終わった頃、1870年代前半における英国のジャポニスム取り込みについては、英国アンティーク情報欄の「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治新政府の岩倉使節団」記事後半で詳しく解説していますのでご覧になってください。

その後のジャポニスム研究は、モチーフブックなどの成果となって、以下のような書籍が次々と発表されていきます。
「Art and Art Industries of Japan(1878年、 Sir Rutherford Alcock)」、 「A Grammar of Japanese Ornament and Design(1880年、Cutler)」、「Book of Japanese Ornamentation(1880年、D.H.Moser)」

そして1880年代の後半にはジャポニスム モチーフブックの集大成である「Japanese Encyclopedias of Design(Batsford)」が出て、Japanese craze(日本趣味の大流行)のピークとなりました。

ヴィクトリアン後期の英国にあってはジャポニスムが新鮮で、大きな顧客需要があり、モチーフブック等の基礎資料も充実していたことが、今日私たちが日本趣味な英国アンティークにお目にかかれる理由なのです。 百数十年も前に多くのイギリス人たちが日本に大いなる関心を持っていたことには驚かされます。

ちなみに、イギリスにおけるジャポニスム研究書のさきがけとなった「Art and Art Industries of Japan(1878年、 Sir Rutherford Alcock)」の著者であるオールコックという名前、聞いた覚えのある方もいらっしゃるかと思います。

サー・ラザフォード・オールコックは、幕末の日本で数年間暮らしたイギリスの初代駐日公使です。 当時のイギリス公使館は、現在の品川駅から徒歩七分、港区高輪の東禅寺に置かれていましたが、オールコック在任中には、攘夷派浪士が英国公使館を襲撃した東禅寺事件など起こっています。 まさに命がけの日本勤務であったろうと思います。 彼は幕末日本滞在記である『大君の都(岩波文庫 上・中・下)』も残しています。

オールコックと言えば、幕末期のイギリス外交官としての仕事に注意が向きがちですが、一方では日本美術に傾倒し、「Art and Art Industries of Japan(1878年、 Sir Rutherford Alcock)」という著作も残しているわけで、日本のよさを広く海外に紹介してくれた、よき広報官という側面もあったのでした。

オールコック初代駐日公使、「Art and Art Industries of Japan」、ヴィクトリア時代のJapanese craze(日本趣味の大流行)、ジャポニスム研究、数多くのモチーフブック等々、こういう歴史的な背景があって、イギリスで作られ現代に到っているスターリングシルバーのナイフというわけです。 http://www.igirisumonya.com/20192.html

 

 

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